『狼と香辛料』アニメリメイクレビュー

 私の心を揺さぶる、アニメ作品がありました。
 その物語は中世ヨーロッパに似た世界に、ほんの少しの幻想を混ぜ込んだ、商売と経済のお話。そして夫婦漫才のようなやりとりの間に紡がれる、意地と愛のせめぎ合い。魅了された人が多いこのおとぎ話は海をも越え、遥か彼方の土地の人の心をも掴んだそうです。(註)
 狼と香辛料。
 不釣り合いな言葉が組み合わさったタイトルで知られるこの作品は、原作、コミカライズ共に無事完結を果たし、今では次の世代の物語が紡がれるまでに大きなコンテンツとなりました。
 アニメ初放送から10年以上もの刻を経て、リメイクされるとは…。思ってもみなかった幸運です。今回は、その初回のレビューを記します。

 行商人クラフト・ロレンスは、奇妙な収穫祭を行う村に立ち寄る。その夜、荷馬車に忍び込んだ少女を咎めようとする彼の目に映ったものは、彼女の頭から突き出た獣耳。唖然とするロレンスに、少女はまるで狼のような遠吠えを響かせる…。

 ダメだ、私の文章ではあの世界観を表現しきれねぇ!ということで、フルリメイクされた狼と香辛料のあらすじでした。

 視聴を終えての第一印象は「驚き」でした。
 通常、既存アニメのリメイクは作品テイストを敢えて変える例が少なくありません。しかし、この作品は既存作品の空気感とテイストをそのままに、しかし緊張感を持って送り出しています。
 昔話のような導入には、ファンには分かる嬉しい仕掛けが施されていますし、ロレンスの第一声を聞いて「あの世界に戻ってきた」と感じる人も多いでしょう。
 嬉しいことに、オープニングとエンディングは16年前の雰囲気を受け継いでいました。ゆったりと流れる大河を思わせるようなオープニングソングと、主人公たちの朗らかな関係を浮き上がらせるエンディングソングは今回も健在です。特にエンディングをClariSが担当していたのは個人的にガッツポーズものでした。

 そして、何よりここで話したかったのはヒロインの「賢狼ホロ」です。
 ビジュアルももちろんですが、私は「声」に心を奪われました。
 人間とは別の時間軸に生きるホロ、その長い年月で培われた賢さとある種の諦観、人間への慈愛と悲哀、それらを表現するのは至難の業です。
 しかし、声優を担当する小清水亜美さんはスッとホロに入り込んでいました。そして彼女自身の16年間に培った経験や技術、環境や心境の変化を演技に取り入れたのでしょう。オリジナル収録時を遥かに超えた深みが声に乗り、少女の外見に不釣り合いな胆力と知恵を持つホロのアンバランスな魅力をさらに引き出していました。
 もちろん、オリジナルの弾けるような元気さと明るさを持つホロは大好きです。そうでなければハマッてなかったですからね。今回は違った一面、表現を見ることができて、本当に幸せです。

 4月開始のアニメは個人的にも目白押しな作品がたくさんあり、目移りしてしまいます。その中でも私の一番の推しは「狼と香辛料」です。
 皆さんも一度ご覧いただけると幸いです。なお、今回は続編ではなく、物語の最初からなので気兼ねなく見られること請け合いです。

(註)ネット上の話、それも又聞きなので私も半信半疑なのですが、こんな話を聞きました。とある海外の方の書き込みです。
「俺はホロが大好きだ。しかし自分の信じる宗教ではホロのような異端の存在は認められていない。俺はどうすればいいんだ」
この書き込みにこんな反応がありました。
「分かる!自分の信じる宗教では偶像崇拝は認められない。だけど私はホロが好きで仕方ないんだ。教えに反するこの愛らしい存在をどうしていいか分からない」
以後、彼らのレスの応酬は互いの信教を超えて盛り上がり、最終的な結論は「信教に縛られない日本人が羨ましい」だったそうです。
…いや、まぁ、気持ちは分かるよ?

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