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 単行本『女のいない男たち』をずっと読まずにいた。短編の大半が過去に寄稿された作品だったし、その大半をオンタイムで読んでいたからだ。
 買って読んでも読んだことを忘れてしまって同じ書籍を買ってしまうほどに記憶は消えていくものだから、過去に読んだ短編のすべては、すでに筋書きを消失していた。
 読みたかった本をちょうどすべて読み終えたタイミングに、気まぐれで予約した順番がまわってきたことが重なって、借りた。だけど、返却日にまとめえて返した本に紛れて、数ページしか読んでいなかった本が『本のなくなった男(単数)』を思考に中でタイトル化してしまった。
 人気の作品のようで、借りるとなると順番の長い列にまた並ばなければならなくなる。ま、たまにはアマゾンするのも悪かない。
 で、読んだ。

 ノーベル文学賞の候補作家の手による異性への濃縮された情念のひとつひとつの物語は、さすがに個性派だけあってそれぞれに癖はあるけれど、きちんと村上節でコブシを効かせ、そそられ、襲い、愛のまぐわいに巻き込まれ、愛されてへねへなになり、時間と行為を煙のように消していき、哀愁と愛臭をノスタルジックに残した。

 男のほうがロマンチックと言われてきたし、今でもその残党は少なからずいると思う。
 そういえば、と思う。女のいない男とて、心の継ぎ目ごとに、肉体は抱かずともえんにしてようを追っている。

※愛站=あいたん 造語 站は停車場の意。

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