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吉村 航也(よしむら かずや) 花園大学4回生

彼が1回生の頃、花園大学に取材に行った。その時の吉村選手を今でも鮮明に覚えている。

個人選手の中で、最後まで練習場に残ってストイックに練習していたのが彼だった。なかなか決まらない投げ技を、何度も何度も繰り返す。鏡を見ながら動きを丹念に確認する。新体操の練習は、試合での華やかさとは裏腹に、地味で単調で、そして泥くさい。

1回生の頃の吉村選手

今年のジャパンで彼は4種目をきっちりまとめ、終わってみれば個人総合8位、しかも9位のリング以外の3種目で種目別決勝進出という素晴らしい結果を残した。しかし、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。

ジュニア〜高校時代

小学校1年生の時から新体操を始めた。彼は自身を「スペックが低い選手」と評する。「徒手も苦手、タンブリングも弱くて、他の選手と比べて劣るところが多い」のだそうだ。しかしおそらく、人一倍の負けん気と研究心を持っていた吉村少年は、小学校6年生の時に「花園大学に入る!」と固く決意する。

吉村少年が憧れた花大の先輩。それは鈴木一世(すずきいっせい)さん、そして北村将嗣(きたむらまさし)さんだった。YouTubeで見た演技のカッコ良さに魅了され、学校から帰ると毎日動画を見た。さらに、恵庭南高校の先輩である宮前凌(みやまえりょう)さんが花大に進学したことで、「自分も!」との思いが強まったという。

花園大学での練習

2018年、高校3年時のユースでは、個人3位に。予選2種目が終わった時点でチームメイトの田口将(たぐちまさし)選手(青森大4年)がトップ、吉村選手が2位。恵庭ワンツーで決勝に折り返す。そして最終的には田口選手が優勝、吉村選手は3位という結果となった。

「新体操人生の中で一番悔しかったことは」と聞いてみると、高3のインターハイ予選で田口選手に負けたことなのだという。「人生で一番練習した」というくらい、毎日練習を積んで臨んだが、勝てなかった。

青森大学の田口将選手と

その田口選手は、青森大学の団体選手として全カレ、ジャパンで優勝している。恵庭南高校出身の海谷燎摩(かいやりょうま)選手(福岡大)、大西竣介(おおにししゅんすけ)選手、浪田倭(なみたやまと)選手(共に国士舘大)ら、後輩たちもジャパンで大活躍した。

花園大学の正門前で

花大で個人を

高校までは、宮前先輩を真似た演技で褒めてもらえた。しかし大学ではそうはいかなかった。「似ているね」はもはや褒め言葉ではなくなったのだ。今までの積み重ねがゼロになり、また一から構築し直す作業が始まった。

「自分の新体操って何だろう?」

わからなかった。
だから、がむしゃらに練習した。
私が取材の時に見たのは、そんな彼の姿だったかもしれない。

3年間、ずっとボロボロ

吉村選手が大学に入ってからの全日本インカレ・全日本選手権(ジャパン)での戦績を調べてみた。そもそも、最高峰の大会であるジャパンにずっと出場できていることが一流選手の証であるのだが、彼の順位は、私が吉村航也という選手に対して持っている印象よりも、ずっと下にあった。

「3年間ずっとボロボロで、4種目ノーミスで通ることがなかったんです。最後の全カレも、最初の2種目でビビって、ミスして…。」
吉村選手といえば、あのスリリングな3回前転を想像するファンも多いと思うが、投げは苦手だという。ルール改正で投げの連続に加点がつくようになったが、苦手意識がずっと拭えなかった。しかし2022年秋のクラブ選手権で初めて、4種ノーミスの手応えを掴む。「これだ!」と思った。

そして、現役最後のジャパンを迎える。

種目別決勝に残るということ

4種目をノーミスで揃えた個人総合の順位は、8位。試合中に順位や得点を見ないようにしているという吉村選手は、最後に「8」という数字を見て、「うわっすごい!と嬉しかったですが、それよりも4種ノーミスを出せたことの方がもっと嬉しかったです」と語る。

さらに、リングを除く3種目で種目別決勝に進出。リングは惜しくも9位であった(8位までが種目別決勝進出)。

今年のジャパンでは、久しぶりに種目別決勝が復活した。ファンにとってはたまらない、スター選手たちの競演。そこで行われる演技の一つ一つが「男子新体操の傑作集」ともいえる作品揃いだ。

選手の側から見た種目別決勝とは。
「客席に残っている選手の数も観客も多いですし、ミスできないプレッシャーが大きかったのですが、今まで新体操をしてきた中で一番楽しく演技ができました。」
送り出してもらい、一人でマットに向かって歩いている時からテンションが上がっていくのだという。

