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2020年 ジャパン 個人

個人総合・種目別優勝 安藤梨友(青森大学)

選手の名前はなるべく名字で呼ぶように心がけている。取材をさせていただく者として、選手に対する一定の距離感と敬意を保ちたいという思いがあるためだ。(※あくまで個人の主観です)

どうしても例外になってしまうのが、兄弟選手の場合だ。安藤兄弟も例外ではなく、私はどうしても「安藤君」ではなく「リトモ君」「ミラン君」と言いたくなる。私が梨友君を初めて見たのは、彼がまだ高校生の頃だった。「リトモ」という、ちょっと可愛らしくて珍しい名前の響きと、遠慮がちな笑顔が爽やかな、それでいてめっぽう強い選手のコンビネーションは、人の顔と名前を覚えるのが大の苦手である私の脳に強い印象を残した。(ちなみに、「りとも」の「り」にアクセントを置く人と、尻上がり気味な平坦な発音をする人に分かれると思うが、私は平坦派である)

↑Twitterにも書いたけれど、彼がどんなに強い選手かを知ってはいても、私の脳裏には常に、アップゾーンの壁にもたれてぺったりと座り込んでいた梨友君の姿があった。今回のジャパンの点数を見れば「圧勝」ということになるのだろうが、梨友君が歩んできた道には山も谷もあった。去年の東インカレでは、リングを豪快に場外した姿も見た。その時の梨友君は、自分のミスに苦笑いしながら「ヤベェ」と言ったように見えた。これで東の優勝はなくなったと思ったに違いないが、なんと観客席の仲間達に向かってガッツポーズ。ああ、強くなったんだなぁ…と感じた。

このリングの作品は、男子新体操の中でも後世に語り継がれる傑作の1つだと思う。梨友君の技術、曲、そしてこの美しい試合着と飾られたリング。どこに出しても恥ずかしくない、世界の人々に「日本の男子新体操ってこういうものだ!」と誇れる作品だと信じている。

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昨日、彼はついに一番高い山の頂に到達した。梨友君、優勝おめでとう!

準優勝 堀孝輔(同志社大学)

堀選手についてはすでに3本記事を書いた。堀孝輔という人を知れば知るほど、私の中での評価が高まり、ある種の畏敬の念さえ感じるようになった。

なんだろう、この人の強さは?
オリンピックがあるわけじゃない、金メダルを取って名誉や名声が手に入るわけでもない。何が彼を駆り立てる原動力なのか?
どうやったらこんな意思の強さを身につけられるのだろう?

話せば話すほど湧き上がってくる疑問の数々。

そして彼がクラブ選手権で優勝した直後に放った「練習の6割くらいは出せました」という衝撃の一言。

「これが僕の10割です」と彼が言うことは永遠にないんじゃないか…と思う。堀孝輔という人は、そういう人なのだ、たぶん。

そして特にコロナが猛威を振るい出してから、彼の存在そのものが全ての選手に強烈なメッセージを発していた。「練習環境を言い訳にするな。堀孝輔がいる」と全ての選手が思い、日本各地で踏ん張っていたに違いないのである。

堀君は、本当はあと数年遅く生まれる予定の未来人だったんじゃないか?とSF的な想像をしたくなる。私の目から見た堀孝輔は、いつも「今」の数歩先を歩いているような選手に見えたのだ。数年先の技術、数年先の考え方、数年先の自己管理の手法。あるいは、数年先の男子新体操をめぐる環境で、堀孝輔という選手を演技させてみたい、と思ってしまうような。

現時点で一つだけ確実に言えるのは、私達ファンが「堀孝輔」を永遠に語り草にするに違いない…ということだ。

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3位 満仲進哉(青森大学)

どんな試合で、誰が勝ったかはすっかり忘れてしまっても、満仲選手のあの姿だけは一生忘れないだろう…と思った出来事があった。

ロープを持って、マットに上がろうとする満仲選手を中田監督が止めようとしている。首を横に振って何かを必死に訴える満仲君の表情は、泣いているように見えた。監督は審判団に向かって「棄権、棄権」と言っている。満仲君はアップゾーンに戻り、手にしていたロープを投げつけるように床に落とし、タオルで顔を覆った…

試合による極度のプレッシャーからか、体が動かなくなり、演技ができない期間があった。どんなに辛かったことだろうか。本人も、そして保護者や指導者、周りの仲間たちも。

それからは満仲選手がマットに上がると、会場全体が祈っているんじゃないかと思うくらいの雰囲気が生まれた。みんな彼の演技を愛していたし、応援してもいた。

今年のクラブ選手権では準優勝。優勝した堀選手とはLeo RG(三重県)の同窓である。

堀選手の演技に対する感想を聞くと、「こうちゃんらしさがあって、いいなと思う。そういう部分を自分も見出して、演技で表現することができるようにならないといけないと思っています」と答えていた。その時、私は彼に「もう十分、満仲君らしさが出ているよ」と言いたかった。4種目、どの演技をとっても「満仲進哉の演技」である。クラ選の演技は本当に良かった。来年1月以降にフル動画を公開できると思うので、ファンの皆様には楽しみに待っていてほしい。

4年生たち

4位の城市拓人選手(青森大学)。高校生の彼を初めて見た時、パンフレットに思わずグリグリと赤丸をつけた。この選手はいい!と思った。大学生になってからは、「白王子」と呼びたくなるような斬新な試合着、落下を恐れぬ果敢な手具操作、高く上がったかかと、その多彩な技ゆえにリスクの多い構成に、ファンは多いに楽しませてもらった。

5位の佐藤颯人選手(青森大学)。スコアを見ると、18点台には届いていないものの、安定して高得点を4種揃えている。おそらく大きなミスがあっただろうと予想される綾人選手、嘉人選手との違いが順位に出た形だろうか。大ブレイク中の佐藤3兄弟。試合シーズンが始まる前からパフォーマーとしてのセルフ・プロモート活動を始めた決断に敬意を表したい。今後の活躍を祈ります!

6位の森多悠愛選手(花園大学)。同じ4年生である小川恭平がインカレで2種目を棄権、花大の最高学年としての意地もあっただろうか。黄金世代の6位は賞賛に値する。スティックの構成点9.200は、安藤選手に続く2位。夏にzoomインタビューした時、彼は「みんなを驚かせるような演技をしたい」と語っていて、一体何をして驚かせてくれるのだろう…と思っていた。素顔はいつもニコニコと柔和な選手で、あの笑顔にどれほど癒されたことだろう。

4年生たち、長い間本当にお疲れ様でした。

大会や取材の交通費、その他経費に充てさせていただきます。皆様のお力添えのおかげで少しずつ成長できております。感謝です🙏