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刺し子にみる多様性

刺し子は、布に綴り(つづり)縫いや刺し縫いする針仕事のことです。

刺繍は装飾の要素が強いことに対して、刺し子は補修や防寒を目的に始まりまり、時代の流れとともに、装飾の要素が加わり、糸目を重ねて美しい模様を描く刺し子へと発展してきました。今では、本当にたくさんの図案があります。

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ときどき、刺し子のルール、縫い方について聞かれるのですが、ちょっと困ります。それは、刺し子にはあまり決まったルールがないからです。返し縫いや玉止めをしない、という最低限の決まりくらいしかありません。手芸キットなどのレシピによっては、玉止めをする場合もあるほど、緩やかな決まりといえます。

一方、刺し方(技法)はいくつかあります。地刺し、一目刺し、模様刺しが代表的なものです。地刺しは、こぎん刺しや南部菱刺しにみられる刺し方で生地の布目を数えて刺していきます。

一目刺し、模様刺しは、布に下絵を書いたり、布の模様を頼りに刺していきます。それぞれ刺し方はありますが、臨機応変に、ということが多いようです。

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もともと刺し子は東北をはじめ、中部地方、九州地方など各地に見られ、その土地土地や家庭で親しまれ、刺されてきたものです。だから、そんなに細かなルールはないのかもしれません。刺す柄も伝統柄など代表的な柄もありますが、オリジナルな柄を作り出すこともできます。

大槌刺し子が技術指導を受けている、二ツ谷恵子さんも「そんなに細かいことは気にしないで、好きに刺したらいいんやで。お客さんも、細かく揃った目が好きな人もいれば、そうでないのが好きな人もいる」とおっしゃいます。

そんなルールに縛られない刺し子を見ていると、「味」があって本当に楽しいです。刺し子さん一人ひとりの刺し子にも個性があります。針目に表れることもありますが、糸色の選び方にいちばん表れるような気がします。同じ柄でも糸の色が違うと、まったく違う刺し子のように見えるから不思議です。ピンクが好きで、必ずピンクを選ぶ人。出来上がりを見越したような色彩感覚で色を選ぶ人。刺し子は刺し上がるまで、想像がつかないことが多いのです。「え?この色?」と思っていても、出来上がると見事なこともしばしば。もちろんその逆もあります。やってみないとわからないのが、刺し子の難しさでもあり、楽しさでもあります。

ついつい正しい刺し方を探してしまいそうになりますが、それさえもないのです。そう考えると、刺し子は多様性の宝庫。刺し方や模様も違えば、一人ひとり針目も違う。そして、それが尊いと思うのです。

この多様性こそが刺し子であり、手仕事の魅力なのかもしれません。


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