カプリコーンの章

第3章 カプリコーンの章

ジュニアが勢い良く森を抜けた先には大きな城下街が広がっていた。

街の中にはあらゆる場所で精霊たちが我を失い操られている光景を目撃する。

ジュニアは心を痛めた。自分が森で見てきた精霊たちと雰囲気が違う。

まるでジェミニが使う精霊たちのようで、精霊たち全てが敵に見えた。

街の人々は、一風変わった少年に目を向ける。

みすぼらしい姿に、精霊を持たない少年。

森の精霊たちは街までは付いて来なかった。

ジュニアは完全に孤立していた。

ジュニアが訪れた街は、アンタレス国の城下町で、いたる所にサソリのエンブレムを施した王旗が国王を称えるように飾られていた。

シャウラ王女「アクベンス。あの子供はなぜ精霊と一緒にはいないのか?なぜ、我々は石に縛られて生きていかなければならない?」

アンタレス国のシャウラ王女は近衛兵のアクベンスを連れて城下町を歩いていた。シャウラ王女にとっては国の見回りは、息苦しい城生活からの一時的な開放の時間であった。

アクベンス「あの者は時期に亡くなるでしょう。石を持たず生きていくことなどはできません。我々はそのように定められた生き物なのです。精霊が命を運んで来ております」

シャウラ王女は、暇な生活を少しでも面白くするためにはどんな災いごとにも積極的に参加するお天馬な王女だった。アクベンスの回答を理解できなかった訳ではない。王女が生きた年月の間に、石を砕かれた者が衰弱して無くなってしまう姿を王女は、何度も目にしていたし石と命が結びついていることを深く理解もしていた。

それでも、なぜか何処から来たのかわからない青年に興味を抱き、あのままには出来ないという思いを強く感じていた。

シャウラ王女「我が城へあの者を招待し介抱するとしよう。アクベンス、頼んだぞ」

アクベンスは深くお辞儀をして、他の近衛兵に伝令した。ジュニアを城内の医療施設へ連れて行き手厚く介抱するようにと。

城内の医療施設は、ことさら大忙しの日々で、医療技術は他国を圧倒するレベルと言われるほどであった。

その理由は、サジテリアスの刻印が記された「生」の石を持つ女医の力が大きいからだった。

女医の名前をヨウフェーメーという。

この世界に一つとない「生」の石は、冥界にて迷いし魂を連れ戻し、無為な石にその魂を刻む力を持っていた。

即ち、それは新しい人生を作り与える事ができる唯一無二の力だった。

猛獣の住む森で石を失った騎士たちの命を、ひとりの女医が懸命に看病する姿は、まるで女神の偉業と讃えられていた。

シャウラ王女「すまない。また一人増やしてしまった。世話になるぞ。ヨーメー。私にもお前の力が使えれば、どれだけお前を楽にさせてやれるものか」

城に戻ったシャウラ王女は、ヨウフェーメーのもとを訪れた。城下町の見回りの後は、大概厄介事を持ち込むため、ヨウフェーメーのもとに足を運ぶことも既に日課のようになっていた。

これはジュニアと出会ってから、丸2日後のことである。

ヨウフェーメー「お気遣いありがとうございます。お嬢様。大丈夫です。これが私の運命ですから」

しなやかにお辞儀をする優雅さと美しさは、この世界でも1・2を争うほどであるだろう。女性であるシャウラ王女ですら、その美しさには圧倒されていた。「この者には何事も敵うまい」

ヨウフェーメー「お嬢様。とても言い難いことですが、この度お連れいただいた方は、アクベンス殿の手配のものによって運ばれてきましたが、こちらに着いた時には既に意識がなく、生死の間を彷徨っております。生への渇望も乏しく、私の力を持ってしても、もしかしたら危ういかと存じます。このような事は、初めてのことでして、不思議と彼の運命を捕まえることが出来ません」

申し訳無さそうに項垂れるヨウフェーメーに、シャウラ王女はそっと近づいて肩を抱いた。

シャウラ王女「そうか、ありがとう。よほどのことなのだろう。ヨーメーが手こずるなど、今の今までなかったのだからな。それにしても不思議な少年だな。このまま死ぬような者とは思えないのよ。私の幻想かもしれないのだけど」

