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FIPドライタイプ(非滲出型)の仕組み

画像:pixabay user:Lolame


今回はドライタイプ(非滲出型)の仕組みと、
関係してくる免疫反応の一部をご紹介させて頂こうと思います。
治療には関係ありませんので、興味のある方だけご覧下さいませね。


・初めに

筆者はFIPの論文などに出てくる免疫反応や、
それを引き起こす物質などの各名詞から、
それぞれの情報をひとつひとつ調べていくという形を採っています。

なので参考にしているのはFIPに関する資料だけではなく、
FIPによって起こる免疫反応や、
それを引き起こす物質に関する資料が多くあります。

免疫反応は何か一つの物質で成立することは決してなく、
種々の物質の連鎖反応によって、複雑な過程を経て成立します。
よって、ひとつの名詞を調べれば、それに関する多くの免疫反応や、
それに関する物質を調べていく事となります。

その為、筆者が調べている情報には実際にFIPとどこまで関係してくるかの解明がなされていない情報が含まれている可能性がある事を、予めご了承下さい。

また、興味はあるけどお時間のないという方は、
各項目にある「簡単なまとめ」をご覧下さい。


1.ドライタイプの仕組みと細胞性免疫

FIPのドライタイプは「細胞性免疫」が弱く、
もしくは異常に働いた事でIV型アレルギーを発症して起こります。

細胞性免疫とは、

食細胞

細胞傷害性T細胞 (別名:CTL、キラーT細胞)
ナチュラルキラー細胞

これらの担当細胞が、体内の異物を
”抗体を作らず”直接排除する免疫反応のことです。

つまり癌やウイルス、それらに侵された細胞を排除してくれるんです。


「細胞性免疫 - Wikipedia」
「細胞傷害性T細胞 - Wikipedia」
「ナチュラルキラー細胞 - Wikipedia」


食細胞:
食作用をもつ細胞。
マクロファージ、好中球、樹状細胞(ランゲルハンス細胞)からなる。

食細胞 - Wikipedia
食作用:
細菌やウイルスなどの異物を分解する仕組み。
抗体が捕まえた異物も、抗体ごと貪食して処理する。

「食作用 - Wikipedia」


前回の記事、「FIPウエットタイプ(滲出型)の仕組み」
「・FIPを完治させるための「細胞性免疫」」でも触れておりますが、
細胞性免疫はFIPを完治させる為に非常に重要な免疫反応です。

何故なら抗体を作る液性免疫では、
FIPV(FIPウイルス)は増え続ける一方
だからです。

詳細は前回の記事をご覧頂きたいのですが、
液性免疫が作る抗体はそのままFIPVの住処になります。
ウエットタイプの進行が早いのはこの為だと思われます。

なのでFIPを完治させる為には、
ウイルスを直接殺す細胞性免疫を働かせるしかない
んですね。


所がこの細胞性免疫も、
異常を起こすとドライタイプの原因になってしまうんです。

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簡単なまとめ

細胞性免疫は、
・抗体を作らずにウイルスを直接殺す免疫
・FIPを完治させる免疫
・ドライタイプの原因

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・神経症状はなぜ起きるか

ドライタイプの代表的な症状は「神経症状」です。
この神経症状は、「肉芽腫」によって神経が圧迫された事が原因で起こります。
※FIPで発現する肉芽腫は「化膿性肉芽腫」

神経症状:
脳や脊髄の障害、損傷により感覚麻痺や異常が起きる。


「神経症状とは - MSゲートウェイ」
「神経症状1(知覚障害、痛み、しびれ) | 医療ポータルサイト」


肉芽腫とは、異物を処理できない場合にマクロファージ等の細胞が塊になり、異物を閉じ込めて隔離する免疫反応です。


「肉芽腫 - Wikipedia」
「肉芽腫 | 看護用語辞典 ナースpedia」


つまりFIPにおいての肉芽腫とは、
「ウイルスを閉じ込めた細胞の塊」と言う事です。

この肉芽腫が出来た場所により、

脳、脊髄であればてんかん様の発作や旋回等の異常行動、
狂暴化、麻痺、痙攣、起立・歩行の不能など。

眼球周辺であればぶどう膜炎、緑内障など。

腹部
であれば嘔吐、下痢、便秘など。

FIPは体中を巡れるマクロファージをウイルスが住処にしてしまう為、
体のどの場所にも炎症、肉芽腫の形成を起こす可能性があり、
挙げ始めればきりがありません。
私が知る限りは胆管、膵臓にも病変が起きた子を知っています。


