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ポップンミュージック映画部〜「サイレント/音楽」から「サイレント映画」を知ってみる編〜/矢澤 豆太郎

ポップンミュージック映画部とは!
心根がオタクすぎるあまり、オタク活動を突き詰めていくと何故かちょっと文化的な活動に行き着いてしまう矢澤とぬのじの二人組のことである!!(???)

皆さんこんにちは、矢澤です。

音ゲー、遊んでますか。
ポップンミュージック、遊んでますか。
映画、見てますか。

先日新作が稼働して絶賛大盛り上がり中のポップンミュージックはともかく、オトモの読者さんに映画鑑賞が趣味の方が果たしてどれだけいるのか分かりませんが……わたくし矢澤は音ゲーのオタクであると共に、まあまあの映画好きでもあります。

さて、ポップンミュージックと映画……敬虔なポッパー諸氏の中には、もうこの時点で過去のナンバリングタイトルである「pop'n music 17 THE MOVIE」を思い出している方もいらっしゃるかもしれません。

beatmaniaIIDXなど一部のBEMANI機種と同様に、ポップンミュージックにもタイトル毎にテーマやモチーフが定められています。
「リゾート」「研究(実験)」「食と旅」そして「映画」など……テーマの内容に沿ったビジュアルや収録楽曲が登場することによって、そのタイトルの特色や雰囲気が決まっていくと言っても過言ではありません。
そして「pop'n music 17 THE MOVIE」では、その名の通り「映画」をモチーフにした楽曲やキャラクターが数多く登場しました。

数々の名曲や魅力的なキャラクターを生み出した「THE MOVIE」ですが、このタイトルは"あの"ボス曲を生み出した……生んでしまったタイトルでもあります。

ジャンル名:サイレント
アーティスト:弁士カンタビレオ
曲名:音楽

人生は こんな ありふれた 音楽に 似ている─────

ポップンミュージック以外にもbeatmaniaIIDX、リフレクビート、SOUND VOLTEX(※リミックス版)、DANCERUSH STARDOM(※リミックス版)など多機種に渡り移植されているこの楽曲を知る方は多いと思います。

今回の記事は特に攻略情報などは関係ないので内容の詳細な解説はしませんが、とにかく壮大で素晴らしい世界観の音楽ととんでもないBPM変化ととんでもないラス殺しで長年愛されている名ボスです。

さてさてこの「音楽」、映画をモチーフにしたタイトルのボスを飾るに相応しく、ジャンル名やアーティスト名などに「映画」という文化の要素が散りばめられています。

まずジャンル名の「サイレント」。これは映画という文化の歴史の中でも重要な存在である「サイレント映画」を踏襲していると思われます。

「サイレント映画(無声映画)」とは、映像と同期している音声トラックが存在しない映画のこと。映像のみの作品で、セリフや劇伴はありません。
現代の商業シーンではほとんどサイレント映画は作られていないので、「音声トラックを保存したり、映像と同期させる技術が確立されていなかった時代に作られた、古い映画」を想像していただければと思います。(ちょっとざっくりしすぎているのでガチ有識者の方に怒られそうですが……。)

ここでポップンミュージック映画部らしく(?)「映画」そのものの文化史をほんの少しだけご紹介させて頂きます。

人類史に初めて「映画のようなもの」が登場したのはおよそ1895年頃。今から130年以上も昔のことです。
当時の技術では「モノクロの写真が現実のように動いている」だけでも最先端であっただろうことは想像に難くないと思います。1890年代には、動画と色彩と音声を同時に保存し、再生する手段は未だありませんでした。
つまり当時の「映画」とは、音声による情報が無いことが当たり前だったのです。

映画の始まりは「サイレント」でした。

(当時は無声映画が当たり前だったので「サイレント映画」という言葉はレトロニムになります)

この時点で「音楽」のジャンル名が「サイレント」なのなんかエモくないですか? と大声で言いたいんですが……お次はアーティスト名の「弁士カンタビレオ」に注目してみましょう。

