未来の自分に出会うことってある。闇の隙間や本の下あたりからにょいって現れて、じっとぼくを見つめてくるんだ。
まさかとは思うけど、あの老人は僕自身の未来の姿だったのかもしれないね。
記憶の玩具箱、無造作に思い出を放り入れてきたものだから、時間の順序が出鱈目で、先に起こったことが後に記録されていたりする。
「どこかでお会いしましたっけ、おじいさん」
なんだか幼なじみのようにも思えるものだから、勇気をもって訊いてみた。
すると、するとね、おじいさん、僕と口調を合わせて同時に同じことを訊いてきたんだ。「どこかでお会いしましたっけ、おじいさん」
鏡に映ったおじいさん、あなたは何を見ているのでしょうか。夏、碓氷から霧積へゆくみちで、谷底へ落としたあの麦わら帽子を、でしょうか。
それとも。
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