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『BSマンガ夜話:宍倉ユキオ篇』

 お遊びです。私は『BSマンガ夜話』が今でも好きなのですが、大人漫画系の人々は無視、もしくは悪口雑言の対象にされてきたので、あえて大人漫画出身で4コママンガの中でも出演者の皆さんが評価したがらない「宍倉ユキオ」篇を文字起こし風に作ってみました。念のため言っておきますが、出演者の皆さんはこんなこと言ってません。同じようなことを言っている場合でも、それは業田義家『自虐の詩』についての発言をところどころ利用しただけです。出演者の皆さんに謝罪いたします。先生方、申し訳ありませんでした!


【オープニング】

大月:はーい、こんばんは。一つのマンガを取り上げて1時間徹底的に語り合う「BSマンガ夜話」、司会の大月隆寛です。

堤:堤満莉子です♡♡♡

大月:はい、昨日、一昨日とね、「4コママンガ」シリーズ始まったんですけれども、なんと、我が『BSマンガ夜話』では、いしいひさいち、いがらしみきおを無視してね、第1弾がかまちよしろう、第2弾が正保ひろみ、と来て、視聴率がすごく悪くてNHKの上層部に文句言われて、知らねえよこの野郎とは思ったんですが、今回は期待したいと思うんですけれども……今日は第3弾。まずは全体のラインナップをご紹介します。


堤:こちらです。一昨日がかまちよしろう「OH!!せいこちゃん」、昨日が正保ひろみ『ひろみのうっふんの関係』、今日は三日目で宍倉ユキオ『ミセスのプーちゃん』です。

大月:はい! 今日はいよいよお待ちかねでございます。ゲストをご紹介いたします。

堤:はい。今夜のゲストは呉智英さん、夢枕獏さんです!

大月:どうもこんばんは。

呉:どうも。

夢枕:どうも。


大月:もうこの番組が誇るメンバーになっておりまして……まずは呉智英さん。


呉:はい。私はね、『ミセスのプーちゃん』広め教信者代表! 今日もどれだけの信者が獲得できるか、がんばりますんで。


大月:はい(笑) そして獏さん。


夢枕:俺も伝道師として来てますから。呉智英さんに説得されてね、信者の、十二使徒の端にね、加えていただいたんだけど。

大月:信者ね(笑) まあ、よろしくお願いします。今日は皆さん覚悟してください(笑)

【本論】


大月:はい、ということで。

堤:レギュラーの皆さんを紹介したいと思います。漫画家のいしかわじゅんさんです。

いしかわ:どうもこんばんは。俺はね、宍倉ユキオと戦ったことがあるんだよ。昔、三流劇画誌でね、短篇を俺と宍倉で描いて、人気投票やって票が多い方が描くっていう企画だったの。で、宍倉のほうが多かったんだけどさ(笑)、描いたのは俺だったんだよ。

大月:なんで(笑)

いしかわ:いや、わかんない(笑) いろんな思い出がありますね。

大月:そうですか(笑)

堤:今日もよろしくお願いします。続いて作家の岡田斗司夫さんです。

岡田:どうもこんばんは。もうね、今夜は五十過ぎのオッサンが泣いたとかなんだとか、体液流したとか、そういう話になるに決まってるから、今日はクール担当です(笑) あと、これ「穴倉」じゃないからね、それだけ言っとこう(笑)

堤:よろしくお願いします。続いてマンガコラムニストの夏目房之介さんです。

夏目:ええっとね、実は呉さんの影響で入信したほうなんですけど(笑) どうも今日は調子が悪いなあと思ってたら、宍倉のせいでした(笑)

大月:嫌いなんですか(笑)

夏目:いやそうじゃないんだけどね、なんかね、難しいマンガだなあと思って(笑)

大月:ははあ(笑) まあ、よろしくお願いします。

堤:よろしくお願いします。では今夜取り上げる作品は『ミセスのプーちゃん』です。作者のプロフィールと作品のストーリーをVTRでご覧ください。


~~~VTR開始~~~

作者の宍倉ユキオは、昭和20年、横浜生まれ。昭和43年、「週刊漫画サンデー」でデビュー。代表作に登場するのは、ぴんくギャル、ミセスのプーちゃん、ルンルン2号さん、アキナちゃん、イオナちゃんなど、いずれもお色気たっぷりで、ちょっと間抜けなギャルとその周辺が巻き起こす笑いを4コママンガにした。4コマ革命なんてしゃらくさい、コマの外に意味なんて無い、起承転結に忠実に、マンネリ化も恐れずに大人の笑いを読者に送り届けてきた艶笑4コマの大家である。

~~~VTR開始終了~~~


大月:というわけで宍倉ユキオ。実はいっぺん軽く触れてるんですけどね、特番の時にね。ちゃんと取り上げるのは初めてということで。艶笑4コマか、なんか懐かしい響きですけれども(笑) どうしようかな、じゃ、やっぱり呉さんから。口火を切っていただけますかね。


呉:はい! 私はねえ、この『ミセスのプーちゃん』のね、全1巻本があるんだけど、その最後で怒濤の感動が押し寄せるところが出る前に、私はこの雑誌の切り抜きを持ってですねえ……。


いしかわ:はっはっは。


呉:布教活動にこれ努めていたんですよ!


