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秋の一筆書き。

 行ったっきり戻ってこない一度きりの刻まれる時。往きがてら途中で振り返ると、時として記憶に残る顔に出会う。
 それは、二度と交わることのない偶然の十字路。さり気なさの演出に朱の韻引いて、尾を引いて。

  いく葉もの秋が落ちてくる中で、一葉が目にとまった。いつもなら、ふうん秋の景色ね、で通り過ぎてしまうのに、止められるみたいに歩みを止めた。

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Photo by なおみ 「秋の木の葉」収録写真を借用してのコラージュ

 今年の秋も、あと戻りのできない一筆書きで過ぎていく。その束の間の、秒針のコンマ何秒かの接点の、風になびく黒髪に鼻孔をくすぐられる覚醒の沸点の、湧いて、それから引いていく感情の命。

 今年の秋も、終わってしまえば繰り返されることのない思い出に変わる。木枯らしがさらってしまう前に、また一枚すくい取れた。体温を送り合える、触れずの接点。

 往きがてら出会った顔を、いずれ遠くから振り返る時が来る。往路を逆に辿れるのは記憶だけだ。そんなまだ来ぬ未来から、郷愁の目で現在地をつかまえている。

 秋。物思いも、ノスタルジックも。秋は、復路の季節。


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《謝辞》コラージュの元となった撮影写真の借用を快諾してくださったなおみさんに、この場を借りて御礼申し上げます。


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