えせーねす

ある日、近所の犬にこう言われた。

「最近、漫画家がTwitterを使って作品の宣伝をすることが増えている。これは一見良いことに見えて、実は由々しき問題だ」


いきなりこの犬は何を言い出すのかと私は思った。

最近はTwitterを開けば何かしらの漫画が無料で公開されている。
しかし確かに、漫画家の先生方で、作品をTwitterにアップして宣伝するのはいやだ…抵抗ある…と悩んでいる人も結構多く見かける。

犬が言うには、現在、漫画業界のSNS周りで起こっていることを要約すると以下の通りらしい。


1.SNS上で自主制作漫画を発表して人気を博し、商業出版へとつながった作家がいる。
また、それを目指して漫画を公開している人がたくさんいる。

2.すでに商業連載している作品の一部を、SNS上にアップロード(掲載)して宣伝する作家も増えている。

3.編集部からの指示でそれらをやっている作家が一定数いる。

4.編集部の公式アカウントなどでは基本的にやらない。作家自身でやることを推奨される。



…ということだ。


犬は言う。「自分から進んでSNSを使う作家は別にいい。それは結構なことだ。
しかし問題は、編集部の意向や世の中の流れにより、あらゆる作家が同じことをさせられる流れが出来ていることである」

偉そうな犬は続けて、このやり方の良いところと問題点を語り出した。



良いところ

1.SNSオリジナル漫画の場合→作者の好きなことだけ描いた趣味全開の作風にできる。
それがSNSで支持を得た場合のみ商業出版されるから、出版してから赤字を負うリスクが低い。

2.商業連載作品をSNSでアップする場合→宣伝コストをかけずにPRができる。
読者もお金をかけずに試し読みすることができる。


問題点

●漫画家は作品づくりに注力したいので、SNSでの過度な宣伝活動・露出はあまりやりたくない人が多い。
また、大事な作品をネット上で軽々しく無償公開したくない作家も多い。

●そういった作家の意志とは関係なしに、やらないと駄目という空気が出来てしまっている。

●漫画家は広報係ではない、本来そういう業務をする立場の人がやらずに作家が宣伝すること自体が問題だとも言われている。

●そもそも出版社は作家に投資をしてリスクを負うことも大事な役割だったはずなのに、その段階をすっとばして利益だけ得ようとしている、という指摘も上がっている。

●もともとSNSは日常の些細なことをつぶやく場だったのに、すっかりビジネスに染まってしまって居心地が悪いという声もある。

●作家側だけでなく、読者側からもそういう意見が多く上がっている。
作家には日常的なつぶやき&たまにアップされるラクガキを期待していて、宣伝はあまり見たくないという層がいる。

●みんながSNSでこぞって発信すると、情報量が多すぎて一つ一つが埋もれてしまう。
そのため何度もリツイートなどを繰り返し、情報量がさらに増えていくという悪循環が生まれている。

●SNS上で人気を得る漫画はある程度タイプが決まっており、いい作品ならバズるという訳ではない。

●当たり前すぎることだが、作品や作家によって向き不向きがあり、それぞれの最適なやり方で宣伝もしていくべきなのに、何故かそれが忘れられている。


「…という事が挙げられる」犬は言った。




……随分と過激なことを言う犬だと私は思ったが、おおむね間違ってはいないかもしれない。

SNSに利用価値があるのは確かだけど、みんなが右にならえで同じことをしてもしょうがないよね。うんうん。

じゃあ、これから漫画の宣伝はどうしたらいいんだ?と私は犬に問うてみた。


「知るか。自分で考えろ」

そう言って犬は去っていった。


どうやら問題提起だけして、答えは教えてくれない犬らしい。



〜つづく〜





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