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【35.演奏してみよう🎶】右手も左手もメロディー(楽譜紹介付き)

前回記事にて左手伴奏の形をお話ししましたが、世の中の曲が全て左手が伴奏の曲ばかりではありません。右手も左手も両方がメロディーという曲もあるのです。今回はそんな曲についてお話しします。

教則本としてバイエルを使用しておられる方にはご存知の方もおられると思いますが、原書番号60番の曲は「今までと何か違うな」と思われたかもしれません。

バイエル60番はじめの8小節

この曲は右手も左手もメロディーの役割を担っています。このような曲を
多声音楽(ポリフォニー)と言います。2つ以上の独立したメロディー(2声)が様々に変化しながら進んでいく音楽です。譜例の曲は2つの独立したメロディーということになりますが、3つ(3声)、4つ(4声)、5つ(5声)というものもあります。譜例の曲ではどんな感じの曲なのか分かりづらいと思いますが、カノンやフーガなどと呼ばれている曲がこれらに相当します。J.S.バッハのトッカータとフーガ、小フーガト短調或いはパッフェルベルのカノンなどもポリフォニーの代表曲ですね。もっと分かりやすく言うならば、カエルの合唱の輪唱がそれにあたります。

ポリフォニーはもともと声楽(合唱)曲として発達し、その後、器楽特に鍵盤曲で発展しました。バロック時代にJ.S.バッハによって対位法という形で完成されインヴェンション、シンフォニアという曲集になりました。

ポリフォニー音楽を学習するにあたり、私が幼かった頃はインベンションにたどり着く前の教材は皆無でした。このインヴェンションは相当練習するには気合が必要で(私にとりましては😅)なかなか上達しませんでした。レベルにすると初級が終わり中級に差し掛かる頃のレベルくらいでしょうか。ですので、このインヴェンションに取り掛かるまでの間は、ポリフォニーに特化した教材もない、演奏経験もない、他の練習曲集の中でそれとなく練習する程度のものでした。がやはりポリフォニーの演奏経験がある無しではレパートリーとして練習している曲の選択範囲も狭まりますし、曲の理解も浅いものにしかなりませんでしたので、もっと早くからポリフォニーをきちんと学んでおきたかったなあと悔やまれます。

現在では、そのようにインヴェンションに入る前にポリフォニーを学習するための教材が様々に出版されていますので、ピアノをはじめてから間もない方でもゆっくりと学習ができるような環境になっています。ポリフォニーの困った問題は「右手はメロディー、左手は伴奏」という固定概念が定着してしまってからではかなり練習が難しくなってくるという点です。ポリフォニーは上記の譜例のようにどこにでもモチーフ(テーマ)が出てきます。そのモチーフがきちんと「ここから始まったよ」「ここのモチーフはこんなだよ」と表現ができなければなりません。それに対して頭の中が「左手は伴奏」と固まってしまった方はモチーフが見つけられない、見つけられても表現できない、モチーフ通りのフレージングができないなど弊害が多いのです。そんな弊害が出てこないうちに早い段階からポリフォニーに親しみを持って学習されればモチーフの拡大、発展、転回などにも留意しながらポリフォニーを堪能できると思います。


ポリフォニーの練習の進め方を解説します。(ここでは2声のものとします)
①ポリフォニーはモチーフがどこにでも出てきますので、まずは、どこにモチーフがあるのかを見極めるために、声部ごとに階名で歌ってみます。
②歌えるようになりましたら、1つの声部を弾きながらもう1つの声部を歌うなどして、各声部の流れをしっかり掴んでいきましょう。
③各声部の流れがきちんと理解でき、演奏できるようになりましたら、両手で合わせて弾いてみましょう。(→ここが1番難しいです😭)
④両手で合わせて弾けるようになりましたら、改めてどこにモチーフがあり、そのモチーフが正しくフレージング出来ているかを確認してみましょう。
※各声部ごとの練習をされる場合、指使いに戸惑われる場合があるかもしれませんが、両手で演奏する際にはこの指使いでなければ弾けないということもありますので、指使いには注意してください。しかしながら手が小さい方や楽譜の指使い通りに演奏できないという場合には、そのモチーフなりその箇所が不自然な音の流れにならないように工夫してみることもよいでしょう。


では、具体的にインヴェンションに入る前から学習することのできる楽譜を紹介します。

歌を歌うとき、ひとりで歌えるメロディーは1つだけ。これを1声部といいます。2声部以上の多声部(ポリフォニー)になると、2人以上いなければ歌えません。ところがピアノなら右手と左手を別々に使えばポリフォニーの曲でもひとりで弾くことができるのです。歌よりもっと複雑な音楽を作り出せる・・・これがピアノの利点の1つです。