つまりドライタイプでの主症状は「肉芽腫」と「炎症」です。

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簡単なまとめ

1.ドライタイプの症状は肉芽腫が神経や臓器を圧迫して起こる
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
2.肉芽腫は処理できないウイルスを細胞が閉じ込めたもの
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
3.症状は体中のどこでも起きる
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
4.ドライタイプの主な症状は肉芽腫と炎症
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

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・なぜ肉芽腫を作るのか

上述した通り、肉芽腫は処理しきれない異物(FIPではウイルス)を隔離する免疫反応です。
正しく働けば有効な免疫反応なのですが、
FIPにおいてはこれが悪化の原因になります。

まずなぜ処理できないかと言うと、
FIPの場合はその機能、つまり免疫反応が弱い、もしくは異常だからです。

通常の健康体であれば、例え体内にFIPVが発生しても、
細胞性免疫を担うキラーT細胞などがウイルスを殺してくれます。

これがウイルスに感染しても発症しない、強い細胞性免疫を引き起こした子です。

所が免疫が弱っていると、
ウイルスを殺す事が出来ずに隔離する為に肉芽腫を形成します。
また、免疫に異常が起きている場合も同様に肉芽腫の形成が起こります。


この、肉芽腫を作る”体に不利益”な免疫反応が「IV型アレルギー」です。

※「アレルギー - Wikipedia|IV型アレルギー」

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簡単なまとめ

1.ドライタイプは
ウイルスを殺す力が弱いと肉芽腫を作ってウイルスを閉じ込め、発症する
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
2.ドライタイプは
細胞性免疫が異常を起こすと肉芽腫を作ってウイルスを閉じ込め、発症する
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
3.肉芽腫が体に悪い影響をもたらしている状態が「IV型アレルギー」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

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・肉芽腫形成の仕組みと役割

肉芽腫形成には様々なサイトカインが関わっています。
サイトカインとは、細胞が分泌する信号です。

「サイトカイン - Wikipedia」


サイトカインには種類があり、
インターロイキン(IL)
インターフェロン(IFN)もサイトカインの一種です。

・インターロイキン(IL)

インターロイキンは白血球が分泌します。
現在確認されているのはIL-1~18までで、
マクロファージの誘導や抗体の産生、炎症反応など
ありとあらゆる免疫反応を起こさせます


「インターロイキン - Wikipedia」

この中でも「IL-6」と「IL-17」は肉芽腫の形成に関わっています。(詳細は後述します)

また、このIL-6、17は「炎症性サイトカイン」であり、
つまり炎症を悪化させてしまいます。

更にFIPと病態の近い「自己免疫疾患」とも密接に関係しており、
筆者が幼い頃に罹った「若年性関節リウマチ」にも深く関与しています。


「IL-6 の多様な作用 自己免疫性疾患および炎症性疾患における IL-6 の意義」
「Th17細胞関連製品 | MBLライフサイエンス」

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

・インターフェロン(IFN)

インターフェロンはお薬でご存知の方が多いと思いますが、
元々は体の免疫反応です。
ウイルス増殖阻止、炎症の調節などを行ってくれます。

ステロイドもそうですが、
つまりは体の免疫反応を薬で補ったり誘導している訳です。

種類は3種類で、IFN typeⅠ~Ⅲがあります。


IFN typeⅠ
IFN-α:13種類(1,2,4,5,6,7,8,10,13,14,16,17,21)
IFN-β:1種類 - IFN-β1(※IFN-β2=IL-6)
IFN-ω:1種類 - IFN-ω1
IFN-ε:1種類 - IFN-ε1
IFN-κ:1種類 - IFN-κ

