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ギターポップレストランにDJ出演したので選曲の意図を語る(前編)/市村圭

ライブイベントにDJとして出演しました。

本稿は、イベントへの出演に至った背景と、音楽ゲーム収録曲からの選曲にあたって掲げた方針、そしてセットリストの全曲についての選曲意図を語るものです。

出演の背景

DJとして出演したのは2022年8月17日、ギターポップ・渋谷系が中心のライブイベント、Guitar Pop Restaurant(略称:GPR、ギタポ) のVol. 48。

もともと主催のなかむらかずみさんとは十数年来の音楽友達。遡れば、私が生まれて初めてライブイベントというものに行ったのも、かつてmixiで音楽系のコミュニティをきっかけに繋がった彼に誘われてのこと。その後、彼が初めて主催したライブイベント(2010年4月)にも観客として訪問。継続イベントとして本格始動したGuitar Pop RestaurantはVol. 3(2010年9月)から参戦し……と実に長い付き合い。

とはいえ私自身は音楽活動は一切しておらず、DJ経験も知名度もなし。あくまで観る側、受け取る側の人間であると認識しており、出演側や裏方として関わるなんて全く考えもしていなかった。

とかくするうちに、やがて別の音楽イベントや音楽レーベルの裏方を始め、趣味で書いていたライブレポートから徐々に文章に値段が付くようになり、ありがたくも一部の界隈からは一人のライターとして認識して頂き……と歩みを進めてきた約10年。2021年3月のGuitar Pop Restaurant Vol.47では、ライターとしての市村圭に対して初めてご依頼を頂き、出演者を紹介する告知文を寄せている。

そしてついにGPRへのDJ出演依頼を受けたのが、2022年の初夏の頃。私はライターであって、相変わらず音楽活動歴もDJの経験もゼロ。しかし”DJとしてのテクニックよりも、出演者や音楽シーンをよく知り、愛好していることを重視して声をかけた”旨のメッセージを頂いたこと、またなかむらさんや、私の心を培ってくれた音楽シーンへの恩返しの意味も含めてご期待に添いたく思い、快諾させて頂いた。

選曲コンセプト

GPRの中でも今回のVol.48は、音楽ゲーム、特にポップンミュージックに縁の深いミュージシャンが多く参加される公演。その転換DJということで、当初浮かんだコンセプトは以下の4つだった。

A. 音楽ゲーム好きに響きそうな非音楽ゲーム楽曲。
B. GPR関連アーティストの非音楽ゲーム楽曲。
C. 全曲ポップンミュージック収録曲。
D. 様々な音楽ゲームの収録曲。

これらのうちAは、音楽ゲームに収録された音楽の幅があまりに広く、「音楽ゲーム好き」の音楽嗜好を一括りにすること自体が困難。Bは2017年9月に趣旨の似るイベント(音ゲー楽曲提供者の音ゲー外楽曲オンリーDJイベント「B面」)が行われており、そこでGPRスタッフのとらすけさんが他の追随を許さないセレクトを発揮されていたのを目にして、私では二番煎じ未満にしかならないと判断。Cはそれはもう9BUTTON PARTYなのでは?

かくして、これまでの音楽ゲーム楽曲のディグ活動を反映でき、音楽ゲームライターとしてのアイデンティティも発揮できそうなDを選択した。とはいえ、何の縛りもなしに好きな曲だけを流しては焦点がブレてしまうため、以下の3つを方針として設けた。

方針(1) バンド~アコースティックサウンドを優先。四つ打ちDTM系は控えめに。
方針(2) 1つの音楽ゲームシリーズからは1曲に限定(pop'n musicのみ例外)。またオリジナル曲かライセンス曲かは問わない。
方針(3) 以下の3条件のうち2つ以上を満たす。
① 歴代GPR出演者に何らかの関係がある。
② 音楽ゲームの収録曲である。
③ 広義のギターポップ~(ポスト)渋谷系に属する。