ヨウフェーメーとシャウラ王女の歳の差は、母と娘ほども年齢差があった。もちろん、ヨウフェーメーの方が年上で、シャウラ王女は、ジェミニをこの少年というほどにも年が離れておらず、年齢で言うとひとつ上ほどの年齢である。ただ、世間が王女に向ける期待度は非常に高く、幼くして大人びた言動をせざる負えない状況であった事が、少女の言動から子供っぽさが消えていったしまったのだ。

ヨウフェーメーといる時は、時折少女に戻る時がある。まるで、母親に甘えるように。

ヨウフェーメー「お嬢様。少年は生死の間を彷徨っておりますが、決して亡くなることはありません。少年の石は別のところにあるのです。そして、その石は少年から離れていても、この少年を生かし続けることでしょう。その為、別の石を用立てようとしても、彼の運命を刻むことができないのだと思います。なので、石さえ見つけることが出来れば、彼は息を吹き返します」

この時、西の国境に到着したジェミニは、風の精霊、火の精霊、水の精霊、土の精霊を引き連れて、精霊を解き放ち街中を清掃するかのようにジュニアを探すべく街中に精霊をばらまいた。その力があまりにも強かったため、それはまるでタイフーンの目となって家屋や人々を傷つけていた。城下町の中央に近づけば近づくほどにジェミニの力は強くなるように、もの言わぬ精霊達はその力を最大限に発揮していた。

その一報が、アンタレス国王の耳に報告された。

国王ジュバ「サンガス、ギルタブ。兵団を率いて、この災害に対処するように」

サンガス、ギルタブ「かしこまりました。父上」

国王ジュバのいた王座の大広間を出たサンガスは弟の肩を小突いた。

サンガス「ギル。俺だけで十分だ。お前は残れ」

そんな上から目線のサンガスにギルタブはいつも不機嫌に反発した。

ギルタブ「サンガ。今回は俺に仕事を任せてくれ。俺にもやれる所を見せてやるよ」

それもそのはず、ギルタブはサンガスよりも精霊を操る力が弱く、いつも兄に尻拭いをしてもらっていたからだ。サンガスにとってはギルタブは足手まといだった。

ただ、ギルタブ率いる兵団はとても優秀だった。この国が健在なのは、二人の兄弟の力だけでなく、国民の力のバランスがとても優れていたからに他ならなかったのだ。

そして二人の兄弟が引き連れる兵団は城から城下町へとなだれ込んでいった。その数、約2万人。1兵団約1万人の規模を持っていた。

先方にギルタブ。少し遅れて後方にサンガスである。

精霊が暴れまくっているという状況は、自然災害の最も脅威となる所であり、人間同士の小競り合いなどというものとは、ケタ違いの攻撃力を放っていると考えられた。それが、この人数を必要としていた。これが自然災害を小さくしたいという人の強い意志でもあった。

この時にはまだ、ジェミニ一人がもたらしている自然災害として、認知されていたわけではない。

ギルタブがジェミニが放った精霊に出会うまでそれから1週間の時を数えた。

シャウラ王女「お父様!何故私にもお声をかけてくれなかったのですか!」

シャウラ王女が城下町の噂を耳にした時、2兵団は既に出発しており、シャウラ王女を置き去りにしていた。近衛兵のアクベンスの計らいで、2兵団の出発する時期にシャウラ王女は、城下町の災害が起きている反対側を見回っていたからである。

国王ジュバ「シャウラ。お前はまだ子供じゃないか。それに、お前には近衛兵を預けておるではないか。城から離れないのが本来の務めだぞ。城下町を散歩することがお前の仕事じゃないんだがな」

国王ジュバにとっては可愛い娘であることは間違いなく、年齢もまだ初陣には早かった。その為、国王はいつも大人びた考えをする娘を子供扱いしているが、シャウラ王女にはそれが不当な扱いに感じられていた。

シャウラ王女「まあ!散歩ですって!お父様は私がまだ遊んでいると思っているのね!お母様!なんとか言ってください」

隣りに座る物静かな女王は困ったわねという顔で国王を見るだけで、何も言ってやることが出来なかった。

国王ジュバ「こら、シャウラ。ウェイを困らせるな」

国王も娘には少々甘い所がある。決まって困って目を向けるのはアクベンスにである。彼は事のほか、シャウラ王女の気持ちを鎮めるのがうまかった。

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