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「お立ち会い、お金集めの時間です」

 スマホ500に、タブレット1000。充電可能回数は、おおよそこのように定められています。一定数を越えれば老化最終段階に入り、急速に弱まって、ある時、はい、そこまでよ。
 人も同じなんです。人生80年として、2万9200回、睡眠で充電すると老化最終段階に入り、急速に弱まって、ある時、はい、そこまでよ。
 でもね、スマホもタブレットも、使わない時には電源切ってバッテリーの劣化をおさえれば、寿命は格段に伸びるのです。自主コントロールの省エネは、買い替え時を救うのです。

 スマホは毎日、充電していますか? ならば500日後に劣化が急速に進み始めます。それを、必要な時にだけ使うようにして、不要な時には電源を落としてみてはいかがでしょう。充電を2日に一度に伸ばせれば、劣化の進行を大幅に遅らせることができます。500回の充電に達するまで、1000日かかる計算です。充電を3日に一度にできれば? そうです、1500日までの延命が可能です。

 間違ってはいけません。睡眠は人間にとって充電の意味を持ちますが、徹夜で睡眠たる充電を減らせば寿命が伸びるということはありません。現実はまったくの逆さまで、かえって縮めてしまうことになるのです。

 考えてもみてください。スマホだって電池切れで使おうとしても、バッテリーに負担がかかるだけで、使い物になりません。使えない状態で鞭を入れ無理強いすると、傷口に塩を塗るのと一緒。とんでもない負荷がかかります。すると、回復可能性充電回数に達する前に逝ってしまいます。
 人間の寿命を伸ばすには、睡眠という充電回数を減らすのではなく、使わない時に生命活動を停止してやればいいのです。
 間違ってはいけません。民間療法でみんながやってるからと真似をしてはいけません。命の危機に関わります。無闇に息をするのを我慢したり心臓を止めたりすると、永遠に電源を入れることができなくなります。

 ですからお任せください。私たちが開発した科学的根拠に基づいた冬眠装置なら、生命活動を蘇生できる範囲内で呼吸と心拍を落とし、安全に時間を遅らせることができるのです。生命活動を必要としていない時間帯に、カプセルベッドに入って眠るだけの簡単操作です。電気代も1日50円と省エネ設計。

 科学的根拠とはどういうものか、という質問をいただきました。
 専門用語で説明するのは簡単ですが、私どものような専門家には納得の近道、あなたがた素人さんには冗長で理解の道のり万里の長城がごとしで、一朝一夕に理解できるものではありません。理解するには数式を読み解く知識も必要ならば、実験データの推移を瞬時に把握できる経験値も必要です。こんな事情が背景にあるものですから、わかりやすい例えで説明とさせていただきます。

 よくSF映画で何万光年も遠くへ旅立つ時、そうですね、ええ、イスカンダルに向かったあの旅もそうですね、人間の寿命を超えた時間を航行しなければならない時など、乗組員は交代で時間を止めるカプセルに入って未来に向かいますね、体温を下げて呼吸と心拍を遅らせれば、通常の睡眠とは違った延命の冬眠に入ることができるからです。宇宙戦艦大和ばかりではありませんよ。ほかの宇宙ものの映画も同じ手法で人類を未来に送れることは、量子の計算式から実証されている現実なんです。

 臨床実験も経ています。その証拠に。ほら。
 私は今、120歳ですよ。その年に見えますか? 見えませんよね。え、どうなんです?
 延べ90年ちょっと冬眠していましたから、経過時間で言えば120歳ということになるんですけれども、肉体はまだ20年ちょっとしか使っていません。肉体年齢20才代です。もちろん脳だって、肉体と同じ時間しか使っていませんからまだまだ若い、これからです。
 あ、はい。ご指摘のとおり、20年ちょっとではなく、20年の後半ほど生命活動をしてきました。ごめんなさい、正直にアラサーと言えば良かったですね、少し見栄を張ってしまいました。お許しください。

 ここにお集まりの皆さまは、すでに半世紀をとうにお過ごしになられています。こう言っては失礼ですが、すでに残された時間のほうが少なくなっています。これまでの人生で、やりたいことを心おきなくやってこられましたか? これまでの人生に悔いはありませんか? 自分の存在が消えてしまうことに不安や怖さはありませんか? 

 そんなあなたに。このマシンを使えば、問題を先延ばしにできるのです。
 ただ、量産できるような代物ではありません。すべてがハンドメイドで、製作にとてつもない時間と労力がかかります。半導体不足が逆風となって、今回はやっとのこと3台のみ完成させることができました。製品は、信頼の日本製。太鼓持ちの私が太鼓判を押す自信作。3名様限定で提供させていただきます。

 これだけの数のお客様にお越しいただきありがたいことですが、選に漏れる方が出るのも致し方ないのです。ご了承とご理解、なにとぞよろしく申し上げます。

 なお、選に漏れたからといって、落胆なさらないでください。追加分のマシンの製作は今も急ピッチで進めております。次回の完成は、来年の今頃になりますので、もし仮に今回当選されなかった場合は、ぜひ次回のチャンスをお見逃しなく。
 こちらの予約も、本日、受け付けます。

 今回選ばれることになる幸運の3名様は、オークション形式で執り行いたいと思います。初回限定でいきなりプレミアム価格となりますので、ご納得いただける方々に入札していただきたく存じます。
 では、初回ロッドの入札を開始します。定価である10億円スタート! 

 はい、どなたかいらっしゃいませんか?

 そこのあなた、いかがです?

 オークション、盛り上がりませんねえ。

 もいちど言います。どなたか、いらっしゃいませんか? 用意したのは、わずか3名様分の枠だけですよ。

 日本の方は、シャイでいらっしゃいますからねえ。最初のおひとりになることに躊躇いがあるのでしょうね。
 でも、もう時代は違います。さらに未来の常識はまたさらに大きく変動していることでしょう。
 さあ、未来を先取りしたい方、どなたか。

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 騙しのテクニックは日々進化しているようだけど、悪さを企む者たちの多くは、昨今、質より量に走りがち。メアドに送ってくる脅迫メールはマンネリ化し、送り主はAmazonだったり楽天だったり変化するものの、文面はまったく一緒のコピペでできてる。
 中には徹底した調査を基に虚を築いて近づいてくる強者もいるけれど、奴らは悪玉の鏡だね。ああじゃなければ悪事は完遂できないよ。悪事評価委員会としては、あのレベルのものでなければ評価する価値もない。

 そういや昨今の騙しの手口、大胆になったというか怪盗ルパン並みになってきて、動く金額が桁違い。小銭をあくせく盗むより、どかんと一発、というのが潮流なのだろうけど、さすがにいきなり10億円というのはやりすぎだったね。
 大事件というより、笑い話のネタに伏されておしまいだったのよ。

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