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国士舘大学ドイツ遠征11 Chemnitz

とうとう最終日である。この遠征に同行している私にとってはあっという間の10日間だったが、連日演技をしている選手にとっては、長い長い10日間がやっと終わった…という感じかもしれない。

今日の個人演技は、吉村龍二選手と田中啓介選手である。

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吉村選手の現在の課題はおそらく、「手具操作の安定性」であろうと思う。このドイツ遠征では、個人選手はそれぞれ4種目の演技をした。数千人の観客の前でいかにノーミス演技を出すか。それは試合での「ノーミス」とは意味が違う。観客にミスを悟られない演技、たとえ構成の難度を落としても、実施がクリーンな演技が求められる。すでにリングの演技で手具を飛ばしてしまうというミスがあった吉村選手にとって、最後の演技となるクラブでは、何が何でもノーミスで演技を締めくくりたいところである。

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この日割り当てられた練習時間は公演開始時間の都合上、10公演の中で最も短かった。その少ない練習時間の中で、吉村選手は繰り返し繰り返し、投げのキャッチを確認していた。

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このショーのプログラム一番である男子新体操の個人演技は、オープニングの直後に始まる。オープニングに勢ぞろいしたすべてのパフォーマーが片手を吉村選手の方に向けながら退場していくと、会場の照明が暗転し、スポットライトが当たった選手の姿が浮かびあがる。美しいピアノの音とともに静かに始まるこのクラブの演技に、会場のすべての視線が注がれる。

吉村オープニング

吉村冒頭

「吉村君頑張れ」と思いながらカメラで彼の姿を追った。冒頭、小さな手具操作のミスがあった。といっても、山田監督に後から解説してもらってやっと理解できた程度のミスである。この日初めて男子新体操の個人演技を見るであろう観客にはおそらくわからない。吉村選手が持つ美しい動きに、観客が引き込まれていくのが感じられる。二本投げのキャッチがいわゆる「逆取り」になったのも落ち着いて処理していたし、私の目には大きなほころびのない(つまりショーとして見せるに十分な)演技と映ったのだが、この演技は非公開という希望が出た。本人の目指すところには届かなかったということだろうが、ドイツの観客に男子新体操個人の美しさが伝わったことは、観客の拍手の大きさによってうかがい知れる。

吉村ラスト

もう一つの個人演技は、田中啓介選手のロープである。ジャパンでこのロープを初めて見た時、直感的に「これはいい」と思った。田中選手はそのクールな外見からは想像しにくいが、明るくひょうきんな面を持っている。彼のそういう一面を垣間見られるようなノリのよいスピード感あるメロディーと、「コンスタンチノープル」「イスタンブール」という韻を踏んだ都市名が繰り返される歌詞は、「歌詞ありOK」となった今年の男子個人で、最も成功した選曲の一つではないかと思っている。

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私は彼のクラブの「木星(ジュピター)」が好きだったのだけれども、イギリスが「第二の国歌」として誇るホルストの名曲「木星」に負けない、スケールの大きさが彼にはある。クラシックの名曲は演じる選手を選ぶと思うが、彼ならば、例えばオペラの名曲なども演じられそうな気がする。ちなみに、ドイツからの帰りの飛行機の機内では、離着陸時に「木星」が流れていた。

立つ

そして、やはり…である。ドイツの観客はこのエキゾチックな曲が始まるとすぐに手拍子を始めた。マットの上を縦横無尽に駆け回る田中選手は、水を得た魚のようである。白と黒の新しいレオタードは切り替えがハイウエストになっていて脚をより長く見せており、きらめくスパンコールがちりばめられた上半身の、背中の一部がシースルーになったかのようなデザインがこの上なく艶やかだ。スポットライトがこれほど似合う選手もなかなかいるまいが、ビジュアルだけでなく、4種ノーミスでショーをこなす精神力も持ち合わせていることが証明された。

田中ロープ

ちなみに田中選手がこの曲で演技するにあたり、山田監督はドイツとイスタンブール/コンスタンチノープルの国際関係まで調べたというから、恐れ入る。

長縄・団体には、少しミスがあった(長縄は2人×2組の選手が場所を入れ替わりながら跳ぶ箇所でからまり、団体は倒立で歩いた)。しかしこれまでの9回、ほぼノーミスでやってきたことを思えば、あっぱれと言いたい。

今回、パフォーマーの世話役だったシュテファンさんも「ほ〜〜〜〜〜んの小さなミスだったけど、コクシカンでもミスはするんだってわかったよ。」と笑っていたくらいである。国士舘は、ショーの目玉としての役割を立派に果たした。(この記事の最後に団体と長縄の動画の限定URLを掲載しますが、ミスのあった箇所は編集しますのでご了承ください。)

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国士舘大学は積極的に海外遠征を行っており、国内のみならず、海外にも"Kokushikan"のファンを多く持つ。この日、彼らがショーの前半と後半の合間にマットで練習を始めると、いつものように人だかりができたのだが、その中の一人の若い女性が「今日は国士舘を見るためだけにここに来ました。あなたのアカウントも知っている。」と言うので驚いた。それではぜひ選手と一緒に記念撮影を、と促し、吉村選手・田中選手と共に写真を撮ったのだが、彼ら個人選手のこともよく知っているという。

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一方、試合の合間に海外で演技するということの難しさは日本の比ではない。まずマットが違う。言葉が違うので、小さな行き違いや誤解が生まれる可能性もずっと高い。食べ物・飲み物も違う。往復の時間の長さと疲労、コスト。困難な要因をあげればキリがない。それでもずっと、彼らは海外で男子新体操の演技を見せ続けてきた。

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山田小太郎監督は言う。「若い時に海外を経験した人間は、視野が広がる。」

誤解が怖いので私が代弁するが、「海外に行っていないからダメだ」というのではない。そうではなくて、例えば海を実際に見たことのない人にとっては「海」というものが概念以上の存在になりえないのと同じように、海外を経験するかしないかということが、「世界」を概念としてのみ意識するか、あるいは実際に体験したこととして自分の中で具象化されるかという違いを生む。そして若ければ若いほど、その経験が深いものであればあるほど、その違いがその人の視点を変えていく。

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国士舘の選手たちはその点、大変貴重な経験をしていると言える。海外のショーに出て、観客の喝采をあびる。それは個人旅行では決して経験することのできない、特別な体験である。新体操と出会ったことが彼らの人生を豊かにしたのと同じように、海外での経験もまた、彼らの人生をより美しい色で彩っていくに違いない。

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最後に、国士舘大学ドイツ遠征のマガジン・記事をご購入いただいた方々、サポートという形でご支援くださった方々、国士舘大学男子新体操部の選手・保護者の皆様、山田小太郎監督に心より御礼申し上げます。応援!男子新体操の活動が多くの方のご厚意・ご支援により支えられているものであることを胸に刻み、今後も尽力していきたいと思います。

↓最終日の団体と長縄動画

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