以下ではセットリストの詳細を解説します。公式音源のある曲についてはリンク付き。
なお、アーティスト名については敬称略とさせて頂きます。

Retropolitaliens~kidlit
1.エディブルフラワーの独白 / OSTER project feat. 常盤ゆう / beatmania IIDX 25 CANNON BALLERS
前述の方針をマニフェスト的に宣言する一曲。上記①②③条件の全てを満たしつつ、Retropolitaliensの本領である疾走系ポスト渋谷系からの繋がりを踏まえた上で、かつDJ演者が変わったことを開始数秒で明確に示したかった。というわけで比較的新しい音楽ゲーム収録曲であり、Retropolitaliensと同じくCymbalsの強い影響を受けたOSTER projectがポスト渋谷系に振り切った楽曲、しかもGPR出演歴のある常盤ゆうがボーカルを執った高速フレンチポップという完璧な回答をセレクト。

2.Ensemble Forecast 3/28 / LekSak / pop'n music portable
続けては私自身の自己紹介も兼ねてのポータブルポップを。wacリスペクト著しいOSTER projectからの繋がり、アルバム「音楽」版で同じくOSTERの愛好する沖井礼二がベースを弾いている縁、ポッパー中心である来場者への知名度、この一曲とその派生をもとに二次創作作品を複数書いてしまったほどの個人的な思い入れ、全てが2曲目にこれを持ってくる伏線となった。せっかくなので音源は音色にヴィヴィッドさマシマシの「NOSTALGIA Music Collection ~Op.1 & Op.2~」収録バージョンを。ノスサントラに移植曲を入れてくれてありがとう。


3.知りたい (blackboard version) / 水野あつ / pop'n music 解明リドルズ
pop’n music最新作から何か一曲持って来たいと思ったものの、まだサントラが発売されていないので流せる曲が少ない(それはそう)。というわけでライセンス曲である「知りたい」の、しかも原曲ではなく、ストリングス入りの軽快なピアノロックというGPRにも親和するアレンジが施されたアナザーバージョンを選曲。blackboardは、一発撮りで撮影されたライブ演奏を配信するYouTube上の企画チャンネル。2021/10にはmeiyoも「なにやってもうまくいかない」で出演している。


4.紹介します / kidlit / (ステラのまほう)
エレピ入りのインストギターポップ。kidlitの貴重なアニメBGM仕事の魅力を文字通り紹介したくなり、今回のセトリ唯一の音楽ゲーム未収録曲を入れた。「ステラのまほう」はくろば・Uが「まんがタイムきららMAX」に連載した四コマ漫画で、2016年にアニメ化。kidlitはその劇伴担当として、ピアニスト・作編曲家の桑原まこ、倖山リオらと共に参加。室内楽ポップスの本領をたっぷりゆったりと聴かせてくれる「作業」や「わたしのやりたいこと」、突然のチップチューン「先輩たちのゲーム」なども良。


5.深海のリトルクライ (feat. 土岐麻子) / sasakure.UK / ノスタルジア Op.3
Retropolitaliensから徐々にテンションを緩めてきて、kidlitの出演パートに着地させる大事なポジション。kidlitというアーティストに抱く個人的なイメージは海底都市。というわけで溟海ゾディアック「アルレシャ」と「深海のリトルクライ」で悩んだ末に、pop’n music以外から積極的に選曲したくて後者をセレクトした。GPR繋がりでいうと、土岐麻子の元バンドCymbalsから多くの出演者が影響を受けていること、またFellows Houseの一員として出演されたmamiがsasakure.UKのバンド・有形ランペイジのボーカルを務める縁もある。


