夜中に目覚めてしまったら。
夜行性ではないけれど、夜中に睡眠時間が終了したみたいに目覚めることがある。それが丑三つ時ちょうどだったら、鏡を覗きに行ってはいけない。自分が何者だったか、思い知らされてしまうことになるから。
芒と浮かぶ微光にまとわられた顔は覚醒した意識とは裏腹に闇に沈み、離脱した生気が帰巣に間に合っていない様相を呈しているはずだ。
眠りは、ある日とたんに長引けば永眠になる。だが、来る日も来る日も短くなれば、永眠は背後から忍び寄ってくるものでもある。
鏡の中の左右反転した我が身は、反転した現世から、「生」を裏返した顔でこちらを見つめていた。
元気な魂は、肉体が元気なうちは筐体から離れることなく肉体の機嫌をうかがい、よくできた飼い犬のように肉体についてまわる。だけど、元気の抜けた肉体だと、ひと一倍好奇心の強い猫のように、飼い主にそっぽを向けて遊びに行ってしまう。
魂が元気でなくなるのはいけない。いくら肉体が元気でも、屈強な戦車が自転車動力ではびくともしないのと似て、床に沈んだ腰が粘着剤で絡め取られたみたいに上がらなくなる。
夜中に睡眠時間が終了したみたいな目覚めかたをしたら、大人しく眠くなるのを布団をかぶって待つに限る。意識が完全に目覚めてしまうと、ろくなことを考えない。
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