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〈セミナーレポート〉第4回大豆生田先生と考える「こどもの道具」としてのICT

スマートエデュケーション大澤です。

2023年11月16日(木)に開催した「大豆生田先生と考える『子どもの道具』としてのICT」セミナーのレポートをお届けします!

今回のセミナーのテーマは、ずばり「つながる」です。
ICTのCは ”Communication(コミュニケーション)"。
タブレットは子どもと画面の閉じた世界を作るものではなく、社会へと開く窓として活躍してくれます。

今回は、2園の先生にご登壇いただき
● アプリをきっかけに、子どもたちの興味がお仕事へと発展し、先生インタビューや社会科見学へとつながった事例
オンライン国際交流 ×虫採り(昆虫が大好きな子どもたちとマレーシアの昆虫博士との国際交流事例)
をご紹介。大豆生田先生にも講評をいただきました。

詳細は、ぜひ動画をご覧ください!

動画をみて、アンケートにお答えくださった方に
・これまでのセミナーで発表された保育実践事例と大豆生田先生の講評
・上手にICTを取り入れるポイント

などをまとめた「ICTを活用した保育事例集」をお送りいたします。
園での研修や語り合いに、ぜひご活用ください。
アンケートはこちら。

※以下、当日のセミナーレポートです。

KitSプロジェクトの趣旨説明(2分20秒〜)

最初にスマートエデュケーション代表の池谷から本プロジェクトの趣旨をお話しいたしました。

ここ数年、先生方の日々の業務にICTを取り入れることは当たり前となっていますが、本プロジェクトがテーマとしているのは、子どもが遊びのなかで活用するICTです。

過去3回のセミナーでは、さまざまな園さんでの事例をご紹介してきました。

これまでのセミナーでお伝えしてきたことは「ICTを使うことが目的ではない」ということです。屋内・屋外かかわらず、豊かな保育環境があることが大前提で、その中の一つの道具としてICTが存在することで、子どもたちの遊びや学びがさらに豊かになる、という事例をご紹介してきました。今回の発表事例でも、子どもたちの遊びのどのようなタイミングで、どんなICTが登場するかに注目していただきたいと思います。

イントロダクション 大豆生田先生(6分50秒〜)

続いて、大豆生田先生からも「保育におけるICT」を考えるうえでのポイントについてお話しいただきました。

「これまでも何度もお伝えしてきたように、乳幼児期には身体や五感を通した体験ベースの遊びがとても重要です。ICTはそれに相反するものかというとそうではなく、ICTがあることで身体性や五感を通した遊びが豊かになる場合もたくさんある」と大豆生田先生。
子どもたちにとってICTは当たり前の存在になっていますが、ゲームをしたり、動画を見るだけだったり、ICTの良さを活用しきれていない場面も多々あります。
ICTを使うことで、大人も子どももワクワクする。身体を使い、五感を通した経験がさらに豊かになっていく。乳幼児期にそんな使い方に出会うことがとても大切。一方で、落とし穴があることも事実。こういう場で実践事例を出しながら、語り合いをすることが重要だ」とお話しされました。

事例紹介①宮城県 向山こども園 (9分10秒〜)


向山こども園さんでは、夕方の預かり保育の時間(ゆうやけクラス)を中心にICTを活用されています。今回の発表では、普段どのようなアプリで遊んでいるのかをご紹介いただくとともに、とくに面白い発展を見せた『つなげっと』の事例をお話しいただきました。
『つなげっと』は『大ピンチ図鑑』などで人気の絵本作家、鈴木のりたけさんが企画・制作に携わってくださったアプリです。街の中にいる「困っている人」と「助けてくれる人」をつなぎます。

ゆうやけクラスでは、この『つなげっと』が大盛り上がり。しかし、タブレット上での遊びだと人数が限られてしまったり、うまく交代ができなかったりして遊びづらい部分があったそうです。
そこで今度は遊びをアナログに戻し、『つなげっと』のカードを使って神経衰弱などで楽しむことにしました。

すると、カードに書いてあるお仕事に興味を持った子どもたち。「自分たちにとって一番身近な先生は、どんなお仕事をしているんだろう?」という疑問が生まれてきました。
そこで夏休みに先生インタビュー。オリジナルの「つなげっとカード」作りが始まりました。

子どもたちの興味はさらに広がり、「先生が身につけている無線機はどこに売ってるんだろう?」「副園長先生が園庭で乗っているショベルカーは、どこから来たんだろう?」と話し合ったり、調べたりする姿が見られたそうです。そんな子どもたちの様子を見て、先生方は「企業の方に仕事について少しお話ししてもらえないだろうか」と思い、早速電話で相談。すると、無線機のデジタスさんは出張講演を。ショベルカーのkubotaさんはzoomでの交流をしてくださったそうです。

実際の交流の様子は、ぜひ動画でご覧ください。

向山こども園さんは、園内に森があり、いろいろな生き物を飼育していて、自然いっぱいの環境で保育をされています。そんな園に突然入ってきたデジタルの遊び。先生方は当初、大きな抵抗感があったそうです。戸惑いや試行錯誤の様子も率直にお話ししてくださいました。先生方の思いも、ぜひ動画でじっくりとご覧ください!

