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スタタタ。

 振り返りのない人生なんて、生地のないパイみたいなものさ。ちっとも厚みが出やしない。苦渋を舐めたら苦さの素を辿るために振り返る。うまくいかなかったら歩みの軌跡を振り返る。振り返れば、見落としていた岐路がきっとある。
 人は振り返りを促進するために「失敗は成功のもと」と、ガックリをフンバリに転換しようと試みた。格言に頷く人もいる。脱力諦観の体で首を横にゆらゆら揺らす人もいる。それでも、生み出さない行為から、つまりは無もしくはレス・ザン・ゼロから実数を生み出そうとする心意気を、誰が咎められるというだろう。瓢箪から駒でうまくいくこともあって、終わりよければ丸儲けなことだし。
 てな有象無象の思いのあれこれに、翻弄され続けるのが人族なわけで。ご苦労なことでと、猫なで肩落とし、両腕の肘から上げて呆れて見せるオイラたち。

 オイラたち猫族は逆なものでね。失敗したくないから振り返る。転ばぬ先の振り返り。

 捕まえようったってそうは問屋が卸さないのは、振り返りが板についているからなのさ。地に素足をつけてやってきたおかげだね。
 早足、止まって、耳たてて、気配を感じて振り返ると……。いた! ではね。といった具合なのさ。
 スタタタ。

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