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猛暑日、行き支度。

 夏の音はセミで感じる。
 気づく人は僅少の控えめ鳴き声のニイニイゼミが眠気まなこの夏のカーテンをこれまた控えめに引いていき、その低空飛行が灼熱の太陽に叩き起こされるように急上昇する。その上昇率といったらバケツの水をひっくり返したような大騒ぎ。今年は間違った1匹のアブラゼミで幕が大きく開き、ひと呼吸おいたあと騒音級のクマゼミ、セミの王道ミンミンゼミが夏を全開にした。

 前線の抵抗で一度梅雨空に代わられた夏空は、子どもたちの夏休みへ寄せる期待に応えるように、しかるべき日程で大地にその腰をおろした。

 夏本番は長丁場。カラカラと、噛み合わなくなった入れ歯みたいにくたびれた音をたてる初老エアコンがかろうじて冷やす部屋なかで、今日もまた暑くなる日差しの下、あまり意味をなさない木陰の街路樹を縫う己を思い描く。
 長い夏の、それでもいずれ終わりのくる何10分の1かの今年の夏を、今日またひとつこなす。

 窓越し夏太陽は、昨日と同じ顔に見える。昨日よりいくぶんマシか、多少キツイか程度の誤差の中、時間がくれば今日も今年の夏を行くことになる。

 1日は、乗り越えなければならないと思うとキツイ上り坂級の仕事になるが、終わる日々のひとつととらえると愛おしくなることを知った。

 太陽にもらったふんわりを貯め込んだ汗拭きタオルをかばんにつめて。
 さて、そろそろ行き支度。

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