石門心学と三方よし
ビジネスの基本は、"人を思い遣る心を持つ"ことである。
"人のため"とは、世のため人のためになる、"ハードのものづくり"に限らず、人が何を考え、何を求めているかを考え、その課題を、人との触れ合いの中で、直接的のみならず間接的にでも体得することで、それを"自分ごと"にし、その課題解決に精魂を傾けることである。
それは、現代で言えば"SDGs"であろうし、江戸時代の"石門心学"、近江商人の"三方よし"ではないだろうか。
私は自他ともに認める、"金儲けとは全く縁のない"人間である。
司馬遼太郎は、小説「竜馬がゆく」で、坂本龍馬に「金よりも大事なものに"評判"というものがある。世間で大事を成すのにこれほど大事なものはない。金なんぞは評判のあるところに自然に集まってくるさ」と言わせているが、私はそれはそうだと思うものの、"お金を稼ぐ"という意味で、ビジネスセンス皆無の自分一人のままでは、なかなか坂本龍馬の台詞は現実味を帯びてこないと素直にそう思っている。このことは、独立して四半世紀も七転八倒して生きてきたら、この私でも素直な心になって考えると、よく理解できる。何かが足りないのだ。
それが足りていれば、私は松下幸之助さんや稲盛和夫さんの足下までには近づくことができていただろうに。
では、これからどうしたらいいのか。どうしようか。
決して宗旨替えはしてはいけない。
西郷どんや稲盛和夫さんの"敬天愛人"と中村天風翁の"絶対積極(せきぎょく)"と言う二つの人間哲学に、松下幸之助さんの"素直な心"を持って、私のキャラに相応しい"応援哲学"を加味することによって、それを揺るがない柱として生きることを貫き通すことだ。
私に足りないもの、それは"温かい心、優しい心を持ったビジネスセンス"だ。私の足らずを補ってくれるそんなビジネスパートナーがいなければ事は成し得ない。
やはり、人の力だ。信頼できる人の力が私に備われば、きっと大事は成就することだろう。
不動院重陽博愛居士
(俗名 小林 博重)
[石門心学とは]
石門心学とは江戸時代に石田梅岩(いしだばいがん、1685~1744)が創始した庶民のための生活哲学です。
石門とは,石田梅岩の門流という意味です。陽明学を心学と呼ぶこともあり,それと区別するため,石門の文字を付けました。
梅岩は,儒教・仏教・神道に基づいた道徳を,独自の形で,そして町人にもわかりやすく日常に実践できる形で説きました。そのため,「町人の哲学」とも呼ばれています。
[石門心学の思想]
17世紀末になると,商業の発展とともに都市部の商人は,経済的に確固たる地位を築き上げるようになります。しかし,江戸幕府による儒教思想の浸透にともない,商人はその道徳的規範を失いかけていました。農民が社会の基盤とみなされていたのに対して,商人は何も生産せず,売り買いだけで労せずして利益を得ると蔑視されていたからです。
梅岩が独自の学問・思想を創造したのも,そうした商人の精神的苦境を救うためでした。彼は,士農工商という現実社会の秩序を肯定し,それを人間の上下ではなく単なる職業区分ととらえるなど,儒教思想を取り込むような形で庶民に説いていきました。
倹約や正直,堪忍といった主な梅岩の教えも,それまでの儒教倫理をベースとしたものでした。
また,商人にとっての利潤を,武士の俸禄と同じように正当なものと認め,商人蔑視の風潮を否定しました。
これらの新しさとわかりやすさを兼ね備えた梅岩の思想は,新しい道徳観を求める町人の心を次第にとらえていきました。
石門心学はその後組織化が進み,18世紀末には全国に普及していきました。ただ梅岩の死後は,思想的・学問的意義を失い,民衆のための教化哲学や社会運動という意味を徐々に深めていきます。
[近江商人と三方よし]
頭に菅笠、縞の道中合羽をはおり、肩には前後に振り分けた荷を下げた天秤棒。江戸時代から明治にかけて活躍した近江商人の典型的な行商スタイルである。
近江商人とは、近江国(現在の滋賀県)に本宅(本店、本家)を置き、他国へ行商して歩いた商人の総称で、大坂商人、伊勢商人と並ぶ日本三大商人のひとつ。「近江の千両天秤」ともいうように、天秤棒1本から財を築き、三都(江戸、大坂、京都)をはじめとする全国各地に進出し、豪商と呼ばれるまでに発展していった。
伊藤忠商事の創業者・初代伊藤忠兵衛もその一人。麻布の持ち下りが商いのスタートだった。
関西から関東をはじめとする全国各地へ行商することを「持ち下り」といい、反対に地方の産品を関西へ運び売ることを「登せ荷」といった。近江商人は自分の足で歩いて各地の需要や地域による価格差などの情報を仕入れ、全国的規模の商品流通を行った。こうした商いは、やがて日本経済が発展していく上で大きな役割を担っていった。
近江商人の経営哲学のひとつとして「三方よし」が広く知られている。「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考え方だ。
滋賀大学宇佐美名誉教授によれば、「『売り手によし、買い手によし、世間によし』を示す『三方よし』という表現は、近江商人の経営理念を表現するために後世に作られたものであるが、そのルーツは初代伊藤忠兵衛が近江商人の先達に対する尊敬の思いを込めて発した『商売は菩薩の業(行)、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの』という言葉にあると考えられる。」とのことである。
自らの利益のみを追求することをよしとせず、社会の幸せを願う「三方よし」の精神は、現代のCSRにつながるものとして、伊藤忠をはじめ、多くの企業の経営理念の根幹となっている。