大月:それは実際に布教に使われたんですね。


呉:使われたんですよ。


大月:ああ。


呉:で、これは家にね、女性の編集者が来るとですね……。


大月:なんで女性なんですか(笑)


呉:これ女性じゃないと話が続かないの。


大月:ああ。


呉:女性にね、あれ読んだかって聞くと、読みました、泣きましたって、これだよねって出すと、先生出さないでください、見ただけで泣きますって言うんですよ。


大月:はあ。


呉:で、これはね布教に使われたんだけど、見せると条件反射のように泣く人がいるんで見せられなかったこともある。


大月:それナンパじゃないんですね、布教なんですね(笑)


呉:布教なんです。これで、これでナンパは出来ないでしょう。


大月:なるほど。でもそれをかざしながら、みんなに読ませて回った……。


呉:そう。これが最後の数回の怒濤の盛り上がりのやつなんですけどねっ。


大月:かなり普遍的にやっぱ反応しますか、みんな。


呉:そうですね。で、この単行本がなかなか出なかったんですよ。ええ。


大月:なるほど。ということですが、いしかわさん。


いしかわ:いやあ、これはねえ、もうねえ、あのお、泣いたよ。俺ほんっと好きだったの、宍倉ユキオ。読みながら泣いたもん。何度となく読み返してさ、その度に涙が込み上げてきた。


呉:おんなじじゃん(笑)


大月:さっきの女性編集者と変わんない(笑)


岡田:今日はいいひとだなあ(笑)


大月:いしかわの目にも涙(笑)


いしかわ:俺はねえ、子どもの頃からマンガどんだけ読んだかわかんないくらい読んできてさ……。


大月:まあねえ。


いしかわ:いい加減ドランカーになってんだよ。


大月:すれてますよね、はっきり言って。


いしかわ:よっぽどのことじゃないと心動かされるはないんだけど。これはもう……心動かされるとかいう問題じゃなくて、開くと自動的に涙が出て来る(笑)


大月:それ大丈夫ですか(笑)


夏目:はっはっはっは(笑)


いしかわ:それぐらい俺はこれに入れ込んでたの。


大月:なるほど。


いしかわ:呉智英さんもそうなんだけど、俺も連載中からずーっと読んでて、こっれはすげえ……だんだん変わってく様を毎週毎週見てるわけじゃない? こっれはねえ、どんどんどんどんすごくなってくなあと思って、もう途中から、あの、見てない人にはわかんないけど、セセラちゃんが出てきてアー、スキャンティちゃんが出てきてアー、バーニーちゃんが出てきてアー。


夏目:はっはっはっは(笑)


いしかわ:たまんないよ、これは。


夏目:はっはっはっは、違うね、今日は(笑)


大月:違う、全然違う(笑)


夢枕:あの、名誉のために言っとくけど、男にもちゃんと布教してますからね(笑)


大月:別に女に限ってるわけじゃない(笑)


夢:うん、俺もね、これ週刊誌で読んでて、いや、いいなとは思ってたんだけど、通して読まなきゃダメだよって会った時に……。


大月:尊師がそう言ったわけですね。


夢枕:で、通して読んだらさあ、いいんだよ、これが(笑)


夏目:はっはっはっは(笑)


夢枕:それでね、俺はまた今回読み返したんだけど。同じところでね、まったくおんなじ泣き方するんだよ。


大月:獏さん読み返してくれたんですか、ありがとうございます(笑)


夢枕:それでね、俺は使徒になりましたよ。8冊ぐらい売りましたよ、俺はこれを。


大月:最初の十二使徒って聞いてみたいですね、誰なのか。


夏目:少なくともね、俺んとこに来た時はね、あの、これで中野翠さんも泣きましたって(笑)


大月:あ、中野さんがかなり早い時期なんだよな(笑)


夏目:これね、はっきり言って中野翠さんが泣いたら俺も泣くなと思った(笑)


岡田:ははははは(笑)


