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パートナー。

 書店員のとき、本は時代を映す鏡だってた。街にいてもピンと来なかった社会の流れが、売れる本の動向で情報が川上から川下に向けて流れ始めるんだもの。
 編集してたとき、本は賭博のサイコロだった。3冊のうち1冊のヒットを求められ、さあどの本が当たるかお慰み、と気が気じゃなかった。3冊とも売れなければ賭けは失敗、全財産ならぬ編集の座も取り上げられる。二重のどきどきを常に背負わされる毎日だった。
 貸し出す仕事に就いたとき、本はやっと安堵と希望の星となる。

 本に限ったことではないけれど、好きなものを経済循環に組み込んではいけないね。ピュアな「好き」に曇りがかかる。天然色を裸眼で確かめたいのに、無用な色眼鏡越しに見るようになる。

 純粋に愛し続けていたいなら、好きなものは金品のやりとりを伴わない領域でこなすに限る。

 純粋に愛し続けていたいなら、生活感を共有せず、憧れを遠目で眺める距離感を保ち続けるに限る。くっつきたいけど、近すぎると憧れが見えなくなる。

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