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炊き立ての男子新体操

応援!男子新体操というYouTubeチャンネルを運営している。チャンネル登録者は現在、1万9300人。まもなく2万人を超える。YouTuberとしての私たちが世の中に広めたいのは、「男子新体操」という非常に特殊なスポーツだ。

男子新体操は日本発祥で、競技人口は約1,500人。プロはない。大学生までの部活動の中で行われることがほとんどであり、大学卒業とともに彼らは男子新体操を「卒業」する。

だが、動画を見ていただくと分かる通り、彼らの技術は世界を驚かすレベルにある。毎日毎日、世界中から様々な言語で称賛の言葉が私たちのチャンネルに押し寄せる。英語、ロシア語、ポルトガル語、イタリア語、中国語…

私がこのスポーツのファンになったのは6年前。YouTubeでたまたま男子新体操の団体演技を見るまで、このスポーツの存在を知らなかった。ところが見た途端、まるで落とし穴にはまったかのように、この競技にのめりこんだ。

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当時、この競技には「試合を見たがるファンがいる」という前提がそもそもないかのようだった。試合の情報を探すのも一苦労。まるで迷路?と思うような複雑なホームページの網を辿ってやっと、試合情報にたどり着く。試合会場にたどり着いてみると、観客席はガラガラである。

ただ、インターハイの団体だけは話が別だった。「笑門来福」を部旗に掲げる「鹿児島実業」という高校が理由の一つだ。この高校チームは、普通の男子新体操の演技ではなく、お笑いに特化した演技をする。

鹿実がニコ動やYouTubeで爆発的人気を獲得したおかげで、世間の人々は「男子新体操」という競技がこの世に存在することを発見し始めた。メディアにも大いに取り上げられた。鹿児島実業の功績により、日本国内では「男子新体操?何それ、美味しいの?」状態は脱出しつつあった。

だがしかし。

ガチファンであった私から見ると、「見てもらいたい演技はほかにもある。頼む、鹿実以外も見てくれ」というじれったさがあった。鹿実の名誉のために言っておくが、彼らの演技だって実は高度な男子新体操だし、全日本チャンピオンを複数輩出している名門校だ。ただ、世間一般の人々がYouTubeで鹿実を見て「あー面白かった」で終わってしまい、他校の演技を見てくれないことが残念すぎた。全日本選手権で優勝するようなチームの、感動的なまでに美しい演技も見てほしかった。

例えるならば、コンビニに並んだササニシキのおにぎりは美味しいし手軽だし便利でとっても優れた商品だが、「本当に美味しいのは炊き立てホッカホカの銀シャリだ、そっちも食べてくれ!」とササニシキ農家の方々が叫ぶ感じとでも言おうか。そして、「一回だけでいい、一回でも食べてくれたら分かるから!」とササニシキ農家は願うだろう。まさに私も、同じ気持ちであった。

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炊き立てササニシキすなわちガチの男子新体操を味わってもらうために、私はブログを書き始めた。普通のブログでは人々の興味を引かないだろうと思い、あえて超ミーハー路線で書いてみた。それなりに関係者の注目を集めたような気がする。だが、「気持ち悪いオバサンのブログ」という批判もあった。今思うと確かにちょっと気持ち悪かったかもしれない。ササニシキ愛が暴走した結果、ちょっと引かれてしまった失敗例と言える。

次に、英語で発信し始めた。当時は英語による男子新体操の情報が皆無であり、YouTube等で発見されつつあったこの競技の情報を求めて、海外の人が右往左往しているのがわかっていた。最低限の英語による発信が必要だと思い、協力者とともに英語やスペイン語のウェブサイトを作ったりもした。男子新体操というかなり限定的なコミュニティの中で、それなりに注意を引いたかもしれないが、地球上の多くの住民はまだ「男子新体操?何それ、美味しいの?」と思っていただろう。

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男子新体操の魅力はなんと言っても「演技」そのもの、動いている選手の姿だ。ホッカホカの、湯気を上げている炊き立てが最高に美味しいのだ。そこで、「応援!男子新体操」というYouTubeチャンネルを作って動画を発信し始めた。「応援!男子新体操」という何のひねりもない名前は仲間と3分で決めた名前だったが、悪くないと今でも思っている。関係者の中には「素人が動画?」と眉をひそめた方々もいたかもしれないが、好意的に支援してくださる方もいて、ありがたいことに試合や発表会、演技会、やがては海外遠征の取材などもできるようになり、チャンネル登録者は急カーブで増えていった。

動画のターゲットは、日本の小さな男子新体操コミュニティではなく、世界だ。私たちのチャンネルの動画には、必ず英語で字幕を加えるようにした。チャンネル登録者はさらに増えていった。

炊き立てササニシキを食べたことのない人々が地球人口の大部分を占めているように、男子新体操もまだその状態を脱してはいない。とはいえ、団体競技に関しては、「あ〜あれね」と思う人も増えてきていると思う。しかし、男子新体操には団体だけでなく「個人競技」も存在すると知っている人はまだまだ少ないだろう。

今、私が抱いている野望は。

せめて今の10倍、個人競技のファンを作り出したい、ということだ。

試合で着用されるレオタードの目覚ましい進化。そして演技そのものの進化。私がファンになった6年前と比べても、すごい勢いで進化しつつある。

現在、彼らの魅力を最大限アピールするためのプロモーションビデオを作っている。さらに、彼らの選手生活をサポートするシステムを、noteの有料記事システムを利用して作ってみたいと思っている。

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時々考える。
一体全体、なぜ私なんかがYouTuberになったのか。

男子新体操がそこにあったから。
そして、炊き立てホッカホカの男子新体操をもっと多くの人に見てもらいたかったから。

スポーツは、見るだけでも観客を幸せな気持ちにさせてくれる。しかしまた、私のような人間が気がついたらYouTuberになっているという、ちょっと普通でないことも起こったりする。私は決して、目立つファンになりたいと思ったことはない。ただひたすら、一人でも多くの人に炊き立ての美味しさを味わって欲しかっただけだ。そして私たちの動画を見てくれる人に、「ね、炊き立ては美味しいでしょう?」と今も語りかけている。

こんなスポーツの楽しみ方もあると、男子新体操が教えてくれた。
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<4/15追記>個人競技の魅力を伝えるPVが出来ました!


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