大月:あの人が泣いたら、たいがいの男泣きますよ(笑)


岡田:俺もね、あれ、呉さん、どっかの週刊誌に書いてましたよね。俺もそれを読んで読まなきゃと思ったんですよ。だって書き方が尋常じゃなかったもん(笑)


呉:いや、これにかんしてはね、私は尋常じゃないですねえ。


大月:しょうがねえなあ(笑)


呉:というのはね、当初ね、これはそんなに高く評価されてなかったの。


大月:ええ、当人もそう言ってますよね。


呉:ところがね、広がるにしたがって、どんどん反響が大きくなって。その泣いた話でいうとね、中条省平さんていう、学習院大学の仏文科の先生ね。あの人も、私が使徒に巻き込んだ人なんだけど。


大月:ああそうですか。


呉:彼とこの間会って話した時ね、彼もあちらこちらで講演なんかすると、必ずこの話をするらしいんですよ。これを話している時に、思い出しながら、話しているうちに感動が込み上げて来て泣いたって言うんだよ。


夏目:はっはっはっは(笑)


大月:もう大変なもんじゃないですか。


呉:大変なもんですよ。


いしかわ:4コママンガで泣くってね、ありえないよ、それ。


呉:普通ないですよ。


岡田:ていうか、見てない人はこの後ろの画を見ながら、この話のどこでどう泣くのか……。


夏目:はっはっはっは(笑)


大月:知らない人はわかんないですよ。


岡田:今回ね、この本を取り上げるってことで、どんな話なのって聞かれるんですよ、いろんな人に。で、泣けるという噂は都市伝説のように……。


大月:一人歩きしてしまっている。


岡田:ところがみんな本屋さんでこの表紙を見て、買わないんですよ。


呉:俺は買うよ! いや、それでね、いま岡田先生がいいこと言ったけどね。外国にまで布教してるわけ。


大月:国境を越えた。


呉:うん、そうするとね、外国人はね、まず画を見ただけで拒否反応。なんだこれは、これで笑えるのか、と。いやこれで泣くんですと言うと、こんな画で泣けるのか、と。しかし私はね、一国だけ我が版図に加えました。それはオランダです。ちょっと、カメラ、来てください。


大月:もう、カメラ来てくださいって……(笑)


夏目:はっはっはっは(笑)


呉:日本の笑いの文化、マンガについて知りたいっていうことで、呼ばれたんですよ。それで、私はむらかみけいじと、それから宍倉ユキオを紹介して……。


大月:すごい日本だな(笑)


夢枕:端のほうを(笑)


呉:むらかみけいじは『スリット先生』で、おっぱいとおしりが大きいグラマラスな熟女が出てくるから、まあこれは入りやすいだろうと。みんな熟女は大好きだから、スリット先生もユルいし最高だからさ。ところがね、『ミセスのプーちゃん』はね、これを向こうの、オランダ人に説明するのは大変でしたね。


大月:わかんないでしょ。


呉:ええ、でも私の説明をなんとか理解してくれた。


岡田:僕らも今日なんで感動的なのかって説明しようとすると、ネタバレするしかないっていうか。


いしかわ:いや……。


夢枕:これはネタバレとかそういう……。


呉:問題じゃないね。


いしかわ:話をどんなに詳細に話しても、ちゃんと泣けると思うよ。


岡田:あー……。


いしかわ:あの、これ、このマンガを知らない人は、いったい何をそんなに大騒ぎしてんだと思うかもしれないけど。


呉:そうそう、たぶん絶対そうでしょう。


いしかわ:これはこの二人の男女の、都会の片隅に生きる二人の……。


大月:ある愛の詩ですよね。


いしかわ:せつない愛の物語なんだよ。


呉:だからね、私は大学の授業でね、これを使ってるのはね、いわゆる良い作品というのとは違って、いわゆる愛というものの幅、われわれがいま考えてるステレオタイプな愛とは全然違うっていうんで、伊藤整とね、これを並べて読ませてるんだけどね。


大月:伊藤整!(笑)

夏目:はっはっは(笑)


呉:伊藤整の『近代日本における「愛」の虚偽』。と、北村透谷の……。


夏目:はっはっはっはっ(笑)


呉:三つ並べて。でね、カメラお願いします。


大月:ははは(笑)


呉:私ね、宍倉に言ったの。ひょっとしてね、あんた描いてる時に自分で泣いてなかったって。そしたらね、泣いてましたって。作家がね、書きながら泣くんだよ。だから彼は自分で漫画に描いてる。ここんところなんですよ。これ、顔変えてるけど宍倉が、自分が女とやろうとしているところ。