IFN typeⅡ
IFN-γ

IFN typeⅢ
IFN-λ1、IFN-λ2、IFN-λ3

「インターフェロン - Wikipedia」


現在、肉芽腫形成や維持に関わっていると言われているサイトカインとして、

IL-1、4、6、17、IFN-γ、TNF-α

が挙げられます。

本来ならばウイルスを隔離し、
炎症のピークが過ぎると病変部位が縮小、消失、治癒に至ります。

この一連の流れの全てにマクロファージが関わっています。

「肉芽腫形成におけるマクロファージの役割」

-以下本文一部抜粋-

組織内に菌が侵入するとマクロファージがそれを取り込むが,菌が増殖するとマクロファージも集積して肉芽腫を作り,病変を押さえ込む.
炎症が極期を過ぎるとマクロファージは炎症巣内の老廃・壊死物を除去し,種々増殖因子を介 して線維芽細胞の増殖や血管新生を促し,肉芽組織で置き換え,さらに病変を縮小させる.
このように肉芽腫中でマクロファージは炎症の発生から治癒,線維化の全過程に関与する.

-抜粋終了-

FIPにおいての肉芽腫は非常に厄介で恐ろしい存在ですが、
ドライタイプの進行が遅いのは肉芽腫がウイルスを閉じ込めてくれているお陰だと思われます。

何故なら同じ肉芽腫を作る病である「結核」では、
肉芽腫を作るサイトカインである「TNF(腫瘍壊死因子)」が欠損している場合においては肉芽腫が形成されずに、
結核菌の増加、病状の悪化が見られる
からです。

「ネイチャー:結核と肉芽腫のレビュー:その2 : 感染症の病理学的考え方」

-以下本文一部抜粋-

肉芽腫が形成されない結核症は、結核菌は増加し、更に播種を起こす。
(中略)
この中でも最も重要な者はTNFである。TNF欠損マウスで肉芽腫が形成されない事が知られている。

-抜粋終了-
※太字は筆者によるもの

つまり正しく働けばウイルスの抑制になるんです。

ウエットタイプでは抗体を作る免疫反応でウイルスを増やしてしまい、悪化が早い結果となります。
私見ではありますが、ドライタイプではウイルスを閉じ込める為に悪化が緩やかなのだと考えられます。

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簡単なまとめ

1.「IL-6」と「IL-17」は肉芽腫の形成に関わり、炎症を悪化させる
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
2.マクロファージは肉芽腫の形成から消失まで関わっている
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
3.ドライタイプの進行が遅いのは
肉芽腫にウイルスを閉じ込めるからと思われる
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
4.結核では「TNF」がないと肉芽腫が閉じ込められず、
ウイルスが増えて悪化した
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

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2.肉芽腫を作る大元、「TNF-α」

先程の話は裏を返せば、サイトカインの「TNF」を抑えてしまえば肉芽腫は形成する事が出来ないと言う事です。

正しく働いてウイルスを抑制してくれていれば勿論これは困った事ですが、FIPドライタイプにおいては肉芽腫が大敵です。

FIPで発現するのは「TNF-α」なのですが、
これはマクロファージの前身である「単球(白血球の一種)」を炎症部へ呼び、マクロファージや「類上皮細胞(活性化されたマクロファージ)」へ*分化させて固め、肉芽腫を形成します。

*分化=変化

※「肉芽腫形成におけるマクロファージの役割」


つまり「TNF-α」を産生しなければ、
肉芽腫を作る為の細胞を集める事が出来ないと言う事です。

「抗TNF-α製剤による結核発症メカニズムに関する検討」

-以下本文一部抜粋-

単球は種々のサイトカイン刺激によりマクロファージ・樹状細胞・破骨細胞・多核球に分化する。なかでもTNF-αはマクロファージ活性化や肉芽腫・多核巨細胞(Langhans-type)形成といった結核菌に対する単球の免疫防御発現にとって不可欠なサイトカインとされている。

-抜粋終了-

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簡単なまとめ

「TNF-α」が、
・ウイルスをマクロファージで固めさせ、肉芽腫にする
なければ肉芽腫は作れない

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3.肉芽腫を作る原因、「STAT3」と「Th17細胞」と「IL-6」

・「STAT3」とは

・STAT

STATとは、
「シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT:Signal Transducer and Activator of Transcription:)
という細胞の増殖や生存、分化、シグナル伝達(サイトカインの伝播)の過程を制御、遺伝子の転写などの、様々な役割を持った蛋白質です。


