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『ジーザス・クライスト=スーパースター』

 復活という神聖を開示し本物の神となったイエス・キリストが、2021年7月、東京でまた復活する。ティム・ライス作詞、アンドリュー・ロイド・ウェバー作曲のロック・オペラ『ジーザス・クライスト=スーパースター』。
 音楽創造者2名の名にピンときたなら、意識は1971年に立っている。あの年、初めてこのお題目がブロードウェイで演じられた。
 その灯火は初め、飼葉桶のありかを指し示すほどの小さな、それでも確かな光を放っていた。

 2年後の1973年、村上春樹はピンボールの世界に旅立ち、テッド・ニーリーが主役の座を射止めて銀幕に立った。

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 ノーマン・ジェイソンを監督に据えた映画のロケ地はイスラエルの原野。エレキギターから這い出した1本のニヒルな視線がスクリーンから触手を伸ばし、彼方で土煙をあげるロケバスを導いた。
 迫り来る強風、その予感を嫌が応にも盛り上げていく。
 
 ロケバスは流れる土煙を浴びて止まり、中から出でたるは無数のピッピーたち。衣装や化粧道具を携え、レミングのごとくステップを蹴り大地に飛び込んでいく。
 イスラエルの地に、1973歳のイエス・キリストが降り立った瞬間だった。
 
 イヴォンヌ・エリマンはマグラダのマリアに化身し、尽くし、護り、嘆く。

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 ユダに身を売ったカール・アンダーソンは苛立ち、迷い、踏み外し、揺らいだ末に間違いを犯して慚愧の自主絞首。

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 最後の7日間で、いろんなことが起こった。
 

 DVDが普及する前、VHSがベータに勝利してしばらく経ったころ、ビデオ化された。
 回転率の観点からレンタルはされず「買ってくれるなら仕入れるけど」と言われるがままに注文した。
 間に合った。VHSのマシンが息を止める前にどうにか叶ったデジタル化。粒子は粗いものの、今でもiPadにあの映画は蘇る。

 世界の動画を探せば、イエス・キリストの名を受けたテッド・ニーリーを見つけることができる。彼は今でもキリストで、映画で見せた「泣くエレキギター」さながらの叫びを、そのまま再現してみせる。
 驚きばかりではない。歌う彼を間近にする側近スタッフたちは、神の声に心を震わせ、拭うことをせず、流れるままに潤むまなこで彼に目を釘付ける。
 
 救世主は彼ひとりでいいや、と思った。
 夏のBunkamura公演は、収束云々の話以前に、テッド・ニーリーのアレに代わるには役不足。あくまでも個人的見解だけど。かくして1973年からその姿を保持し続ける2021歳のジーザス・クライストを、今年もまたiPadで視聴する。

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