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あの時、僕たちは。 ①花園大学

「コロナ禍」
一言で言ってしまえば、そのような波の中に、彼らはとつぜん投げ込まれた。

練習ができなくなる。試合がなくなる。

そんな中で、特に今年が最終学年となる大学4年生たちが何を考え、どのように過ごし、今を迎え、そして秋の試合シーズンに向かっているか。

シンプルに、そのことを記録しようと思った。
ある7月の夜、花園大学の4回生にZoomでインタビューさせてもらった。

あの時、ジャパンで

2019年の全日本選手権(通称ジャパン)。花園大学の団体は、予選演技序盤のタンブリングで、高橋淳選手がひじをケガした。その直後、菅監督がマットに上がってきて、演技を止めた。彼らは決勝に出ることはできなかったが、エキシビションで5人団体を披露した。

その時のことを、中村大雅(恵庭南高校出身)はこう語る。

「何が起こっているのか分からなかったです。組みで乗った時に淳先輩の肘が曲がっていることに気付いて。乗った瞬間に、やばい、どうやって次の演技につなげようと考えていました。曲が止まるまで、僕らには菅監督の声が聞こえてなくて。曲が止まって初めて、菅監督の声が聞こえました。」

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演技が中断された直後には泣き崩れていた4回生(当時)の岩本司は、後輩たちに「やれることはやったのだから、胸を張って保護者に挨拶に行こう」と伝えたという。

エキシビションに出ることが決まってからは、決勝種目を見ずに近くの公園まで行って、練習をした。

「エキシビが決まった時に司先輩の表情が晴れた。僕たちも悔しい気持ちはあったけど、あのエキシビを踊っている時だけは、4回生と一緒に踊れるということが嬉しかった。」

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あの時、発表会で

2020年2月22日に行われた花園大学発表会。世間ではまさにコロナ禍が本格化する直前であった。あと一週間遅ければ、発表会はできていなかっただろうと小川恭平(井原高校出身)は振り返る。

「ジャパンでのこともあり、例年以上に思うことがありました。個人の演技中でも、ああ4回生と最後か…とか、この一年いろいろあったなと思い返される発表会でした。」

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手具団体については、菅監督の声かけのもと、「新体操に新しい風を吹かせよう」という気持ちがあったという。やっている本人たちも楽しくて、演技中も終始笑顔だったとのこと。動画を見ると、確かにみんなニコニコしている。

「女子と同じようにオリンピック種目になることを目指すのであれば、男子の手具団体という可能性もあると思う」と小川選手。

同じく個人選手の森多悠愛(恵庭南高校出身)は、集団演技でゴース(薄くて軽い生地)を持って踊っている時の迫力が凄かった。彼によると、「ゴースを持つ役を1回生の時からやらせてもらっています。だから自分と言えば『アレ』なんです(笑)来年はもっと凄いことをやって、観客を驚かせたい」とのこと。

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森多選手の、ゴースを持った時の生き生きした姿に注目↓

あの時、自粛が始まって

花園大学新体操部は、4月1日から自粛が始まったという。選手たちは、帰省する者と京都に残る者に別れた。京都に残った選手たちは、全員マスク着用の上、近くの公園で練習したという。コロナ感染者数が多かった北海道出身の中村選手や森多選手は、帰省せずに京都に残った。

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外でタンブリングはできないので、例年以上に徒手を見直し、公園の遊具を使ってトレーニングしたりもした。自粛があったからこそ、絆が深まった面もあったという。また、「体育館は使えて当然」と思っていたものが、今回あらためて大学の体育館を使えることの有り難さを実感した。

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一方、小川選手と小寺玲央選手は母校の井原高校で練習する予定で岡山の実家に帰省したが、井原高校もすぐに自粛で練習できなくなり、自宅や近くの公園でトレーニングしていたという。団体選手の小寺は、「合わせる、ということができない団体練習は初めてで、しんどかった」と語ったが、一方で「今までやれていなかったことが浮き彫りになり、明確になった期間でもあった」と振り返った。

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あの時、高校生たちの試合が

インターハイ中止のニュースは、大学生たちにとっても衝撃的であった。

「自分たちも、動画配信で後輩たちの活躍をみることが毎年楽しみだった。自分たちに置き換えたら、最後のジャパンがなくなるようなもの」

小川・小寺は井原高校の3年生だった時に総体優勝、恵庭南の中村・森多は1年生の時に選抜優勝を経験している。故郷の後輩たちを思う時、「インターハイにかけてきた3年生たちがどういう思いでいるだろうと思うと、かわいそうだなと。」

そして、これから

現在、練習は個人4時間、団体4時間の制限の中で行っているという。

森多「最後の年なんですけど、そういうことはあまり考えず、自分のやりたい新体操をやって、演技凄いとか面白いとか、一人でも多くの人に思ってもらいたいなと思っています。新しいことに挑戦したい。」

小川「自粛期間に一度モチベーションが下がって、自分は新体操で何を目指しているんだろう、と考えてしまったことがあって。コロナによって、自分の中で心境の変化があったと思う。自分は毎年感謝を伝える演技というのを目標にしているが、自粛期間に全てのことが当たり前ではないと感じたし、家族に対する感謝もより大きくなった。14年間新体操をやってきた集大成だと思うので、やはり一番は家族への感謝。上手かったよ、と思ってもらいたいというよりは、感謝の思いを伝えられたら、自分は一番満足できるかなと思う」

小川は、他校の選手とも自粛期間中にSNSで交流があったという。「どこの大学も練習できないのは同じ。だからそれを言い訳にしてはいけないと思ったし、工夫次第、考え方次第でどうにでもなるかな、とは思いました」

中村「去年まではついていく人(4回生)がいて、その人たちのために、と思うことができたから、取り組みやすい環境だった。でも今年は自分が一番上の学年になったので、自分のやりたいことを明確にしなければならない。自粛期間中は、漠然とした順位の目標に対して、具体的なプロセスを練り上げる期間となった。僕たちは競技者なので、1番を取ることが最終的には感謝を伝える結果になると思っている。優勝したいという自分の気持ちに嘘をつくことなく、限られた中でここまで出来るんだぞ、という演技をやってやりたいなと思っています」

団体に関して言えば、近年、青森大学が連覇を続けている。花園大学団体キャプテンの中村はそれをどう思っているのだろうか。

「青森大学が描く未来の新体操の姿というものがあるかもしれないが、花園大学には花園大学が思い描く未来の新体操の姿がある。花園大学の新体操ってこうなんだよ、というものを提示する3分間を目指したい。それが審判に伝わり、日本一という形になれば」

小寺「どんな結果であっても、自分にやり切れる精一杯のことをしたいと思っている。万が一、コロナ禍が続いて無観客試合になったとしても、出来る限りのことをやってきたんだ、ということを示したい」

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最後に、彼らからのメッセージをご覧いただきたい。

2020年の試合が始まり、彼らがマットの上に立った時。

そこに至るまでに彼らが歩んだ長く苦しい道のりは、彼らにしかわからないものだと思う。私たちに出来ることは、想像することだけだ。

今回のインタビューが、その想像の助けになれば幸いです。


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