「シグナル伝達兼転写活性化因子 - Wikipedia」
「シグナル伝達兼転写活性化因子3 - 脳科学辞典」

STATを簡単に言うと、

細胞を増やしたり

自死(アポトーシス。後述します。)、
状況に合わせた変化
細胞間の情報のやり取り
遺伝子の複製

等を行います。

STATには1、2、3、4、5A、5B、6の7種類があります。
FIPで発現するのは「STAT3」なのですが、
これは肉芽腫を形成する為に必要な事が分かっています。

「PDLIM2がTヘルパー17細胞の発達と肉芽腫性炎症をSTAT3の分解を介して抑制する | Science Signaling Japan by COSMO BIO」

-以下本文一部抜粋-

転写因子であるシグナル伝達性転写アクチベーター3(STAT3)を標的とすることによって、TH17細胞の発達と肉芽腫応答を抑制したことを報告する。

-抜粋終了-

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簡単なまとめ

1.「STAT」とは
細胞の増殖から生死、細胞の情報共有、遺伝子の複製などを行う蛋白質
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
2.「STAT3」は肉芽腫を作る為に必要
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

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・「Th17細胞」とは

少し遠回りな話になってしまいますが、
先に「Th17細胞」を説明させて下さい。

この「Th17細胞」は、「IL-17」という炎症性サイトカインを分泌する事から付いた名です。

「Th17細胞 - Wikipedia」

その名の通り、炎症を引き起こす病気である
「自己免疫疾患」「炎症性疾患」に深く関わっており、
筆者が幼い頃に罹った「若年性関節リウマチ」にも関わっています。
そして勿論、FIPにも関わっています。

どうFIPと関わって来るかと言うと、
Th17細胞は肉芽腫を作る働きをするからです。

「Th17細胞関連製品 | MBLライフサイエンス」

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簡単なまとめ

Th17細胞は、
・「自己免疫疾患」や「炎症性疾患」に深く関わっている
炎症性サイトカインである「IL-17」を分泌して炎症を悪化させる
・肉芽腫を作る

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・Th17細胞へ分化させてしまう「IL-6」

このTh17細胞は
「ナイーブCD4+T細胞(ヘルパーT細胞[Th0細胞])」がサイトカイン刺激を受けて分化します。

「ナイーブ」とは抗原刺激を受けていない状態で、
抗原となる異物と出会うと活性化されます。

「CD4+(CD4陽性)T細胞」とは、
サイトカインのIFN-γ、IL-4、5、17等を産生する「ヘルパーT細胞」の事です。


つまり「抗原に出会わず活性化していないヘルパーT細胞[Th0細胞]Th17へ分化していく訳です。

ヘルパーT細胞[Th0細胞]はTh17だけではなく、
細胞性免疫を活性化させるTh1細胞と、
液性免疫を活性化させるTh2細胞へも分化します。
なので「Th0細胞」なんですね。

「CD4+ヘルパーT細胞分化の基礎と臨床」


このTh17への分化ですが、
二つのサイトカイン「TGF-β」「IL-6」からの
同時刺激によって引き起こされると言われています。
片方だけではTh17にはならないのです。

ヘルパーT細胞[Th0細胞]
※抗原に出会っていない未活性(ナイーブ)状態

「TGF-β」と「IL-6」の同時刺激

Th17細胞への分化

「Th17細胞|サイトカイン刺激 - Wikipedia」


こういう流れですね。
つまり片方を抑えてしまえば、
「TGF-β」と「IL-6」由来のTh17細胞への分化は阻止出来ます。

IL-6を抑えるだけでも分化の阻止が出来るということです。

他に悪い働きとして、Th17細胞は「IL-6」と「TNF-α」も分泌します。
肉芽腫を作る負の連鎖ですね。


※参考ページとして
「T細胞 - Wikipedia」
「T細胞の分化と機能」
「4. T細胞活性制御のしくみ│研究成果 -アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」

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簡単なまとめ

ヘルパーT細胞[Th0細胞]が、
・肉芽腫を作るTh17細胞へ変わる
・細胞性免疫を活性化させるTh1細胞と、
 液性免疫を活性化させるTh2細胞にも変わる
・Th17細胞へ変わってしまう原因の一つが「IL-6」

