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先生が先生になれない世の中で(3)私たちの教育マニフェスト

鈴木大裕(教育研究者・土佐町議会議員)

高知では、11月7日、県知事選が始まった。

3期務めた尾﨑正直知事が衆院選に自・公推薦で出ること、後継者として任命した浜田省司氏が、自・公の推薦取りつけを優先して与党色が一層濃くなったことに危機感を募らせた野党は、統一候補を立てることで一致。

尾﨑県政の良いところは継承しつつも、国に対して「いかんものはいかん!」としっかり言える高知県であってほしいと願っていた僕も、立候補された松本けんじさんと対談し、教育アドバイザーという形でマニフェストづくりにも関わらせてもらうことになった。

奇しくも、今回のお誘いがかかったのは、埼玉大学の高橋哲さんと1月に土佐町でおこなう『日本の教育の未来を考え、語り合う合宿』のテーマを、「私たちの教育マニフェスト」にしようと話していた時だった。

政党にかかわらず、賛同する人が誰でも使えるマニフェストがあったら……。そんな妄想を早くも具現化する時が来たのだ。

せっかくなので、各分野のエキスパートに声をかけて、一緒に練り上げることにした。集まったのは、気鋭の教育法学者である埼玉大の高橋哲准教授、現役小学校教諭であり『いま学校に必要なのは人と予算』(新日本出版社)の著者としても知られる山﨑洋介さん、労働弁護士として大活躍の東京法律事務所の菅俊治さんなど、土佐町の教育合宿にも参加してくれる強力なメンバー。

ほんの数日で作ったものだが、高知県だけでなく、日本の教育界全体に希望を与えるマニフェストができたのではないかと思う。

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強調したいポイントは以下の通りだ。

1.学力改革

▶ AI時代を見据え、AIでは代替できない人間性豊かな感性教育の追求

▶ 高知県が独自でおこなっている学力テストを廃止し、必要な教育条件整備に予算をまわす

▶ 毎年63億円もの税金を使っている全国学力調査の抽出式への移行を国に訴えていく


全国学力調査を主体にした教育改革に関しては、すでに述べてきた通りで、改革すべきは、ペーパーテストを前提にした狭く偏った「学力」観そのものだ。

テスト対策ばかり続けていたら、子どもたちはAI時代を生き抜けるわけがない。

2.教員不足・働き方改革

▶ 教員の定数改善

▶ 教員の授業準備時間の確保とそのための正規教職員の配置

▶ 一年単位変形労働時間は高知県では採用しない


ここで大事なことは、教員の勤務時間の削減を教育現場の責任でおこなおうとする国主導の「働き方改革」とは一線を画し、あくまでも行政の責任で、教員が専門性を発揮できる教育環境の整備を進めていくということだ。

教材研究の時間もない、生徒と過ごす時間も充分にない、(小学校の英語学習など)免許もない教科の指導を強いられて、どうして教員が専門性を発揮できようか。

もちろん、そのためには人も予算も必要となる。ちなみに、山﨑さんの指摘によれば、高知県の義務制諸学校教職員定数充足率は全国ワースト1位。法で定められた標準定数に81名も足りていない(2018年5月1日調査*)。

【*】2019年8月27日高知県教職員配置資料

3.学校統廃合

▶ 学校統廃合の停止と、小規模校への支援

▶ 地域づくり、防災拠点としての学校の推進


学校がなくなれば、その地域の少子高齢化が進み、過疎化は避けられない。

経済的効率性という側面からしか学校を見ないから統廃合という乱暴な政策になる。「そこに子どもたちがいるのだから学校が必要。」そんな子どもの教育を受ける権利に立ち返ること、そして「地域の核」としての学校を守っていくことが今、求められている。

4.子どもの貧困

▶ 県内の義務教育における給食費無償化

▶ 公立認可保育所の増設


義務教育における給食費の無償化くらいの予算は、県独自の学力調査を廃止すれば確保できる。

家庭の「自己責任」に任せるのではなく、すべての子どもに充分な食事を、政治の責任で保障していく。

1月11、12日と1泊2日で、5回目の『土佐町で日本の教育の未来を考え、語り合う合宿』をおこなう。全国から参加する様々な人たちで、このマニフェストをたたき台に議論して、「私たちの教育マニフェスト」を完成させようと思う。教育関係者だけでなく、福祉士、弁護士、ジャーナリストや政治家も来る。

子どもの教育を通して、社会のあり方そのものを問い直す……そんな旗振り役を高知が担ってほしいと、心から願う。

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鈴木大裕(すずき・だいゆう)教育研究者/町会議員として、高知県土佐町で教育を通した町おこしに取り組んでいる。16歳で米国に留学。修士号取得後に帰国、公立中で6年半教える。後にフルブライト奨学生としてニューヨークの大学院博士課程へ。著書に『崩壊するアメリカの公教育――日本への警告』(岩波書店)。Twitter:@daiyusuzuki

#クレスコ #鈴木大裕 #高知県

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