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ASDの私が雑談本を作るまで(第3回)じつは「自分」との付き合いも大変


自己管理が苦手

 私は「発達障害」のうち「ASD(自閉スペクトラム症)」と診断されています。発達障害というと「コミュニケーションの苦手さ」が注目されがちです。が、自宅にてひとりで原稿を書いていても、困ることはたくさんありました。
 私の(人付き合い以外の)困りごとをざっくりと分けると、以下の3つです。
1)自己管理が苦手

2)応用がきかない
3)身体が適切に使えない
 すべては書ききれないので、今回は「自己管理が苦手」に話を絞ります。
 発達障害について書かれた本で、「ワーキングメモリ」が少ないという言葉がよく出てきます。ワーキングメモリを「脳のメモ帳」とか「脳の作業机」などと喩えているのを見かけて、「なるほど」と妙に納得しました。
 「脳内の作業机が小さい」と考えると、私の困りごとは説明しやすいのです。今回はこの「脳内の作業机」という言葉を使って、「原稿作成時の、自己管理の難しさ」について書いてみます。
 ただし、あくまで私自身の経験から「こうなんじゃないかな?」と推察したものなので、医学的に正確な説明ではないことをお断りしておきます。

原稿書きの長期化

 脳内の作業机が小さいとどうなるか? 常に、いまの作業で手一杯になります。全体を俯瞰して見ることができないので、「こう動かせば、全体がこう変化するな」とか、「いまから作業終了までに×日、では何時間で何と何をやり、その間に何をやれば間に合うな。よし!」といったシミュレーションができません。結果、自己管理の難しさにつながるのではないかと思います。
 これらのために、原稿書きは長期化しました。


 まず、「いまの作業で手一杯」……これはつまり、本にも書いた「同時並行で作業ができない」ということです。それも、多くの人からしたら「同時にやってる」という自覚もないようなことですら、いっぺんにできないのです。たとえば、本にも書きましたが「雑談をしながらエレベーターの降りる階のボタンを押す」といったようなことです。


 ということは、何をするにもひとつずつ片づけていくしかないわけですから、どうしても他の人より時間がかかります。原稿書きもそうでした。
 さらに、全体を俯瞰して見られないせいか、私はそもそも「時間」という連続体を思い浮かべるのが非常に苦手です。頭の中では、小さすぎる作業机の周囲に、やるべきことと期日が散らばり混沌としている。ひとつ終わらせると、その混沌の中から「次にやるのは…えーと…」と探そうとする、というようなイメージです。

 ですので、限りある時間内に作業をうまく割り振ることができません。本の原稿以外に2~3種類の仕事があったのですが、しかたなく「期日が近いもの」から順に片づけていました。しかし生活していると、日々、いろんな仕事や用件が割り込みます。そうすると締め切りを明確に設けていない「会話のきっかけレシピ」はどんどん後回しになっていきました。

 さらに、この「時間に対して的確に作業を配分できない」はそのまま「体力を配分できない」につながり、体調管理も非常に難しいのです。
 よくやってしまうのが、何かの期日までは必死で作業をつめこみ、疲労がたまっても「この日までガマン! 次の日から休憩!」と自分に言い聞かせる。そして終わったらダウンする、というパターンです。
 あるいは、原稿を「この章は今月末までに仕上げる」などとKさんと目標を決めたときに限って、がっくりとうつ症状が出て動けなくなったりしました。
 何度も、Kさんに「すみません、調子を崩していて、しばらく動けません」と連絡して待ってもらう羽目になりました。2016年から始めて、3回も年を越してしまいました。

「見える化」する

 これではイカンといろいろ試した結果、私の場合「頭の中で考えようとせずに、外に書き出す」のが有効だと分かりました。時間・作業・体力を紙に書き出して「見える化」するのです。
カレンダーを自作
 残念なことに、私はふつうのマンスリーカレンダーを眺めていても、「今日からここまでが何日間、期日までにこれくらい時間がある」といったイメージが湧きません。そこで、「私でも読める・読みやすいカレンダー」を作ろうとしました。
 役に立ったのが、「バレットジャーナル」です。これは、ざっくり言うと「自分で作る手帳」です。日ごと、週ごと、月ごと、3か月ごと、1年ごとのページを手書きで作ります。そして、それぞれのスパンでの計画を箇条書きで書き込み、終わったらチェックしていくのです(私が参考にしたのは、Marie『「箇条書き手帳」でうまくいく――はじめてのバレットジャーナル』ディスカヴァー・トゥエンティワン、です)。
 私の脳内には常に、「今」と「期日」しかなかったのです。それが、「1日」「1週間」「1か月」「3か月」と別々の紙に書き出し、並べて見ると、水を流しながら「Water」とサリバン先生に手で描かれたヘレンケラーのように「おお! 時間はこう流れている!」と腑に落ちました。頭の中でこれらを切り替えることができないようで、いまでもそれぞれの紙を並べて見ながらスケジュールを管理しています。
タスクの細分化
 さらに、バレットジャーナルには重要なヒントがありました。「タスク(作業)の細分化」です。
 それまでにも、時間管理でよく推奨されている「TODOリスト」を作ってはいました。でも、1日にこれをやる、とか、1時間にこれをやるといった区切りに作業をあてはめても大まかすぎて……つまり大きすぎて、私の小さな脳内机には乗り切らないようなのです。大きすぎる作業にそのまま取りかかろうとすると、処理しきれないためか頭が止まり、うつっぽくなることに気づきました。

 そこで本を参考に、毎日30分くらいかけて、仕事の内容をあきれるほど細かく分割して書き出しました。
 重要なポイントとして、私の場合オフィシャルな「仕事」だけではダメで、「家事」や「自分のしたく」、そして「休養」も「タスク」ととらえて書き出す必要がありました。たとえば「朝起きて、仕事開始前にやること」も10コ近く書き出しました。

 それまでは、仕事でも家事でもとちゅうで混乱してイライラしたり、何をやっているか分からなくなったりして時間がかかっていました。でも、この手間をかけることで、むしろ短時間に片づけられるようになったのです。
 また、タスクを実行するたびに「この作業は何分かかった」と記録すると、ついに各作業が「だいたいどれくらいの時間でできる」と脳内でイメージできるようになりました。大進歩です。これに、体力を「10を満点として朝はどれくらい、夕方の残りはこれくらい」と数値化したものを並べると、「1日に、体力的に可能な量」が分かってきました。

 このように時間・作業・体力を「見える化」することで、(時間はかかりますが)「この日数ならこの作業をいつやって、こっちはいつやって……で、期日に間に合うな」とシミュレーションできるようになってきました。本も、前年に決めた「2019年の1月末に原稿をまとめ、2月にイラスト入稿、3月に校正刷り、5月に出版」という予定を無事クリアしました。

 ただ、いまだに自己管理の困りごとは尽きません。タスクの細分化が難しい作業があると「頭が固まりそう」になりますし、そもそも作業机が小さい=こなせる仕事量が少ないこと自体はどうしようもないのです。

 次回は、本が仕上がって売り出すときのジレンマについて書きます。

枚岡治子(ひらおか はるこ) 1975年大阪府生まれ。大阪市立大学大学院前期博士課程修了後、IT企業につとめ、現在はパソコンインストラクターおよびライターとして活動。「普通」と福祉・医療のスキマにできる悩みに関心がある。

第4回は、こちらです

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