見出し画像

花園大学新体操部発表会

彼らの実力を侮るほど、男子新体操を知らないわけではないつもりだ。でもきっと、自分は見ているつもり、知っているつもりになっていただけだったのだろう。花園大学新体操部の発表会、彼らの全力。

やられた。
参った。
あんなすごいものを見せられるとは思っていなかった。

上野颯太郎(うえの・そうたろう)選手

上野選手とは、ロシア遠征でご一緒させてもらった。ロシアのテレビ局からの依頼で、井原高校の作品を花大のメンバーが演技してくれたのだ。

このロシア遠征のメンバーは、一言でいうと「めちゃくちゃ性格がいい」ので、私はたちまち彼らのファンになった。その中でも、カメラを向けるとちょっと照れながらもにっこり笑ってくれるのが上野選手だった。

4年生になった上野選手は、団体のリーダーを務めるようになった。去年の春に花大に取材に行った時、彼の存在感とリーダーシップがとても頼もしくて、「ああ上野君が4年生になったなぁ」と感じた。

昨シーズン。全日本インカレにもジャパンにも出場しなかった上野選手の姿を会場で見かけても、声はかけられなかった。ただ心の中で「頑張れ」と祈るだけだった。

…発表会の最後の演目である集団演技が終わった後、上野選手のあごから汗がポタリと一滴、したたり落ちた。彼はじっと前を見つめていた。私はカメラをズームしたまま、しばらく動かせなかった。また汗がポタリと滴った。彼はずっと前を見つめていた。心に去来したのは、どんな思いだっただろうか。

スクリーンショット 2020-02-23 10.19.14

発表会が終わった後も、私は上野選手に声をかけられなかった。彼は、たくさんの友達や仲間に囲まれて、笑っていたから。その笑顔をそのままにしておきたいような、そんな気がした。でも、もし声をかけるとしたら、私はこう言いたかった。

上野君、本当におつかれさまでした。
あの時、ロシアに行ってくれてありがとう。とても感謝しています。
あなたはいつも、最高にカッコいい新体操選手でした。

スクリーンショット 2020-02-23 9.38.45

岩本司(いわもと・つかさ)選手

2019年の春、新構成を作る岩本選手。
「キツければキツいほど、楽しくなっちゃうタイプです」と言っていた彼は、構成を作るのが好きなのだという。選手一人一人に見立てた小さなボールを動かしながら、彼の頭の中にはどんな花大団体が展開されていたのだろう。

スクリーンショット 2020-02-23 17.22.28

ジャパンで、同期の高橋選手が演技中に肘をケガし、演技は中断された。あの時の泣き崩れる岩本選手の姿を、スタンドの観客は皆、胸が潰れる思いで見ただろう。エキシビションで演技をする機会を得て、最終日に5人でその団体を演じたのだけれども、私はその演技中も、6人分の小さなボールを見つめる岩本君の姿が脳裏に浮かんで、仕方がなかった。

スクリーンショット 2020-02-23 9.42.25

昨日の発表会では、彼が笑う姿をたくさん見ることができた。彼の笑顔は時々、ちょっと泣いているような、困っているような、そんな表情が混じって見えることがある。あれ、泣いてるのかな?いや、笑ってるなぁ。笑ってる笑ってる。

最高にカッコいい花大を見せてくれて、ありがとう。

スクリーンショット 2020-02-23 10.29.25


高橋淳(たかはし・じゅん)選手

2019年の西インカレ前に花大を取材した時、私は彼にこう尋ねた。「何が楽しくて、新体操を続けていますか?」と。考えようによってはいささか失礼なその質問に、彼はこう答えた。

「練習はキツイですけど、試合をノーミスで出来た時にはすごい達成感があるので。それが、僕はいいと思ってます。」

そんな彼が、ジャパンで無念の怪我、途中退場。神様はなんてことをしてくれるのか…。

スクリーンショット 2020-02-23 9.36.18

昨日の発表会。あんな怪我をした後だから、団体は出ないのだろうと思っていたら、彼は団体選手6人の中にいた。ひじには、テーピング。アップ中にひじを曲げて、「いてっ」という表情を見せることもあった。

演技序盤の鹿倒立では、わずかに“歩いた”(手が前後に小さく動いた)。すぐ近くにいた松久ミユキ先生が「ああ…」と絞り出すような小さな悲鳴を上げるのが聞こえた。曲げるだけでも痛いひじが、倒立して痛まないはずはない。しかし彼は堪えた。

タンブリングは無理だろうと思っていたら、後半にバク転を一つ、入れていた。花大団体を支え続けた寡黙な彼の、団体選手としての矜恃だったかもしれない。

スクリーンショット 2020-02-23 9.41.38

4回生3人を含むメンバーでの団体演技が終わった後の、笑顔である。

竹内陸(たけうち・りく)選手

竹内選手については以前もnoteに書いたことがあるけれども、昨日の発表会での様子を。

画像8

怪我の影響だと思うが、個人演技のクラブではタンブリングを抜いていた。しかし、変わらず美しい徒手、とりわけその足先が、彼の世界を表現する。クラブの曲は、切ない曲調で恋人たちの愛を歌い上げた曲だが、イタリア語の印象的なフレーズが、彼の美しい動きと共にいつまでも耳に残る。

画像9

レオタードには、紫と黒の羽があしらわれていた。試合着は「体に密着していなければならない」というルールがあるが、発表会のための特別仕様だったと思われる。

「今日までたくさんの困難がありましたが、それを乗り越えられたのも、支えてくださった方々のおかげだと思っています」という紹介のナレーションに、うんうん、と頷くようにしていた竹内選手。

大学レベルで新体操を続けている選手にとって、最高峰の試合であるジャパンに出場することが目標であろうし、スポーツである以上、勝ち負けが最も重要な世界で彼らは日々戦っているといえるだろう。

画像10

しかし、ジャパンに出場しなかった竹内選手の、しかもタンブリングを抜いた演技であれだけ気持ちが動かされるというのは、どういうことだろうかと思う。

タンマで真っ白になった手。
胸にあしらわれた美しく儚い羽毛。
「りくー!」という仲間からの掛け声。
マットの上で静かにポーズを作る竹内選手。
音楽が流れ出す。
♪Mio bello bello bello amore
Sei il mio paradiso...

画像11

観客が入る前のリハーサルで、最後に一人、マットの上で練習する竹内選手。私は何か、とても尊いものを見たように思う。

集団演技

今晩、集団演技を公開した。
私があれこれ語るよりも、映像を見ていただければと思う。40分という恐ろしい長さの動画になってしまったが、2階席からの全体像の後に、特に4回生を追ったフロアサイドからの映像をつけた。この映像は、抜き出してスポット的に使う目的で撮影していたのだが、見返してみたら、4回生だけでなく花園大学新体操部の全員が素晴らしく魅力的だったため、そのままアップした。したがってカメラワークはかなり不自然だがお許しいただきたい。動画の最後には、4回生たちの笑顔溢れるショットも入れたので、ぜひ最後まで見ていただければと思う。

新体操は、苦しいこと、辛いことの方が多いスポーツかもしれない。
だけどやっぱり、こんな美しいものは世の中にそう滅多にあるものではないと思わせてくれた、花園大学新体操部。本当にありがとう。

大会や取材の交通費、その他経費に充てさせていただきます。皆様のお力添えのおかげで少しずつ成長できております。感謝です🙏