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8日目の柿。

 先だって、干し柿に初挑戦した。

 だけど。

 セミは生きて8日目に孤独になるけど、柿は平穏無事に8日を過ぎれば完成形を目指すことができる。なのに、気にはなっていた微細な変化が、8日目にして露骨になった。割いた労力鑑みれば、にわかに信じ難い現実だったけど、夢は口に入れた綿菓子のようにねとねとカタチを消していった。
 表面の白い綿。まだらに浮かんだ不吉の予兆。しかと受け止めたのが運の尽きで、幸運の女神は笑みを凍らせ、西の海に沈んだ。
 ジュッ。
 消えた。

 初めからうまくいくなんて、半分弱しか思っちゃいなかった。
 うまくいくも八卦、いかぬも八卦。成功確率は五分と五分とも考えてはいなかった。少しばかり、うまくいくことのほうが分が悪いだろうと。
 だけど、こんなに早くピリオドを打たれるなんて。

 さすがにめげた。
 3週間で干上がって無事完成する干し柿なのに、うちの干し柿ときたら21日分の8日、寿命の3分の1しか生きられなかった。
 
 世に、吊るし雛なるものがある。吊るして鑑賞する風習を力技で当てれば、都会の吊るし柿も鑑賞の対象になりうる。かくして意識は切り替えられ、吊るし柿をまる7日間楽しめたことにする。舌に載せる夢はかなわなかったけど、愛でたことを誇りに思えば、落胆のどん底を折り返すことができるような気がした。

 さようなら。初めての、完成しなかった干し柿。

 柿を見れば思い出す。熟練の技は遥か彼方にあったことを教えてくれたうちの干し柿を。自家製の味わいも、見通せぬ先の先にあることを知った。

 食べてみたかったなあ。初恋にも似て、初めては実らぬものよ、初干し柿。

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