大豆生田先生講評 (39分10秒〜)

向山こども園さんの事例に対し、大豆生田先生からは次のようなご感想をいただきました。
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素晴らしい自然環境とダイナミックな遊びが基盤にあることがよくわかりました。遊びの中にICTを入れていくということになった時の、現場の受け止め方も素直でユニークでいいですね。夕方の預かりの時間から活用を始めていくというのもよいアイデアだと思います。
iPadが届いてから2ヶ月間、子どもにはおろすことができなかったということですが、先生自身が遊ぶ時間をじっくりとっているのもいいなと思いました。その中から「やってみないと子どもの姿わからない」と勇気を持って試行錯誤されてみたというのもとてもよいエピソードです。

『つなげっと』は園の外の世界をより知っていくツールとして面白いですね。お仕事への興味も一番身近な「先生」から始まったのもとてもよいなと思いました。身近な人にワクワクすることから、地域の企業とのコラボへと広がっていった。多様な可能性を感じました。

一方で、これがどんどん広がっていくと活動が散漫になる可能性もあるのかなと感じた。あちこちと繋がるとイベントだらけになってしまうのでは?と思ったので、そのあたり、どう感じているか知りたいです。

(副園長 木村先生)
今回の取り組みはとても面白かったですが、その分、イベントだらけになってしまうかも、というのは私自身も感じました。ただ、ゆうやけクラスでは、いろいろな人と触れてみるという体験を大事にしたいと思っています。夕方の体験と日中の保育時間での体験をどうつなげていくのかが、これからの課題だと考えています。

事例紹介② 静岡県 このはな保育園(48分55秒〜)

園庭の隣に広い果樹園がある、このはな保育園さん。内田先生が受け持つ年中の子どもたちは虫が大好きで、普段から虫採りをしたり、虫になりきって遊んだりして楽しんでいました。
同じ頃、恐竜が大好きな子どもたちが外国に興味を持ち始め、世界地図や地球儀を見たり、国旗を描いたりする遊びがクラスに広がっていきました。昆虫好きな子どもたちも、外国には日本では見られないような虫がいることを知って、世界の虫図鑑を見て楽しんでいたそうです。
そんな時に、海外の専門家と交流ができる「きっつアース」に出会った内田先生。子どもたちとマレーシアの昆虫博士、エニスさんとの交流に挑戦しました。

1回目のオンライン交流の様子

見たことのない昆虫をたくさん見せてもらい、また自分たちの園庭で見つけた大きなミミズを見せて、エニスさんを驚かせた子どもたち。交流を重ねるごとに、エニスさんとの心の距離も縮まり、また子どもたちの興味は「昆虫」から「マレーシアの街やくらし」に広がっていきました。

内田先生の素晴らしいところは、「交流して満足!」ではなく、子どもたちの興味をつなげ、広げる環境づくりを、しっかりとされているところ。
今回のセミナーではすべてをお伝えすることができなかったのですが、内田先生は交流を重ねるたびに生まれる子どもたちの小さな疑問や言葉を拾って、保育室にさまざまな仕掛けをしたり、語りかけをされたりしていました。それがあったからこそ、子どもたちはマレーシアのガイドブックやGoogleアースなどを通して好奇心を高め、ツインタワーづくりやジャングルづくりなどの造形遊びにも、つながっていったのです。

世界一の高さを誇るツインタワーに心を奪われた子どもたち。カプラで作っていたツインタワーは、もっと高さを出すためにダンボールへと発展。「ツインタワー競争」は運動会の親子競技にもなりました。

昆虫がきっかけで始まったマレーシアとの交流が、思わぬ方に広がり、内田先生ご自身も、こども達の興味の広がりや活動の展開に驚かされながらも、一緒に楽しみ、たくさんのことを学ばれたということでした。

大豆生田先生講評 (51分05秒〜)

このはな保育園さんの事例については、大豆生田先生から以下のようなご感想をいただきました。
==========
豊かな園庭環境で、体験的な遊びが基盤にあることが今回の事例のまず素晴らしいところです。子どもたちの虫への興味が海外との交流に繋がっていきましたが、そもそもの虫とりのプロセスがかなり良かったのではないかと想像しています。

