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「戦場で死なないために」ーわたしはauraオーラを見たー

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●ブルンディ潜入

1996年、ブジュンブラ(首都/ブルンディ)、ホテルの部屋のカーテンの隙間から下を見ると銃を持った兵隊が巡回していた。隣のルワンダで虐殺と内戦が起きて2年、すぐ国境を接したザイール(現コンゴ民主共和国)を入れた〝グレートレイクスGreat Lakes太湖地方〟一帯はルワンダ新政権によるザイール侵攻もあり、一触即発のキナ臭さが充満していた。1週間前に訪ねたザイールのブカブでは爆発があり、わたしも至近距離で銃撃を食らった、すぐ近くの小屋に逃げ込み難を逃がれた。

94年に虐殺と内戦で国が崩壊の瀬戸際に立たされたルワンダと面積、民族構成の酷似したブルンディもまたツチ族、フツ族間の対立が激しく、指導者の暗殺、クーデターなど主導権争いを繰り返してきた。少数派のツチ族が軍を、多数派のフツ族が政治を支配するというのが長い間続いてきたブルンディの状況だった

大統領インタビューをはじめユニセフ、ブルンディ代表、そしてフツ族過激派に襲われ破壊された村、犠牲者たちの取材を終え、明日ブルンディを発ってルワンダに戻らなければならなかった、来る時もそうだったが、内戦下にあるブルンディへの入国は簡単ではなかった、車でルワンダ国境を越えた後ブルンディの途中の町まではなんとかたどり着けたが、そこから首都のブジュンブラまでは反政府ゲリラの出没が頻発しているため、陸路では行けず、小型機で飛んだ。しかし帰路は飛行機が飛ばなくなったため来た時と同じ方法でルワンダへ帰ることはできなかった。 

わたしの取材コーディネーター兼ガイドをやってくれたブルンディ・ユニセフのアンセルメに相談すると、一つだけ手はあると言われた、以前から検討していたらしく、一つだけ残された手/方法を提示された。

●デンジャラス・ロード 

それはフツ族過激派、反政府武装組織が立てこもる山岳地帯を走り抜けるという案だった。それしかルワンダへ戻る手立てがないのであれば、無論異存はなかった、しかしその道がいかに危険なのか、出発当日強烈に思い知らされた。

深い眠りも来ないまま出発の朝が来た。6時過ぎ、暗い中早目の朝食をすませ迎えの車を待っていた。ベッドの側の電話が鳴った、来たらしい、フロントから連絡があり荷物を持ってホテルの玄関に降りた、車を見てまず驚かされた、これまで見たこともないような大きな国連旗がランドクルーザーのボンネットの上に折からの朝の風に揺れていた、何故こんなに大きい⁈さらにアンセルメとドライバーの服装を見てことの重大さが脳天を撃った。

2人とも上下真っ白な服で固めている、白装束、、、死の覚悟さえ決めたそれは服装だ、荷物を運ぶ足下が震えた、今まで見たこともないような大きな国連旗、そして真っ白な服、わたしたちは朝のあいさつを交わして車に乗り込んだ。

だがもう一つの、出発をためらわさせるできごとが待っているとは、この時知る由もなかった。車が走り出すやアンセルメは、少し寄るところがあると言った、ブジュンブラ市街を抜けて少し走り車は一軒の家の前に止まった。アンセルメが家の入り口に近づくとほぼ同時に、車のエンジン音を聞きつけたのか、一人の女性が出てきた。アンセルメの妻だ、二人は軽く抱擁をした後静かに話し合っていた、わたしも車を降りてあいさつをした。どれくらい経ったろうか、静けさは女の嗚咽で突然破られた

〝行ってはダメ、あなた、あの道だけは行かないで〟、何度もアンセルメの妻は懇願していた、女の顔には涙が溢れ、必死に夫の出発を止めていた、彼女には分かっていたのだ、もしかしてこれが夫との最後の別れになるかも知れないということを。それほどこれから三人が行こうとしている道、山岳地帯は危険に満ちてるのだ。

だから上下白い服でかためていたのだ、当然目の前の景色を目にしてわたしも動揺した、一つは、幸せそうな二人をそんな危険な目に合わせていいのか、そしてそこまでしてわたしを国境まで送り届けてくれようとする二人の男たちの心意気、仕事に対する忠誠と献身にただ圧倒された。そして最後に自分の中に湧いてきた恐怖心だ、やはり、止めるべきか、、、今ならまだ間に合う、、、ほんのわずかな時間で決めなければならない、昨夜亡くなった両親が夢に出てきたのはこういうことなのか、血流が一気に勢いを増し、心臓の鼓動に胸が鳴った。

次の瞬間、そうしたわたしの弱気を見透かしたかのようにアンセルメは妻の手を振りほどき、わたしに向かって笑顔で〝出発だ!〟、そう声をかけた。

とほぼ同時に微動だにせず運転席で待っていたジョセフがエンジンキーを力強く回した、ランドクルーザーのエンジン音がアフリカの空に向かって咆吼を放った。もうあと戻りはできない。ゆっくりと車は家を離れようとしていた、後部座席に座ったわたしは外を見た、アンセルメの妻が立ち尽くしていた、彼女の目から零れ落ちる涙をわたしは見た、どうすることもできない現実が刻一刻としかしあっという間に飛び去って行く。わたしは前を向いた、運命と決断。紛争地、危険地帯では、〝決断〟という自己決定ほど危険なものはない、すべては流れ、そしてなによりも地元の人間の判断の尊重(respect)そして流れ、いや風に乗ることが最高の身の安全なのだ(自分のたかが知れた体験、錯覚などクソの役にも立たない)もし生きて帰りたいのなら

後編に続く、、、