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日々棒組み955 世界一厚い本を(夢で)見たら

いや夢の話なんですけども。

超有名老舗出版社の資料室みたいなところにいるんですよ私が。
社員じゃないんですがなぜか出入り自由みたいで。
たくさんの貴重な本に囲まれて幸せな気分に浸っていると、四十代半ばくらいでしょうか「私は本と結婚しましたそれが何か?」みたいな感じの女性がそそそそっと近づいてきて、
「世界一厚い本があるんですけどご覧になりますか?」
と嬉しそうな顔で話しかけて来ました。
知らない人でしたが向こうは私のことを、私が分厚い本に劣情を覚える人間だということを知っているようです。

「ご覧になりますか?」とか言いながらその人は私の返事も待たずにとっととその「世界一厚い本」を抱えてきて目の前のテーブルにドンと置きました。そして、右手をその本の上にバンと置き、左手を自分の腰に当て「どうだ」という顔で私を見つめています。腰をクイっとひねったりしてます。

まいった。厚い。多分世界一。
判型で言えばB4判くらいというか、15インチのノートパソコンくらいというかそのくらいですが、厚さもB4の長辺(364ミリ)くらいあります。しかもなんと、底面と四方の角が鉄わくで囲まれています。なんじゃこりゃ。

びっくりしながらも、40年近くを印刷・製本業界に身を捧げてきた私。本の内容、製本方法などが気になり、さっそくめくってみます。
「厚いのはいいけど読みにくいよなー」と思いながら適当なページを開きましたがなんということでしょう、めくられたページは本の背をツーっと滑り落ち、静かにテーブルの上に落ちましたではありませんか。

一体どんな仕組みなのでしょう?
本文は横組で、見出しの言葉が太いゴチック体、その説明が明朝体で組まれていて、辞書か事典のようでした。

「この鉄わくが大変だったんだよ」
隣で男性の声。
見るとこれも知らない人でしたが、こちらは五十代後半といったところの男性が、テーブルの上に鉄わくだけを置いて、嬉しそうな顔でガチャリガチャリといじっています。どうやら変形する構造のようです。

「これ本当に大変だったよ。三千円もするんだ」

鉄わくひとつ三千円也。
ふと気になって本の値段を調べると「定価10,000円」の表示が。
鉄わくだけで3,000円、本と合わせて10,000円。
本のボリュームを考えるとずいぶん良心的な価格だと思います。

どうしよう。
どうやらここでこの本を買えるようだが。
良心価格とはいえ中身もわからない本に一万円。鉄わくもなんか邪魔そうだし。こんなもの抱えて持ち帰ったら妻に怒られそうだ。第一ここで買ってどうやって持ち帰るのだ?
と購入に否定的なことばかり頭に浮かんでくる。
だが。
その時私は思ったのだ。

「俺が買わないで誰が買う」

もう今にも買いそうで、「カード払い使えるかな?」とかまで考えてましたが、結局夢はその辺りで終わってしまいました。

その本買ったか夢の俺。
そして奥さんに「そんなもんどこに置くの!」と怒られたか夢の俺。今度その本見せてね。

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