Th17細胞は、
・IL-6とTNF-αも分泌して肉芽腫を作る負の連鎖になる

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・Th17細胞へ分化させてしまう「STAT3」

Th17への分化を起こす他の原因として、
前述した「STAT3」が挙げられます。

その為、STAT3の発現を阻害するという事は=Th17細胞への分化を阻止する事となります。
実際に下の頁の研究結果では、STAT3の伝達を阻害する事で
Th17細胞への分化と肉芽腫の形成を抑制しています。

「PDLIM2がTヘルパー17細胞の発達と肉芽腫性炎症をSTAT3の分解を介して抑制する | Science Signaling Japan by COSMO BIO」

-以下本文一部抜粋-

ナイーブCD4+T細胞からTH17細胞型への分化にとって重要な転写因子であるシグナル伝達性転写アクチベーター3(STAT3)を標的とすることによって、TH17細胞の発達と肉芽腫応答を抑制したことを報告する。

-抜粋終了-
※太字は筆者によるもの


※参考ページとして
「自己免疫疾患を引き起こすT細胞の過剰な分化を抑制するメカニズムを解明 | 理化学研究所」

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簡単なまとめ

「STAT3」は、
・肉芽腫と炎症の悪化の原因である「Th17細胞」へ変えてしまう
・抑えれば同時にTh17細胞と炎症と肉芽腫を抑えられる

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・STAT3はIL-6の伝達経路

このSTAT3ですが、実はIL-6の伝達経路なんです。


「インターロイキン-6|JAK-STAT経路 - Wikipedia」

「インターロイキン6(IL-6)のシグナル伝達分子STAT3活性化制御機構の解析|北海道大学大学院 薬学研究院 衛生化学研究室」

-以下本文一部抜粋-

IL-6を中心とするIL-6ファミリーサイトカインの作用は主にシグナル伝達分子であるSTAT3によるものであることが明らかにされています。

-抜粋終了-


簡単に言うと、STAT3を塞いでしまえばIL-6は増えません。
しかもIL-6もまた、STAT3を活性化します。

「量子科学技術研究開発機構」

-以下本文一部抜粋-

炎症状態では、STAT3活性化因子の主なものはIL-6であることも示唆しており、このIL-6アンプは関節リウマチなどの慢性炎症性疾患や自己免疫疾患やがんなどに関与している

-抜粋終了-
※太字は筆者によるもの


こうして考えるとFIPは本当に悪いものが循環していると思いますが、
IL-6は炎症の悪化とTh17細胞への分化を起こしてSTAT3の活性化をし、
Th17細胞は肉芽腫を作ってIL-6と肉芽腫の大元であるTNF-αを分泌します。

つまりSTAT3を塞ぐと言う事は=IL-6とTh17細胞を同時に食い止め、
炎症と肉芽腫の産生防止になる
と言う事です。

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簡単なまとめ

・STAT3はIL-6の「道」で、塞いでしまえば増えない。
・STAT3を抑えれば同時にIL-6とTh17細胞と炎症と肉芽腫を抑えられる

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4.ウイルス感染拡大防止の為の「アポトーシス」の正常化

「「STAT3」とは」で少し触れましたが、
「アポトーシス」とは、管理された細胞の自死(自殺)の事です。

余り良い響きに思えないかも知れませんが、
これは本来、体を正常に保つために必要な事なのです。
人の指の水かきが消えるのも、おたまじゃくしのしっぽが成長につれて無くなるのも、このアポトーシスが正常に働いているからです。

アポトーシスは、ウイルスに感染された場合にも非常に重要な役割を果たします。
何故ならウイルスに感染された細胞は自らアポトーシスを行って、
増殖途中のウイルスと心中してくれる
からです。

これにより周囲の細胞への感染拡大を防ぎ、被害を最小限にしてくれます。

「免疫炎症制御研究分野 研究概要 アポトーシスと炎症」


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簡単なまとめ

1.細胞は自分から死んで
体を正常に保ち、これをアポトーシスと言う
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
2.ウイルスに感染された細胞は
ウイルスと心中する事で他の細胞への感染を防ぐ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

