「おかえり」
また秋が来てキミはきれいになった。去年よりずっと綺麗になるのは、思い出は色彩を欠き、モノクロームにたたまれていくものだから。
今年もまた、きれいになった秋が出迎えてくれる。
「おかえり」
去年、さよならした顔は刷新され、今年の秋の顔をしている。
「ただいま」
私たちは2021の秋に帰ってきた。
見慣れたようでいて、どこか微妙に違っている。そこに進化はなく、様変わりはしていない。ただ些少の変化は感じ取れる。柿の色づきが深かったり、栗がいつもより濃厚だったり。小さい秋のひとつひとつを手に取り、口に含み、愛で、味わう。
「ん。おいしい」
舌が覚えた味わいなのに、うまさは新鮮だ。夏を脱皮した無垢の感受が、生まれたてふわふわの触覚で敏感に違いを察知する。
新しく迎えた秋でも、秋は懐かしさに帰りたくなる。
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