第10章 ヴァーゴの章 パートⅢ
アクベンスがアルキバの羽根を踏みつけていたのを開放すると、アルキバは素早く遠くの空へと姿を消していった。
オオワシのシャインはアルキバの気配を察するとさらに高い場所に舞い上がり、誰にも察知されぬよう、この一幕を邪魔することもなく見ていた。
シャイン「アルキバめ!」
シャインはタイルにだけ聞き取れる甲高い声で鳴き、アルキバの後を追った。
アルレシャがアクベンスへ向けた剣先を下ろす。
アルレシャ「すまない。王女様の意思も尊重してください」
アクベンス「分かっている。こちらこそすまなかった。急いでラム殿の元へ向かおう。気がかりはまだ終わっていない」
アルレシャとアクベンスは話しながら早馬に跨った。
シャウラ王女「そうだな。ジュニアも共に来てくれ。君の力が必要だ。ヨーメーはリブラの石を持って城へ戻ってくれ。あなたにその石をお任せしたい」
シャウラ王女は、ジュニアを見て手を差し伸べる。目で渡してくれないかと合図するがジュニアはすぐに応じようとはせず、そっと胸元に両手を添えた。
ジュニア「ちょっと、待ってください。この石は……。僕に預けてください。それに、精霊の力は多い方がいい。アクベンスさんのレオもきっとコントロール出来ますよ」
ジュニアはシャウラ王女に石を渡すのを拒んだ。
シャウラ王女「君がその石の適任者だとして、その石のコントロールが出来るのかまだ分かっていない。ヨーメーの石も私が預かりたいと思っている。しかし、これから私らは戦地に向かう、私らが相応しいかも分からない。万が一壊してしまっては申し訳ない。しかし……」
戸惑いながらシャウラ王女は、ヨウフェーメーを見つめる。
ヨウフェーメー「お気遣いには及びません。シャウラ王女。ヴァーゴをお預け致します。この石にどのような力があるのかは分かりません。私に生の石の力がなくなった今、神の子でも無くなりました。城に戻って王様にこの事伝えなければなりません。戦地ではお役に立てませんが、これまで培ってきた医療技術ならまだ残っています。その石をお役立てください。私は後方支援に務めさせて頂きます。ジュニア殿、今リブラに必要なのは私です。私にお預けください。私が大切に守ります」
ヨウフェーメーはシャウラ王女に話しながら優雅に歩みを進め、ジュニアに石を差し出すように前に出したシャウラ王女の手のひらに自らの運命の石ヴァーゴを乗せ預けると、ゆっくりと振り返りジュニアに石を差し出すようジュニアを見つめた。
リブラの石はジュニアの意思に反するかのように、自らの意思でするりとジュニアの手の中からこぼれ落ち、ヨウフェーメーの目の前まで転がる。
シャウラ王女「ジュニア、分かってくれてありがとう」
ヨウフェーメーは、転がり落ちた運命の石を素早く拾い上げた。
ジュニアより一瞬早く動いたことで、その場にいた誰もがジュニアより渡されたと思っていたのだろう。
リブラの石を受け取ったヨウフェーメーだけが、底知れぬ違和感を感じていた。
シャウラ王女に早馬を渡して、城への帰路についたヨウフェーメーは、風の精霊を呼び出し城門まで移動した。馬ほどの速さは無いものの徒歩で帰るよりかは遥かに早い。
シャウラ王女達がラムと青龍メリクの元にたどり着いた頃と同じ時刻に、ヨウフェーメーは城下町を通っていた。
それは丁度、アルキバがスピカの元へたどり着いた時刻と重なる。
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