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・FIPにおいてのアポトーシスと「TNF-α」

FIPの猫においては、アポトーシスが悪い意味で働く事が多く見られます。

リンパ球、特に「細胞傷害性T細胞(CTL)」(別名キラーT細胞)
アポトーシスを起こしてしまい、ウイルスと闘えなくなる
からです。

「 猫コロナウイルスの抗体介在性感染増強作用に関する研究」


CTLは「・なぜ肉芽腫を作るのか」で前述した通り、
直接ウイルスと闘ってくれる細胞性免疫を担う、
完治の為に重要な細胞です。

FIPにおいてCTLがアポトーシスを起こしてしまう背景には
「TNF(腫瘍壊死因子)」が関与しています。

「感染症|猫伝染性腹膜炎の猫の末梢血リンパ球におけるアポトーシス誘発に対するTNF-アルファ関与の可能性」

-以下本文一部抜粋-

この研究結果は、ウイルス感染マクロファージにより産生されるTNF-アルファが非感染T細胞、特にCD8(+)T細胞でアポトーシス誘発を起こすことを示唆する。

-抜粋終了-
※筆者注:CD8(+)T細胞はCTLの事です

先に書かせて頂きました通り、FIPでは「TNF-”α”」が発現し、
ドライタイプではこれが肉芽腫を作ります。

このTNFは真逆の「抗アポトーシス」の働きもしますし、
正しく働けば名前の通り腫瘍を殺してくれるんです。


「腫瘍壊死因子 - Wikipedia」
「CSTジャパン - アポトーシス抑制 (Inhibition of Apoptosis)」


TNF-αはウイルスレセプターの増加にも関与していると考えられています。

「KAKEN — 研究課題をさがす | 猫TNF-αに対する抗体を用いた猫伝染性腹膜炎の治療法の確立」

-以下本文一部抜粋-

「TNF-αはFIP発症猫におけるリンパ球減少、好中球増加およびウイルスレセプターの増加に関与することが示唆されている。」

-抜粋終了-

ウイルスレセプターとは、ウイルスの受容体(感染受容体)です。
感染受容体とは細胞表面の蛋白質で、これがない細胞には感染出来ません。
要するにFIPウイルスの感染経路です。


つまりTNF-αの増加はCTLをアポトーシスに導いてウイルスを殺せなくなり、
更にウイルスの感染経路を増やしてしまい、
肉芽腫まで作ってしまうという最悪のパターンです。

この為、FIPの治療薬の一つとして抗TNF薬の研究、開発が進められています。

「猫伝染性腹膜炎(FIP)に対する抗ウイルス薬および抗TNF薬の開発」

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簡単なまとめ

1.正常なアポトーシスがFIPでは起こらず、
ウイルスを殺す「キラーT細胞(CTL)」ばかり自殺してしまう
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
2.キラーT細胞は
、完治の為に重要な細胞性免疫を担当する細胞
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
3.キラーT細胞が
FIPで自殺する原因は「TNF-α」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
4.TNF-αは
FIPにおいて、
細胞にウイルスが感染する道を作り出してウイルスを増加させる
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

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・抗アポトーシスを誘導するIL-6

Th-17細胞を作ったり炎症を悪化させるIL-6は、
実は「抗アポトーシスシグナル」を誘導します。
つまり正常なアポトーシスを邪魔してしまう訳ですね。


「KAKEN — Research Projects | IL-6ファミリーサイトカインシグナル伝達系におけるSUMO化修飾機構の解析 (KAKENHI-PROJECT-09J01853)」

「IL-6はアポトーシスを抑制し、抗アポトーシス遺伝子mcl-1のアップレギュレーションを通じてヒト胃癌AGS細胞の酸化的DNA病変を保持します。 - Bibgraph(ビブグラフ)| PubMedを日本語で論文検索」