Gakken  ピアノ併用曲集やさしいポリフォニー(1)練習のポイント より

カノン
糸まきの歌・かえるの歌・聖者の行進・森のくまさん・こぎつね・雪のおどり
カントリー・ロード・もみじ・小さな世界・アイアイ
フーガ
ABCの歌・ハッピー・バースデイ・山の音楽家・たき火・いたずら子ねこ
おもちゃのチャチャチャ・おしゃべり・かわいいハリネズミOp.89-8
いつか王子様が(白雪姫より)・バイエルみたいに・ミッキーマウスマーチ
茶色の小びん・大きな古時計・むかしむかしのそのむかし
コラール
遠き山に日は落ちて
並行するテーマ
小さなスケルツォOp.39-6
バロック時代
ボクは王さまk.v.1c・フーガハ長調・メヌエットk.1 Trio
連弾
よろこびの歌・ララルー(わんわん物語より)・ます

以上の馴染みやすい曲でポリフォニーが学習できるように工夫されています。また各曲には独自の難易度が⭐︎によって1〜3のランク分けされており、バイエル中級程度の方から学べるようになっています。



こちらの楽譜は先ほどの楽譜に比べて馴染みやすい曲はありません。馴染みやすい曲ではない代わりに楽譜としては非常に見やすくシンプルに学習するには良さそうです。「◯◯◯の動機のよるインヴェンション」という形で多数のポリフォニーの練習ができます。




本巻はポリフォニーのピアノ演奏の入門として、こどものうたと民謡によるピアノ曲を収めてあります。第2巻は大巨匠たちの小品を収めてあります。第3巻はJ.S.バッハならびに彼の息子たちの小品、およびJ.S.バッハの12の小プレリュードと6つの小プレリュードから選んだ曲が収められている。これらの作品全部を習得するには3年から4年かかるだろう。またピアノ学習2年めから開始してよい。本書を終えたら、すぐにひき続いてインヴェンションやフランス組曲に進むが、これらへの移行は第3巻より可能である。
          by  E.Ch.ショルツ ウィーン、1947年 春

音楽之友社 バッハへの道1 まえがき より

まえがきの内容には少々驚きを感じますが、ポリフォニーを学習するにあたっては程よい曲が収められていると思います。全部で29ページの薄さですが、これは一曲が短く、更に全ページ6段のピアノ譜になっているからです。音符も小さく詰め詰めの感じですので見やすさはあまり感じないかもしれません。



こちらもポリフォニーの学習においてはよく扱われる教本です。巻末にワンポイント・アドバイスが書かれてあります。全部で56曲収められており、難易度と練習順を目安に進めていけば良いでしょう。上記3冊に比べて一曲が長く、第3課程と呼ばれる最終章は手応え十分です。



ここから先は中級以上のレベルの方におすすめの楽譜です。

インヴェンション・シンフォニアはポリフォニーの王道の教則本ですが、どちらもかなり手強く感じます。この教則本は分析と演奏の手引きという副題がついています。J.S.バッハの演奏には様々なトリルやモルデントなどの装飾音がありますが、各曲中の装飾音についてどのように演奏すべきかを解説されています。また分析では、主題、副題、対立主題、転回などの細かい分析がなされ、文章によって(各曲1ページ分程の内容)解説がなされています。その解説文はかなり専門的で難解ですが、インヴェンション・シンフォニアの学習に取り掛かっておられる方でしたら、一度手に取られてはいかがでしょうか。またこの楽譜をもとに中井正子先生が録音されたCDがございますので合わせてお聞き頂くと良いかと思います。

※中井正子先生の門下生ではございませんが、中井先生のセミナーに伺ったことがありますので、先生の敬称を付けさせていただきました。


こちらはシンフォニアの楽譜になりますが、「合唱譜による」ということで各声部ごとに編成し直された楽譜になっています。シンフォニアは3声の曲ですので、右手だけで弾くパート(ソプラノ)、右手+左手で弾くパート(アルト)、左手だけで弾くパート(バス)に分かれているということです。特に一部の箇所においてアルトの部分をアルト譜表で書かれている部分もあります。アルト譜表の学習にも役立ちそうですね。
ピアノ譜だけではよくわからなかった各声部の流れや、モチーフの現れ方などが声部を分けて書くことによって理解しやすくなっています。最終的にはピアノ譜で演奏するのですが、予備的な練習で活躍しそうです。

※アルト譜表とはアルト記号で書かれたヴィオラの楽譜に用いられる譜表のことです。



今回は大変長文となり申し訳ございませんでした。あれもこれもと思うと長くなってしまいます。反省です🙇ポリフォニーの関してのお話でしたが、楽譜の紹介と合わせてご覧いただきたいと思います。最後までお読み頂きありがとうございました😊次回もよろしくお願いします🙇‍♀️🥺

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