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旧盆が始まる。

 帰省先の田舎に残る風習は、近隣の家からロウソクを1本もらってくる。七夕の恒例行事は子ども心に昂りをもたらし、ロウソクをあげる側はこれから迎え入れる死ビトの命の焔のおすそ分け。暗に据えられた思惑が、血縁を超えて地縁に広がっていく。

〜竹に短冊、七夕祭り
 暗いはいやよ
 ロウソク1本ちょうだいな〜
 
 提灯に灯したロウソクの行列、魂の帰省は、子どもらの声に誘われ、ゆらゆら、行く。明かりのたどるトレースは、時間を遡って過去から伸びてくる在りし日、在しり姿の「帰ってきたよ」の照り返し。子どもに過去は見えないけれども、灯された火が引く光の尾は、故人の記憶を辿る道行きであり、生者の導く死者が現世回帰する誘導灯でもある。
 
 田舎に残る手招き行事は、今も7月7日に始まり、その日のうちに終わっていく。旧盆の、厳かで愉しく、お菓子をもらえるがゆえに嬉しくもあり、また切なさが糸を引くひと夜の物語。

 田舎のお盆は、間もなく開演する。

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