アポトーシスが正常に作動している場合はウイルス感染細胞がアポトーシスによりウイルスと心中し、
感染拡大の防止をしてくれている筈です。

所が実態は、「TNF-α」によって誘導されたアポトーシスにより
「CTL」が死んで減少し、ウイルスは増えっぱなしです。

そしてIL-6により抗アポトーシスが働いても、
感染細胞の心中が行えずにウイルスは増えます。

つまりFIPにおいての「アポトーシス」は
どちらに転んでも正常に働くことがない
と言えます。

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簡単なまとめ

1.「IL-6」は
正常なアポトーシス(ウイルスと心中)を邪魔して
感染拡大に一役買う
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
2.
「TNF-α」が出ると、
正しいアポトーシスを起こせずに、
ウイルスと闘ってくれる「キラーT細胞(CTL)」を自殺に導く
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

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・IL-6はTNF-αによっても誘起される

実はTNF-αはIL-6を誘起する事が分かっています。

TNF-α産生

・CTL(ウイルスと闘う細胞)のアポトーシス
・IL-6(肉芽腫を作るきっかけ、炎症の悪化)の誘起、産生
※IL-6の抗アポトーシスはCTLには働かず
・マクロファージを集めて肉芽腫を作る
・ウイルスレセプター(感染受容体)を増やし、ウイルスの感染を促進

この通り、FIPにおいてのTNF-αはろくなことがありません。

「[1] TNF-α[tumor necrosis factor-α] | ニュートリー株式会社」

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簡単なまとめ

TNF-αは、
・キラーT細胞(CTL)を自殺に導く
・炎症の悪化、肉芽腫を作るきっかけのIL-6を分泌する
・マクロファージを集めて肉芽腫を作る
・ウイルスの感染経路を増やして感染拡大させる

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5.まとめ


・FIPにおいての役割

TNF-α:
炎症部分にマクロファージを呼び集めて固め、肉芽腫を作る。
欠損状態では肉芽腫は作られない。
IL-6とウイルスの感染経路を増やし、
ウイルスと闘うCTLをアポトーシス(自殺)に導く。

IL-6:
ヘルパーT細胞を「TGF-β」との同時刺激でTh17細胞へ分化させる。
炎症を悪化させる。

Th17細胞:
ヘルパーT細胞から分化した細胞で、肉芽腫を作る。
IL-6、17を分泌し炎症を悪化させる。
TNF-α、IL-6を分泌し肉芽腫の原因を作る。

STAT3:
ヘルパーT細胞をTh17細胞へ分化させる。
IL-6の伝達経路も果たす。

ヘルパーT細胞(Th0細胞):
「TGF-β」と「IL-6」の同時刺激や「STAT3」の発現で
Th17細胞に分化してしまう。
細胞性免疫を活性化させるTh1細胞と、
液性免疫を活性化させるTh2細胞へも分化出来る。


・肉芽腫形成、悪化の流れ

免疫の低下やアレルギーによって細胞性免疫が正しく働かず、
ウイルスを殺せないので「TNF-α」がウイルスのいる炎症部分にマクロファージを集めて固め、肉芽腫を作ってウイルスを中に閉じ込める。

TNF-αが
「IL-6」を分泌、炎症を悪化させる。
更にウイルスの感染経路を増やし、
ウイルスと闘うCTLを自死させて免疫が低下。

IL-6が
炎症を悪化させ、「ヘルパーT細胞」をTGF-βとの同時刺激で
「STAT3」を伝達経路にして「Th17細胞」に分化させる。

Th17細胞が
また肉芽腫を作る。
炎症性サイトカインであるIL-6、17を分泌して炎症を悪化させる。
更にTNF-α、IL-6を分泌して肉芽腫を増やす。


つまりTNF-αが分泌されなければ肉芽腫は出来ませんし、
ウイルスと闘ってくれるCTLが死ぬことも、
ウイルスの感染経路を作って増殖させる事もありません。
更にTNF-αはIL-6を増やして炎症を悪化させてしまいます。

この為「TNF-α阻害薬」はFIPの薬として重要視され、
研究がなされています。

そして肉芽腫を作るTh17細胞の分化経路、
「IL-6」の伝達経路である「STAT3」や、
分化の材料であるIL-6を絶ってしまえば一層の症状改善が見込めます。

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インターネット上で様々な情報を共有して下さる皆様、
日々研究を積み重ねて社会をより良くして下さる皆様に、
心からの御礼を申し上げます。

ご無理がなければ100円のご支援をして頂けますと、大変有り難く思います。