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生産性向上委員会。

「このグラフは世代別社会稼働率を示したデータになります。若いからといって社会で活躍できる人が100パーセントに満たないのは、ある程度、社会適応力が関係しています。わかりますね。閉じこもりがいたり、病気で働けない人もいます。
 20歳代には己の意志で学業を延長する人も少なからず含まれていることもあります。

 70歳以上はわずか15パーセントしか社会で稼働していませんが、それは社会が育んできた常識という名の縛りに、実際には働けるのにはじかれている者が多くいるからです。
 それでも15パーセントもの人が現役で働いていることのほうに驚きを覚えるかもしれません。
 内訳を見てまいりましょう。
 不動の地位を確保しているのは、政治家や天下り、会社顧問の類ですね。世間には老人は隠居といったイメージを流布しているのに、噂流しの張本人たちはのうのうと仕事を続けています。これが噂の真相というわけです。
 ですが、政治関連、顧問関連だけでは15パーセントという大きな数字は確保しきれません。ほかにも数字を支える貢献者がいるのです。
 どんな人たちだと思いますか?」
 
 どれどれ、だれだれ、なにそれ、ざわざわ、わかんにゃい。 
 
「まあいいでしょう。では、答えです。
 ヒントのひとつは過疎部にあります。さあ、みなさん、想像してください。どんな人たちでしょう。思い至った方もいると思います。農業関係者なんですね。腰が曲がっても、歯が抜け落ちても、なんまんだぶが自然と口からこぼれるようになっても、体が動く限り収穫してくれているんです。ありがたい話ですね。ほらそこ、わかっていますか? こらここ、いちいちチョークの動きに反応しない。わかった? で、農業従事者は個人店主の層に負けないくらい存在しているのです。
 それともうひとつ、大きな柱があります。少し前にプチブームとなった脱サラ独立組の社会貢献です。新たに蕎麦打ちの職人になったり、ゲストハウス経営に挑戦したり。大海で活躍していた企業戦士が、平和の女神「さあ(私の胸で)眠りなさい」という誘惑の囁きに乗せられて、鮭が川を遡上するように、山中のひっそりとした湖に身を移すのです。
 知ってのとおり、社会という大海は、暗黙の年齢制限を設けています。よっぽど強い楔を現役社会に打ち込んでおかない限り、大海に留まることはできません。それでも社会と繋がっていたい欲求は消えることなく、致し方なく労働のフィールドを変えて生き残ってゆくのです。
 経済的理由から働かなければならない老人はいますし、金銭面的苦労は皆無だけれどもただただ社会と繋がっていることに喜びを感じる人もいるので、世の「老人は隠居」のイメージ戦略と押し引きしながら、低値安定しているわけです。

 問題は、ここ。
 稼働率は年代が上がるごとに緩やかに下がっていかなければならないのに、50歳代に入るととたんに歯車が破損したみたいにがくんと数値が落ち込んでいます。
 これは、慢心が招くエゴ、つまりは傍迷惑な行為が横行し始めることに因るものなんですね。仕事の力量はあるはずなのに、後輩に道を譲ろうとしない困ったちゃんが急増するボリュームゾーンなのです。彼らは順応性に欠け、周囲から爪弾きにされてしまいます。
 もちろん全員ではありませんが、その傾向が強く現れ、数値にも反映されているということです」

 社会の稼働率を根底から上げることをすれば、社会は全体的にボトムアップの好循環を始めるのにね。
 老人は自他ともに「働けない」という殻に閉じこもりがちだけど、本当にそう思ってる? 本音は?
 
 俗にいう落ちこぼれは、貼られたレッテルに甘んじてない? 「できないヤツ」のレッテルを一皮剥けば、本当はすごいヤツなんじゃない? 野球はダメでもサッカーでなら芽が出るかもしれないよ。試してみた?
 慢心が原因だとすれば、プライドを捨てる覚悟はある? 個々の誇りなんて、叩けば出てくる埃と一緒。一度断捨離すれば、スッキリ不満の便秘も解消するさ。

 窮地にいるなら自力脱出か、相互補助をボランティアで支えて。生産性に貢献できる労働環境を! なんである。と、ふっと思ったものでして。

【先生、俺たち猫族には遠い世界の話なんですけど。70年以上生きられたら化け猫になっちまう】

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