見出し画像

2021年全日本選手権大会(ジャパン)

団体

青森大学が昨年の雪辱を晴らし、優勝。
文句のつけようのない、素晴らしい演技だったと思う。ある経験者の方に「団体をバラしで見るようになったら立派なオタク」と言われたことがある。もちろん、男子新体操オタクな私は、団体をバラしで見る(注目したい選手を追う)。ところがこの青森大学の演技だけは、バラしたくないと感じた。演技全体を貫く統一感があまりにも見事であり、バラす必要を感じない。まるで「スイミー」で描かれる世界のように、一人一人が全体のパーツとなり、まさに「一糸乱れぬ」演技を展開していく。この作品を演じることを可能にした練習量は、どれほどのものだろうか。この演技は、青森大学が得意とする形での団体の、一つの頂点を極めたものではないかと感じた。

男子新体操は多様性が面白さの一つである。

2位の神埼清明高校、3位の井原高校の演技もまた、全日本選手権の表彰台にふさわしい、素晴らしい演技だった。高校生と大学生の差は、点数に現れるほど大きくないのではないか…と私は感じることが多い。優勝の青森大学と2つの高校チームの間にあるものは、男子新体操の技術としての点差というより、「表現したいものの違い」なのではないかと思う。高校チームが青森大学の演技をそっくりそのまま真似することは不可能だが、逆もまたしかり、ではないだろうか。

画像2

青森大学、井原高校の演技は世界中で視聴されているが、神埼清明高校もまた、そのような視聴に耐えうる素晴らしい演技を持っているチームだ。ジャパン上位3チームの演技を、是非YouTubeなど一般の人々が見やすいプラットフォームで視聴可能にしていただきたいと願う。今年、表彰台に乗った彼らの演技は、そのコストに見合うものであるはずだ。

個人

優勝した堀孝輔選手(高田RG)。同志社大学時代からストイックな選手だった。

彼が優勝したある大会で、「やりたいことの6割しかできていない」と言ったことがあった。コロナ禍のため体育館で練習できない時でさえ「モチベーションが下がることは一切ない」とも言い切った。堀選手の多彩な手具操作であるとか、着地がピタッとまとまるタンブリングの端正さであるとか、選手としての魅力はさまざまあるけれども、何と言ってもこの強靭な精神力、これが彼を特別な選手にしている一番の要因ではないかと思う。

ジャパン優勝後のインタビューで、「去年準優勝に終わり、悔しかったので…」と語っていた。2020年ジャパンで優勝したのは、同期の安藤梨友さん(青森大学卒)。強いタンブリングを武器とし、およそ優勝していない全国大会はない、という選手だった。ただ安藤も堀も、ジャパンだけは勝っていなかった。2020年の二人の勝負は、安藤優勝で幕を閉じた。ちなみに、今大会中に堀選手の素晴らしさをツイートしたら、安藤梨友さんから真っ先に「いいね」がついた。もしかすると、ライバルとして戦った彼が一番、堀孝輔の強さを知っている人なのかもしれない。

団体と同様、個人もまた、スポーツであるがゆえに「ベクトルの違う2つの優れた演技に優劣をつけねばならない」という難題が存在する。たとえジャパンで優勝しなくても、多くの崇拝者を持つ伝説の選手の一人に堀もなるのだろう、と私は思っていた。

まったく、堀孝輔という人をわかっていなかったとしか言いようがない。今年の社会人大会、そしてジャパンでの、あの眼光の鋭さ。全国大会で勝っても「6割」と自分の演技を斬って捨てるような「サムライ」が、本気でジャパン優勝を狙って再度挑んでいると思うと、鳥肌が立った。

多くの賛辞が彼の上に降り注いでいる。
私は、次の言葉を彼に問いかけてみたい。

「あなたの次の目標は何ですか?」

堀孝輔が、明日からどこに向かって進むのか。私は、それが知りたいと思う。


大会や取材の交通費、その他経費に充てさせていただきます。皆様のお力添えのおかげで少しずつ成長できております。感謝です🙏