1川東縄

川東拓斗(かわひがし たくと) 国士舘大学

全日本新体操選手権、通称ジャパン。

ちょうど1年前にあたる去年のジャパンのあと、川東選手にインタビューさせてもらった。

「福永先輩も自分も落下なしで4種目まとめたんですけど…勝てなかった…」

そう、絞り出すように言った彼の表情が、強く印象に残っている。しかし彼はまた、こうも言った。

「来年は福永先輩よりももっとすごい勝ち方で、勝ちます」

1年上の、尊敬する先輩である福永将司よりも、もっとすごい勝ち方で。

あの時、彼の頭の中にはいったいどんな戦略があり、どんな決意があったのだろう。私には知る由もないが、川東拓斗という人は、それを実行するために全力を、いや全力以上のものを尽くすことだけは間違いないと思った。

大学生の日本一を決める、今夏の全日本インカレ。もちろん優勝を目指していただろう川東選手は、個人総合で3位に甘んじた。「銅メダルおめでとう!」と言えるような雰囲気では、もちろんなかった。種目別リングの演技後に山田監督と握手しながらボロボロと泣いていたのは、悔しさゆえだっただろうと思う。あんな、胸をえぐられるようなシーンはめったにあるものではない。

そしてジャパン(全日本新体操選手権)。

4年生最後の試合。

川東選手に、全国優勝をさせてあげたい。多くのファンが、そんな思いで千葉ポートアリーナのフロアを見つめていたことと思う。

そして彼は、勝った。

福永先輩よりもすごい勝ち方だったかどうかは、彼が心の中で決めればいいことだ。「川東君が、とうとう勝った」。ファンにとってはそれで十分だ。

川東選手を褒めない人間に、会ったことがない。私自身も、彼の人間性の素晴らしさには何度も驚かされた。川東選手が3年生の時に書いた記事の一部を引用しよう。

来年度の国士舘のキャプテンは川東拓斗選手が務めるという。川東選手は今日の演技会で個人演技を披露したのだが、マット際にスタンバイしている時に、ふと何か思い出したように音響係の下級生のところに歩いてきた。「音量について指示でもするのだろうか」と私が思った時、彼は下級生に「音楽、よろしくお願いします」と頭をさげて、そしてスタンバイ位置に戻っていった。後で川東君にその時のことを聞いてみると、「全然、特別なことだとは思っていません。僕たち選手は、みんな周りの人のサポートのおかげで演技ができている。それを忘れないこと、感謝することは当然だと思っていますし、国士舘の選手で僕だけがそうしているのではないと思います」とのことだった。

こんな選手が指導者や仲間、ファンに愛されないわけがない。

彼が個人総合の最後の種目を終え、涙とともに四方に礼をする姿を見て、そして表彰式で大きな優勝トロフィーを嬉しそうに、誇らしげに掲げる姿を見て、どれだけの観客がもらい泣きしただろうか。

川東君、おめでとう。

あんなすごい、気迫のこもった演技を見せてくれてありがとう。

ジャパンの優勝トロフィーに、ついに彼の名前が刻まれることになったけれども、それよりも何よりも、彼の新体操人生の集大成が、あんなに美しいもので良かった、多くの人がそれを見られてよかったと、心から思った。

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※写真はジャパンのものではありません。

川東選手の優勝への軌跡、多摩祭での涙のラスト演技をこちらの動画でご覧いただけます。↓


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