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2020新体操フェスタ岐阜 個人で戦った選手たち ①堀孝輔(同志社大)

顔つきが精悍になった。
眼光が鋭さを増した。

今大会の堀から受けた印象である。

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「クレバー」と評されることの多い堀。私が彼に対して持っていた印象というのは、冷静沈着に演技し、淡々と好成績を残し、試合が終われば「では私は勉強がありますのでこれで」と言って眼鏡をカバンから取り出し、英単語帳を片手に試合会場を後にしそうな、そんなイメージであった。(堀の出身校は、東大・京大・早慶に多数の合格者を出す名門校である)

ところが実際の堀孝輔という人は、そのクールなイメージとは反対に、心の中で炎が燃えさかっているようなのだ。堀が心の中に持っているのは、真っ赤に燃えるスポ根の炎ではなく、ゆらぐことなく静かに、しかし高温度で確実に燃え続ける青白い炎である。

初日の新作リングで使ったのは、ベートーベンのピアノソナタ「月光」第3楽章。激しく叩きつけるようなドラマチックな旋律を持つ。堀が持つノーブルな雰囲気はクラシックと相性が良いが、この曲の持つ激しさは、彼の内面の熱量と、そして強靭な意志力がストレートに表に出てきたかのようある。細身で端正な顔立ちからは想像しにくいが、堀という選手の頭脳と心と身体能力は「タダモノではない」。

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続くスティックでは、これも新作演技で18.150を叩き出す。

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使用したのは、「ピアノの詩人」と言われる悲運の作曲家ショパンの「ノクターン第20番嬰ハ短調 遺作」をボーカルアレンジした曲。心を掻きむしられるような切なく美しい旋律を持つ。男子新体操に使うには、あまりにも1つ1つの音が繊細で、あまりにも悲しく、あまりにも美しい。そんな曲だ。

堀の演技も美しかった。繊細だった。彼にしかできない手具操作、伸びる手足、宙を舞う体。どこもかしこも美しかった。

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スティックとリングが終わった時点で「今回は堀選手が勝つ」という雰囲気が会場を支配した。

そして2日目のロープとクラブ。

ロープでは若干キャッチに不安定なところが見られ、同じクラブチーム「Leo RG」の出身である満仲進哉(青森大)に次いでの2位となった。

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最後のクラブの演技前の堀は、集中力を高めようとするかのように、何度か上を見上げるポーズを繰り返した。

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クラブはもうお馴染みの、Rodrigo y Gabriela の"Somnium"である。そして堀の代名詞のようにもなっている、真紅のベルベット調の試合着。後半にかけて盛り上がっていく曲調に合わせ、堀の演技も一層「ノリ」を増していく。最後の投げのキャッチの余裕っぷり、そしてラスタンの高さ。円熟の演技で、今大会2度目の18点台を出した。

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クラブの演技後には、「疲れた〜」と一言つぶやいたように見えた。

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終わってみれば、ロープ以外は全て1位という圧勝。コロナ禍の影響でまだ大学にも戻れていない状況の選手が、これだけのパフォーマンスを見せること自体が奇跡のようにさえ思われる。

しかし、試合後のインタビューで堀の口から真っ先に出てきた言葉がこれだ。

「練習したことの6割くらいは試合で出せました」

堀が、ライバル達にとってどれほど恐ろしい選手であるかが、この一言をもってして語られた。

7月に堀にZoomでインタビューさせてもらった時にも、彼が発した言葉に驚愕したことがある。多くの選手がモチベーションの維持に苦しむ中、彼は「モチベーションが下がることは一切ありません。むしろ高まっています」と言うのである。

そして、今大会が終わったあとも、堀は言った。

「モチベーションがまた上がりました」

この人は一体どんな高みを目指しているのだろう、堀の理想とする新体操は一体どんな新体操なのだろうかと興味がかき立てられる。

次の大会では、安藤梨友(青森大学)らとの戦いが待っている。残念なことに無観客試合が決定してしまったが、だからこそ、彼らの戦いの行く末を熱く見守り、心の中で声援を送り続けたい。


堀選手のZoomインタビューはこちら。


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