見出し画像

だるまさんが転んだ。

 嬉しく驚かされることってある。開いたプレゼントに二重の包装がしてあった時なんかとくに。開ける楽しみがひとつ加算される。
 悲しく驚かされることもある。開いても開いても出てこないプレゼントに中身がなかった時なんかはとくに。
 
 それでも罪のないい『驚かせ』は綿菓子のように甘く軽い。なのに最近の『驚かせ』ときたら、砂抜きしきれていないアサリのように苦く辛く固く、ついでに後味の悪いざらつきを尾のように引いて、なかなか終わってくれない。

『雪国』のトンネルは国境を越えるのに、体感的に「長い」時間を要した。ほかのトンネルに比べると、たしかに三国トンネルは、通過しきるのによぶんに時間を要する。しかも、前菜のように現れる中短織り交ぜた事前トンネルが、まだかまだかとやきもきさせながら、気分を盛り上げてくる。高揚がピークに達するころ、車両は車窓にトンネルの壁を貼りつけて一気に出口を目指す。息をひそませじっと待つと、いきなり車両内の気圧が下がり、縮んでいた空気が解放されて一気に膨らむ。車窓は、家に、木々に、行き交う人々にこんもり積もった雪の繭群に埋まる。抜けたのだ。
 トンネルである限り、入口があれば必ずその先に出口がある。
 なのに昨今のトンネルときたら、げんなり滅入る気分を底辺で這わせたまま、出口の気配さえ感じさせてくれない。
 
「だるまさんが転んだ」
 ひと声かけるごとに、着実に出口が近づいてくればいいのに。
 期待値はとっくに出口を抜け出ているんだからさ。

【だるまさんが転んだ】

 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?