爪先立ちでの入場

大学1年生のクラ選の頃から、爪先立ちで入場するようになった。今では吉村選手のトレードマークとも言える所作であるが、それは「演技中の重心を上げるため」なのだという。1年時の全カレで城市拓人(じょういちたくと)さんのかかとの高さに衝撃を受けた。

「自分は重心を取るのが苦手なのですが、普通に歩く時に重心が取れないようでは、演技中にも取れない。だったら入場の時から重心を上に保っておこうと思いました。」

井原フェスティバルにて

華やかな王子様の装い

これも吉村選手のトレードマークとも言える、緑の王子様のような衣装。男子新体操の衣装を多く手掛けているワタナベリナさんのデザインである。

この衣装は、ワタナベリナさんが2、3年前に描いてあったものを提案されたのだという。この衣装と吉村選手の組み合わせがどんな相乗効果を生み出したかを、ファンなら誰もが知っている。

同期の絆

花園大学の同期である大村光星(おおむらこうせい)選手は、1回生の頃から「ジャパンで優勝する」という目標を掲げていたという。怪我が多く、苦しんだが、今年の全カレでは優勝。同時に後輩の尾上達哉(おのえたつや)選手が2位に入り、花大が優勝・準優勝を飾る。

「表彰式で花大が一度も名前を呼ばれない時期があったので、表彰台に花大の選手の姿があったのがすごく嬉しかった」という。偉大な個人選手を多く輩出してきた名門、花園大学。小学6年生にして入部を決意した彼らしい、チームへの愛情と誇りが感じられた。

また、国士舘大学の同期である織田一明(おだかずあ)選手、向山蒼斗(むこうやまあおと)選手、吉留大雅(よしどめたいが)選手とはとても仲が良いそうだ。

国士舘大学の織田一明選手と

恭平先輩と大雅先輩

花大の先輩である小川恭平さんと中村大雅さん。二人に出会ったことで、新体操人生が変わったと話す。「いつも話を聞いてくれ、叱ってくれ、応援してくれた大切な二人です。」

かつて上野颯太郎さんが「小川晃平先輩と西村統真先輩がいなかったら、今の自分はない」と語った姿が重なった。花園大学の先輩と後輩の絆が、こうして代々繋がっていく様子を見ていると、きっと「吉村先輩のおかげで」という後輩も出てくるのだろうなと思わずにはいられない。

中村大雅さん、小川恭平さんと

ファンの方へ

「スペックの低い選手」を自称する彼は、試合や演技会で「ここが好き」「シェネの手が素敵」などとファンに言ってもらうことによって、「逆に自分の長所ってここなんだ、と気づかされました」という。「特徴のない自分を応援してくれて嬉しかったです。」

キアヌ・リーブスに似ている!?(筆者の主観です笑)

12月25日(日)の国士舘カップに出場予定とのこと(ちょっと楽しそうな企画があるようです)。これは見逃せない!

【国士舘カップ情報はこちら

花園大学発表会にて。左から中村大雅さん、竹内陸さん(現花大監督)、吉村選手、小川恭平さん、高橋淳さん

社会人大会出場の可能性は?と聞いてみると、「3日動かないだけでまるで別人になってしまって、下手になります笑…社会人になったら、人に見せるような演技はできないと思うので、絶対にありません」と、即座に否定された。(いつでも撤回してほしい笑)

美しい背中で魅了するラストポーズ

母へ

「今まで新体操をやってきて、どんな大会でも見にきてくれて、応援してくれて。だから…もう、感謝しかないです。」ちょっと照れくさそうに、語ってくれた。

耽美的なポーズが似合う

お母様から見た航也君は。

「バカ真面目な分 練習を頑張りすぎてしまい、大会前にケガをし思うように出し切る事が 出来ない事が続きました。全カレ前、ケガしないようにと いつもLINEの締めに綴っていたのを思い出します。新体操と真剣に向き合い最後まで 全力を尽くした自慢の息子です。演技を何度も取り上げて下さったおかげで、航也を知らない方からもたくさん応援の拍手を頂きました。 大勢の観客の中で演技ができ最後を迎えられ 航也は幸せです。 ありがとうございました。」

今年の4年生たち。
楽しみな新入生が入ってきたなと思ったら、コロナでいろんなものが変わり、気づいたらもう4年生になっていた…という印象を持つ学年。もっともっとあなた達の演技を見たかった。そんな渇望を感じずにはいられない世代。

またいつか、どこかであなた達の幸せそうな姿を見られたら、そんな嬉しいことはありません。マットの上でも、観客席であっても、後輩が練習する体育館であっても。私たちファンはずっと、あなた達を応援し続けます。

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