そんな、いきなり。
「だって、好きなんだもん」
ってな幸運に恵まれるのは稀なこと。
「キス」で思い出すのが、ミステリーの巨匠、スティーブン・キングによるミステリーの定義。
「ミステリーとは暗闇でキスされるようなものだ」
たしかに、右も左も上も下もわからない暗闇で、唇にぬるりと生温かいものを感じたらびっくりする。かくしてスティーブン・キングは世界中の読者の唇を奪い続けてきた。ジェームズ・ボンド顔負けの早業であり、桁違いのプレイボーイぶりだ。
だけど彼の真骨頂は、陶酔させたあとの仕掛けにある。007と違ってハッピーエンドに終わらない。奈落の底まで連れていかれる。
スティーブン・キングの作品を知る人の中には「『スタンドバイミー』のような青春作品もあるじゃないか」といった反論指向もありそうだ。たしかに映画はほろ苦い少年時代の切ないホログラム。だけど原題を知っているかい? 『フォーシーズンズ』と括られた1冊に収められたその作品には『ボディ』、つまりは『死体』という称号が与えられている。意図は、暗闇のキスだったんだ。
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