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アンナ・ポリトコフスカヤの世界

本棚にある本を紹介するこのコーナー。第5回はロシアのジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤの世界です。

『チェチェンやめられない戦争』

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NHK出版 2004(平成16)年8月25日第1刷発行
[訳]三浦みどり

1999年に始まった第2次チェチェン紛争。
「ノーヴァヤ・ガゼータ」紙の記者としてチェチェン共和国に赴いたアンナ・ポリトコフスカヤはロシア軍の空爆から逃れながら取材を続け、そこで起こっている恐るべき腐敗を記事にしてゆきます。

アンナ・ポリトコフスカヤの本来の職場はモスクワにありますが、「私の職場はチェチェン。もちろん、第2次チェチェン戦争の間は」と書いています。
第2次チェチェン紛争は2009年に終了したそうですが、アンナ・ポリトコフスカヤが自宅アパートのエレベーターで射殺されたのは2006年10月でした。

第2次チェチェン紛争はロシア軍の空爆から始まっていますが、それを指揮したのは当時ロシア首相だったウラジーミル・プーチンでした。

『プーチニズム』 報道されないロシアの現実

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NHK出版
2005(平成17)年4月25日第1刷発行
2007年2月10日第4刷発行
[訳]鍛原多惠子

英語版のタイトルは『PUTIN'S RUSSIA』。直訳すると「プーチンのロシア」ですね。
内容は「訳者あとがき」の下記の言葉に尽きます。

「著者は、ロシアにおける軍隊の腐敗、マフィアの増長、法曹界・政界の根深い腐敗を指摘し、これらの問題の元凶はほかならぬプーチンだと主張する」

チェチェンの悲惨な状況を見続けたアンナ・ポリトコフスカヤは、ロシアで何が起きているか記していきます。
ロシアで言うところの「合法」の実態を思い知らされます。
そして元凶はウラジーミル・プーチン大統領その人であると結論しています。全てはプーチン発であろうと。

「おわりに」はこう結ばれています。
「公式の世論調査によれば(これらの調査は大統領府との契約を切られたくない調査会社によって行われている)、プーチンの人気は最高水準にある。プーチンはロシアの圧倒的多数の支持を得ている。みなプーチンを信用している。プーチンがすることに賛成する。」

『ロシアンダイアリー』 暗殺された女性記者の取材手帳

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NHK出版 
2007(平成19)年6月30日第1刷発行
[訳]鍛原多惠子

日本語版はアンナ・ポリトコフスカヤの死後の発行となったこの『ロシアンダイアリー』は、2003年12月7日から2005年8月30日までロシアで何が起こっていたか日記形式で記されています。
「本や記事に収めきれない「悲劇」を日々ノートに日々刻み付けていたいた」(解説より)ものだそうです。
こういう形式の方が問題があまりに多岐にわたっていることが伝わるかもしれませんね。

プーチン再選につながる議会選挙の開票結果に関する疑惑から始まって、再選された大統領選挙へ。ロシアでの選挙がどういうものか書かれています。
とにかく人がたくさん死んだり行方不明になったりするそうです。
Wikipediaによると、2004年の大統領選挙でのプーチンの得票率は71.9%、投票率は100%。この本によると選挙は疑惑だらけだそうです。

ちなみに『チェチェンやめられない戦争』はロシア本国で出版されていますが、『プーチニズム 報道されないロシアの現実』と本書は、ロシアでは出版されていないそうです。
訳者は「訳者あとがき」で、「もしかすると彼女の著作物は、誰かにとって都合が悪かったのだろうか。なにより、彼女の暗殺がこのことを雄弁に物語っているように思える。」と遠回しにというか皮肉っぽい書き方をしていますが、ひょっとしたら役者に対して、「はっきり書いてくれるな」という要請があったのかもと勘繰ってしまいますが、「誰か」というのはもちろんウラジーミル・プーチン大統領ですね。

アンナ・ポリトコフスカヤ暗殺の実行犯と実行犯に指示した者(モスクワ警察の元警視、事件当時捜査課長)までは逮捕されて、裁判で有罪判決を受けていますが、元警視に金を渡してポリトコフスカヤ暗殺を依頼した者は不明のままだそうです。

今回紹介した3冊は、新刊では手に入らないようですが、Amazonの販売リンクを貼っておきます。電子書籍があればいつでも読めるのですが、それも無いようですね。残念です。

チェチェン やめられない戦争

プーチニズム 報道されないロシアの現実

ロシアン・ダイアリー 暗殺された女性記者の取材手帳


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