見出し画像

満足の値段。

 相変わらずフリマサイトが活況だ。購入ニーズが高まれば、売値があがる。市場原理はこんなところも例に漏れず、きちんと働いている。
 車やバイクの中古価格があがったことがあった。まだ「高く売りたい」熱は冷めてはいないが、背景には半導体不足で新車の供給が滞ったことがある。
 なければ、よけいほしくなる。ないものねだりの人のサガ、高くてもいいから譲ってくれ!
 といわんばかりに金にものを言わせたバイヤーが、札束で相手の頬を叩くようにして買う。すごいなと思う反面、おぞましい。
 必要に迫られて購入しなければならない人にとって、釣り上げられる購入価格はたまったものじゃない。

 趣味の品や実用品で必要なもの、ほしいものの売買欄を街のウインドウで楽しむみたいにして探る。物の絶対価値に踏み込み、値付けした人の思惑を追う。かつてヤフオクで「安く買って高く売る」を商売にして物品を流通させていた人がいた。情報量が圧倒的に増えた現代、ちょいと調べれば相場というものが見えてきて、利用者はそうそう騙されなくなっている。
 だけど、恋する乙女が目をハートに変えてしまうように、物欲の炎は恋の炎ほどに人を盲目にする。
 ぽち。
 購入ボタンを押したが最後、もう後戻りはできない。いや、ぽちした時点で覚悟は決まっている。悔恨の念があったとしても、「いつ到着するかな、楽しみ」のワクワクが勝り、気持ちはすでにまだ届かぬ品物に囚われている。

 青信号に変わっても、安全確認怠るな、である。新品より安く買えても、所詮中古である。修理保証もなければ、壊れても新品に交換してくれるわけでもない。バイヤーはそのこと、理解しているのかな? セラーも新品とは違って保証を与えられない分を価格に反映しているのかな? アップル製品は保証期間内ならどんと新品交換、気前よい。いざという時の安心量が購入価格に含まれているんだよ。
 プレミアがついて高価になるのはわかる。だとすれば今の世の中、プレミアがあっちこっちに溢れてる。

 趣味のバイクの話で具体例を話させてもらうね。
 ホンダのクロスカブというスーパーカブがある。購入すると手続き費用などの諸経費が上乗せがされるものの、3代目にあたる最新型の新車価格は税込み約36万円。ところが中古市場を探っていると、新車価格を上回るものがざらにある。注文しても入荷待ちですぐに購入できないことが中古車の価格を押し上げている。
 実はこのクロスカブ、2022年にマイナーチェンジを受けて装備が前年モデルと比べて価格差以上、格段に向上した(旧モデルとの販売価格差はわずか2万円ほど)。旧型購入者には悪いが、ハズレをつかまされたほどのインパクトがある。
 新型はまず、あのやぼったかったメーター形状がスッキリ洗練されたし、表示内容が充実して機能的に向上した。スポークだったホイールがキャスト化され、チューブレスタイヤを履いた。前輪のブレーキが効きのいいディスクに変わり(旧モデルはドラムブレーキ。古くからカブに装着されていた、制動力でディスクに劣るブレーキ形式)、しかもABS搭載。2021年型までの2代目クロスカブと比べると、装備充実の価格差は10万円を下らない。比較すると、2代目が新車で買えたとしても、装備内容からすれば26万円までダンピングしてもらわなければ割に合わない。
 なのにフリマサイトの売り手は同じクロスカブというだけで、価格を下げる気配がない。しかも売られているのはすでに10000kmも走行した車両だったりする。もちろん新車にもれなくついてくる1年保証のお墨付きもない。
 そんな売りっ放し商品に平気で30万円超の値をつける。これは、バイクショップで購入する価格とそう変わらない。保証なし、クレームの受け皿なし、おまけに「整備をしてから乗り出してください」と、価格面ではショップ並みのくせして責任を買い手に押し付ける傍若無人。
 売り手の心情は、業者に売るよりいい値で取引がしたい、というところだ。フリマサイトでは手数料を取られるから、その分を差し引いてもお得になるよう計算していることがわかる。30万円でフリマサイトに売りにだされている車両の業者買取価格は、1割引いた27万円どころではない。おそらくさらに2割引いた21万円前後あたりだと思われる。プロが買い取った場合はこの車両に整備を施し、多少の保証をつけて30万円で売る。素人は保証もつけずに30万円で売ろうとすす。買い手がつけば丸儲け。

 ところがどっこい、新型コロナの騒動が落ち着き、経済の循環が潤滑油をさしたみたいに動きはじめたことにより新車の供給が回復してきたことで、売り手の当初の目論見が地滑りを起こすことになる。30万円という値付けがいかに現実とかけ離れていたか、やっとのことで気づき、価格を下げ始める。それでも損害は最小限にとどめたい意識が邪魔をして、価格の下げ幅は1000円単位とみみっちい。29万9000円に落として動きがないから、お次は29万8000円と刻んでくる。市場が適正と見ている価格、新車で26万円からはほど遠い。

 なにをちまちまぐずっている、と叱責したくなる。走行10000キロで保証なしの車両。やはり業者買取価格まで落とさなきゃ、21万円まで譲歩しないと見向きもされないんでないの?
 ただ21万円という値をつけてフリマサイトで売ったなら、手数料分損をする。となると業者に売っぱらったほうが実入りがいいという事態になってくる。
 でも、フリマで売ろうとした目論見が泡と消えてしまうのは悔しいし合点がいかない、それに業者は買取価格に上乗せした価格で販売するわけだから……と皮算用が着地点を見失わせ、渦を巻く。

 やれやれ。
「整備してから乗ってください」と購入した人を気遣うふりをして責任逃れをするくらいなら、専門家に引き取ってもらって安心安全に乗れる状態で新しいユーザーに手渡すようにすればいいのにね。

 人は欲深い。安くはない買い物をして少しでも高く売りたいという気持ちもわかる。買って売ったその差額は小さくできるに越したことはない。でもその前に、考えておかなければならなことがある。自分でいくら分を楽しんだのか、いちど考えてみたら? 満足した分を差し引いて値付けをしたら、それを買ってくれる人も幸せになれるかもしれないよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?