サンドウィッチマンの技巧2

ここに書くのは、前回の記事よりもう少しマニアックな事柄だ。

「ピザ配達」のネタ(今回もまたネタ起こしは一言一句同じではなく大意)
1時間も配達が来ず、イライラ待ってる伊達
そこに富澤が到着「お待たせしました」
伊達「どうなってんだよ、1時間もかかってんじゃねーかよ」
富澤「すいません、迷っちゃって」
伊達「迷うって、道1本じゃねぇか」
富澤「そうじゃなくて、行くかどうかで迷っちゃって」

有名な冒頭のツカミのところだ。
この中で実は1箇所、意図的に伊達が実際に言っている台詞と少し変えて起こしたところがある。そこは「1時間もかかってんじゃねーかよ」のところである。
ここをよく聞くと、伊達は「1時間1時間」とだけ言っている。
それも彼独特の、ちょっとガラの悪いような口調で言うから、聞き手には「ちーかんちーかん」といった風に聞こえなくもない。
ただ、そこでネタを見失ったりする人はおそらく一人もいない。誰もがきっと、最初に書き起こしたような意味で(「1時間かかってんじゃねーかよ」という意味で)自然に受け取ることができる。
ではなぜ伊達はわざわざ「1時間1時間」と2回繰り返して言ったのか。
おそらく結論は「そのほうがトータルの文字数を削減できるから」ではないだろうか。
「かかってんじゃねーかよ」や「かかってんだろ」は、実際に声に出してみるとわかるが、少しの鈍重さがある(「か」の反復が言いづらい)。
それにここはボケフレーズでもツッコミフレーズでもない、単なる布石フレーズなので、どのみちここで笑いが起こるということでもなく、できるだけサクッと済ませたいところなのではないか。
その結果「1時間1時間」という表現が編み出されたのではないか。

と、推論めいた口調で書いてきたが、実はサンドはこのテクを多用している。

私が見つけた限りではあと2例あるが、ここではこれまた有名なハンバーガー屋の冒頭を挙げておこう。

伊達「お、ハンバーガー屋だ。興奮してきたな。入ってみよう」ウィーン
富澤「いらっしゃいませこんにちは×3」
伊達「ブックオフか! うるせぇ何回も。1回1回」

ここだ。「1回でいいんだよ」とは言わずに繰り返すことで、トータルの文字数を削減するという全く同じテクニック。

このネタに関して面白い気づきがもうひとつある。
サンドのネタの真似されやすさは前回の記事にも書いたが、このネタを、伊達ととある女優でやってみるという動画があった。
その方もとても上手にやっていたが、もちろん富澤のあのすっとぼけた感じが完全に出せているかと言ったらそこまでではない。
彼女が「いらっしゃいませこんにちは」と3回繰り返すと、伊達は「ブックオフか」と言ったあとに、なんとはっきり「1回でいいんだよ、1回で」と言った。しかも指で「1」と示しながら。

つまり「1回1回」という、文字面だけ取り出すと少しハテナなフレーズで強引に突破するという手段は、富澤というあのとぼけキャラを相手にした時のみ抜ける伝家の宝刀であり、他の人とやる時はもう少し状況説明的なフレーズを選んだということだ。こういう細やかな伊達の配慮にも感動した。

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