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ウラサビシ川。

 東大あたり、根津あたり、吉祥寺の地名も出てくる江戸の地の、うらさびれた下町長屋、現代の本読み大御所の目に留まり、164回目の直木賞を受賞した。

『心淋し川』と書いて「うらさびしがわ」と韻を踏む、西條奈加氏のお江戸の時分の日常切り出し絵巻。

 ああ、こんな頃もあったんだねと、知りもしないくせに懐かしくも深層心理であたたかい。

 色街、貧乏、人情、悋気。下町の袖が触れ合う近さの愛と憎と高なり、落ち込み。

 こたびもまたまた読中感なれど、中盤を超えたあたりからの「読み切りたい」引力が加速した。

 単行本自体の厚みは厚い。でも、1ページごとの厚みも厚い。だからずっしり感のボリュームなれど、物語最終ページは、この厚みからは察しきれないわずか242p。そりゃ、息を飲む間のショート・トラベルにも合点がいく。

 愉快軽快感動モノの本屋大賞もいいけれど、読み応え味わい応え文の妙がたゆたう直木賞、気づき驚き学びの種も享受して、間もなく閉幕。

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