異文化コミュニケーションは人と人とのつながり、つまり言葉が伝わらなくても、この人とは仲良しだと思えることがとても大切です。つながればいいわけではなく、偶然あちらの日常が垣間見えて、子どもたちがそこに興味を持ち、相手の文化を好きになっていって、普段の遊びに繋がっていったというプロセスがとても良かったと思います。ツインタワーに興味があってもすぐ制作活動につながるとは限りません。普段から廃材遊びや造形遊びをする日常的な基盤あるからこそみられた姿だと思います

異文化コミュニケーション自体を目的にしてしまうと、活動がパッケージ化されたりイベント化されたりしてしまう。ICTを使うことが目的にならないことが大切です。今回の事例では、交流をきっかけにいろいろな遊びが広がっていきました。こういうことがたくさん生まれてきたというのは園の豊かさをよく表していると思います。

パネルディスカッション (1時間9分36秒〜)

パネルディスカッションでは、本日登壇されたこのはな保育園さん、向山こども園さんから大豆生田先生に向けてのご質問と合わせて、スマートエデュケーションからも、日頃気になっていることについて、質問させていただきました。

Q:このはな保育園 内田先生
「普段、いろいろな遊びにICTを取り入れていますが、ICTとそれ以外の遊びのバランスをどのよう に取ればよいでしょうか」

A:大豆生田先生
ICTかどうかに関わらず、今、子どもたちに何が必要なのかということを常に問うことが大切です。例えば図鑑でも、虫に触れたり、観察したりする体験が、図鑑を出すことで失われてしまうのであれば、出す必要はないかもしれません。タブレットも一緒です。自由に使える環境というのはとてもよいですが、先生が子どもたちに身体的な体験をしてもらいたいな、思っているのであれば、出し方を意図的に考えなくてはいけないと思います。

Q:スマートエデュケーション 大澤
「これまでのセミナーでは、子どもたちのアナログな遊びが起点となり、遊びをさらに深めていこうというタイミングでICTが登場する事例が多かったですが、今日の向山さんのご発表のように、コーナーにタブレットが置いてあり、タブレットの遊びが起点となって子どもの興味・関心が広がっていくということについて、大豆生田先生は、どう思われますか」

A:大豆生田先生
ありだと思います。子ども主体は保育者も主体。子どもの興味関心の起点が保育者であってもよいと思います。子どもたちの世界だけでは生まれない流れを、いろいろな経験を持っている先生が提示するのはよいことですが、重要なのはその後です。それが子どもたちの道具となっていくかどうか。どのタイミングで出すのがよいかということを考えなくてはいけません。

Q:向山こども園 木村先生
私たちは普段の生活で、メディアをきっかけにいろいろなことに興味を持つことが当たり前になっていますが、なぜかそれが子どものこととなると、『いいのかな?』となんとなく不安になってしまいます。幼児教育の中でもそうなのに、園で子どもたちの遊びにICTを取り入れていくことについて、保護者を含め、社会はポジティブにとらえているのでしょうか」

A:大豆生田先生
保育業界はICTアレルギーがとても強いです。ICTを使うことが目的というよりは、こんなにコミュニケーションが生まれ出して、学びがこんなに豊かに出てくるんだというのが実践で示されれば示されるほど、世の中はその理解がかなり進むのではないかと思います。
特に小学校において保護者がネガティブに思っているのは、教育機関でICTがちゃんと使われていないことです。一見タブレットを使っているけど、プリントでやっているのと同じじゃないか。ICTは本来クリエイティブな道具なのに、ちゃんとその役割を果たせていない、というのが保護者の不満の大きなところです。

今日の2園の実践は保護者に伝えればすごくよく理解してもらえると思うのですが、どうでしょう?
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この大豆生田先生からのご質問については、向山こども園の先生方が実際の保護者とのコミュニケーションについて、ご紹介してくださいました。
ぜひ動画をご覧ください!

★ アンケートのお願い

本セミナーの録画を見てアンケートにお答えくださった方に、
・これまでのセミナーで発表された保育実践事例と大豆生田先生の講評
・上手にICTを取り入れるポイント

などをまとめた「ICTを活用した保育事例集」をお送りいたします。
園での研修や語り合いに、ぜひご活用ください。

皆さまからのご意見を次回以降のセミナー企画にいかして参りたいと思います。ご意見・ご感想をいただけますと幸いです。

★ 次回予告

次回の「『こどもの道具』としてのICT」セミナーのお知らせです!
次回はシリーズ最終回!次回も興味深いテーマを準備してお待ちしております。
ぜひ奮ってご参加ください。
日時:2024年2月13日(火)16:00〜17:30

● お知らせ


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