kidlit~ELEKTEL
1.rainbow -smile again- / ああああ / (G2R2018)
kidlitの演奏からテンションを継承し、深海から浮上するパート。BMS初出曲からもぜひ1曲をということで、真っ先に思い付いていたこれが合いそうに感じたので早速この位置に。テーマに「原点回帰」を掲げた競作イベントG2R2018 Climaxにああああがリリース、「自分の大好きな音楽に対する「ありがとう」の気持ちを込めた」と語る、miru_maki.gjw「smile」や惑星計画「Little Rock Overture」など偉大な先行楽曲たちへのオマージュを隠さない高速ラウンジポップ。Vo.はボカロP・作編曲家としても知られるシーサイドメトロ。会場で流したのは超名盤「セーブデータとほうき星」収録バージョン。より沖井礼二節のギターポップに寄せたリメイク作品「ギターポップ・フォアキャスト(your memories will be a lot of melodies!)」が、月あかり研究会(作詞家・小緑はるとのユニット)の2021年のアルバム「宝石の降る夜に」に収録されている。


2.フライブルクとエンドロウル / アリスシャッハと魔法の楽団 / Arcaea
スマホ音ゲーからも積極的にピックアップしたく選曲。EDM率の高い「Arcaea」オリジナル曲群の中でもバンド要素が強く、GPRの音楽性にも馴染むピアノロック。後述するMiliのYamato Kasaiによるレーベル・さいはてレコーズの第3弾アーティストとしてファーストアルバムをリリースした経歴がある。余談ながらアリスシャッハと魔法の楽団のレーベルメイトであるchiepommeは、GPRに出演歴のある れいな(ポプリ)らと共同で女児アイドル体験VRゲーム「ハッピーおしゃれタイム」を制作した繋がりがある他、夜の部にDJ出演されたそよもぎも最も影響を受けたアーティストとしてその名前を挙げている。


3.シエルブルーマルシェ / OSTER project feat. かなたん / maimaiでらっくすPLUS
セガの音楽ゲームからも1曲持ち込みたいと思い、GPRという場に最もふさわしそうな直球ポスト渋谷系、そして今回かなたんが出演されている縁も考慮して選曲。ポップンに入っていても違和感のなさそうな、またAメロ前のフレーズや口笛が「カモミール・バスルーム」オマージュかとも思わせる、ウィスパーボイスな小走りポスト渋谷系ポップス。会場で流しているタイミングでかなたんが近くにいらしてめっちゃ緊張しました。maimaiからの選曲は、樽木栄一郎「planet dancer」(maimai ORANGE)とぎりぎりまで悩んだ。


4.One Happy Thing a Day / 守夜人 (Night Keepers) / VOEZ
ギターポップレストランで音楽ゲームDJと言ったら、さすがにこれは流さざるを得ない。かつて初聴のとき、すわThree Berry Icecreamの再来かと衝撃を受けた真っ直ぐなギターポップ。守夜人は台湾の4人組バンドで、男女混声のフォーク~ギターポップが本領。レイアーク「VOEZ」ではメインテーマ曲「Colorful Voice」はじめ主要楽曲を多く書き下ろしており、2015年11月にはレイアーク社の公式コンサートにも出演。2021年には同社の最新作「DEEMO II」のコンセプトミュージック「Endless Dreams」の制作も担当した(こちらも超名曲)。


5.マメシバ / 坂本真綾 / jubeat plus、REFLEC BEAT plus
自己紹介ソングその2。とても小さなころにお姉ちゃんから教えてもらった思い出の曲。TVの音楽ランキング番組に登場するヒットチャート曲が世界の音楽の全てだと思っていた私に、私達のアクセスできる広い世界の存在を教えてくれた疾走ギターポップ。ある意味でギターポップ好き、音楽好きとしての市村圭の原点。「jubeat plus」および「REFLEC BEAT plus」の坂本真綾パック2として音ゲー収録歴もあるためコンセプトにも合致していた。

後編記事に続きます。



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書いた人:市村圭
音楽ゲームライター、音ゲーマー。興味は音ゲー文化全般、専門はpop’n music。著書(共著)に「ゲーム音楽ディスクガイド2──Diggin' Beyond The Discs」(ele-king books)。

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次回の更新は9月10日(土)「ギターポップレストランにDJ出演したので選曲の意図を語る(後編)/市村圭」の予定です。お楽しみに!