いしかわ:あのシーンだね。


呉:そうそう。


大月:プーちゃんのブラ外すところですよ。


いしかわ:そりゃ泣くよ。


呉:これをね、自分が泣きながら描いたってところがすごいね。それほど入れ込んでたんだね、作者自身がね。


大月:夏目さん、どうしましょう。これ、どう枠を嵌めたらいいでしょう。


夏目:ああ、しまった。すっかり観客になってた(笑)


堤:リラックスして(笑)


大月:完璧にお茶の間モードになってた(笑)


夏目:いや、プーちゃんがだんだん綺麗になってくでしょ。これがまた感動を生むんですな、うん。妙に睫毛がね、またね、何か……ある……(笑)


いしかわ:いやあ、物語を描いてるとね、あるんだよね、見つけてしまうことってさ。宍倉はさ、ある日、プーちゃんとユキオを見つけてしまったんだよね。描いてるうちに、この二人にこういう過去があったんだってことに気づいてしまったんだよ。で、それはね、最初からそこに在ったの。この二人は最初からそこにいたし、二人の過去は最初からそこに在ったの。宍倉はね、それを掘り起こして見つけてしまったんだよね。これはね、絶対、宍倉が作ったんじゃないんだよ。


大月:掘り起こしたんだね。


いしかわ:そういうことって、物語描いてるとあるよね。


夢枕:あるんですよ。ただねえ、真似しちゃダメよ。これはね、奇跡みたいなもんですから……。


岡田:はははは(笑)


夢枕:最初から狙ったらまず無理だし、本人も同じような手は使えないでしょ。いまいしかわさんが言ったように、見つけちゃんだよ。見つけた時に、過去に描いてたもののすべてがね、意味が分かってくる。


大月:自分の中を掘ってく作業でもあるわけでしょ。じゃあ、ちょっと夏目さんにも仕事してもらいましょう、「夏目の目」です(笑)

【夏目の目】


夏目:はい、ということで、いしいひさいちで4コマは変わって、いがらしみきおでさらに変わっていって、その後の不条理4コマっていう流れを、我々いろんなところで書いてきたんだけど、今回反省しました(笑) すごい、宍倉ユキオ。図1、ミセスのプーちゃんを見てください。もうおっぱいの描き方、これがまったくいやらしくないです。キャラの睫毛も長いしね。これが宍倉ユキオが完成させたギャルの定型です。図2、スキャンティちゃん。図3、MYスイートかみさん、図4、セセラちゃん、図5、ミスプリンコ。ほとんど変わってない(笑) これが、いいところ(笑)


夏目:睫毛の長さを測ってきたんですけど、だいたい3から4mmです。安定の3、4mmと我々呼んでるんですが。それから髪型。これはキャラによって多少は差異が出てくるんですが、あまり関係ない(笑)


夏目:宍倉の4コマってのは、さっきVTRで艶笑4コマって言ってたけど、いわゆるお色気、おピンク路線で、しかも主人公が可愛いくて、艶笑と言っても全然いやらしくない。馬鹿な女なんですね、これが(笑) その馬鹿な、間抜けなところが、エロにまで行かせずに、艶笑にとどまらせている。乾いた笑い、どうでもいい笑いを生んでいます。これは空前絶後と言っていいでしょう。以上です。


大月:はい、ではFAXいきましょうか。今日はえらいFAX来てます。


堤:はい! 伊藤剛さんから来ています。「呉智英さん、あなたは高橋春男との対談で、宍倉ユキオを全然面白くないと断言していたはずですが、ご意見が変わったのですか」ということですが……。


大月:さあ、来たよ来たよ(笑)


呉:いやね、それは私の認識の誤りでした。その後転向してね、信者代表になったわけなんだけど。


大月:転んだんですね(笑)


呉:転びバテレンというかね……撤回しますよ(笑) ついでと言っちゃあなんだけど、植田まさしとか、平ひさしとか、神保あつしなんかにも、いろいろ謝っておきたいと思ってます(笑)


岡田:呉智英さんは、なんだっけ、いがらしみきお、次が安藤しげき、それから高橋春男って言ってませんでしたっけ。

いしかわ:言ってた、言ってた!(笑)


呉:妄言でした。反省してます。


岡田:反省するのか(笑)


大月:はっはっは(笑) 呉智英先生に反省を促したところでお時間です。呉智英さん、獏さん、ありがとうございました!


堤:ありがとうございました。明日はあべこうじ『ムラサキ』、明後日はむらかみけいじ『メロメロメロンちゃん』、最終回はよだひでき『アートねえちゃん』です。お楽しみに~♡♡♡

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