活動弁士(弁士)とは、サイレント映画の上映中にその内容を解説する専任の解説者です。
上述した通り当時の映画は全てサイレント映画なので、音声データは存在していません。
特に当時日本に輸入された映画では、文化的な観点から外国語の字幕を読める観客は少なく、口頭での説明がほぼ必須でした。
日本には元々人形浄瑠璃や歌舞伎など話芸の文化が多彩であったことから、この「サイレント映画の上映中に内容を面白おかしく口頭で解説し、ナレーションする仕事」はどんどん発展、定着していきます。

日本のサイレント映画上映と活動弁士の存在は、謂わばセットだったのです。

映画が日本の娯楽として盛り上がって来た頃には、アイドルやトップスターのように人気がある活動弁士もいたのだとか。
また、弁士の解説には決まった脚本などはありませんから、その解釈や言い回しにはそれぞれの弁士の独自性もあったことが想像できます。「人気弁士」と呼ばれた人達の中には、恐らくその脚本や言い回しの妙が評価されていた方もいたことでしょう。

これを踏まえて「弁士カンタビレオ」を解釈するならば、「サイレント」映画である「音楽」を解釈し語る存在……でしょうか。エ、エモ〜……。

ちなみにポップンミュージックには「本物の活動弁士の語り」が使われている楽曲も存在します。
バージョンは「THE MOVIE」から2作遡り、ナンバリングは15となる「ADVENTURE」。この「ADVENTURE」で初登場した「駕篭の鳥(ジャンル名:交響的物語)」で曲中の語りを務める坂本頼光氏は、現在もご活躍されている活動弁士さんです。
Naya~n氏(楽曲でのアーティスト名義はNaya~n交響楽団 with 坂本頼光)作のこの曲は大正時代辺りの短編サイレント映画をイメージして作られているらしく、この曲をプレーしてみることでも当時の雰囲気を感じることができるかも……?

(※実は初稿を書いた時点では自分はこの情報を全く把握しておらず、オトモライターのアズニィさんに補足いただいて初めて知りました。アズニィさんありがとうございます!)

また、活動弁士は日本で特に発展した職業だったのなら、外国ではサイレント映画はずっと無音だったの? と考えた方がいらっしゃるかもしれません。実はこれもそうではなく、海外では主に「楽器の生演奏と合わせた上映」「映画館で保存しているレコードと合わせた上映」が人気だったそうです。そう、サイレント映画と音楽は切っても切れない関係性だということがここでも分かります……エモ〜……!

なのでサイレント映画の上映には「活動弁士」と「演奏」がセットであることが多かったそうですが、日本では特に弁士が人気で伴奏は最悪あってもなくてもいい、逆に海外では弁士はごちゃごちゃ喋ってて邪魔だからいらない……なんて風潮もあったとかなかったとか。

ちなみに映像に音声を同期させた映画が世間に登場するのは、1920年後半頃……この形式の映画は「トーキー映画」と呼ばれ、現代の映画にほぼ近い形式になりました。
なので現代の映画はほとんど「トーキー映画」なのですが、ほとんどがそうであるが故にわざわざ区別する呼称を使う必要が無いので、今ではあまり聞かない言葉です。

ここまでで「サイレント映画と活動弁士は昔のもの」「今の映画には無いもの」と薄ぼんやり感じた方もいらっしゃるかと思います。事実、今映画館に映画を見に行っても恐らく全ての映画に音声トラックがついているでしょうし、スクリーン前の舞台にピアノが置いてあったり映画の内容を解説している人がいることもいないでしょう。

じゃあ、今「本物の活動弁士ありサイレント映画」を見ることは不可能なのか……?

そんなことはありません。
実は今でも、全国各地で有志の方々によるサイレント映画の上映会が行われています。
それは……我々ポップンミュージック映画部が住まう土地、札幌も同じ─────!

ということで、この流れで実際に我々が「活動弁士の解説&ピアノの生伴奏あり」のサイレント映画を見に行った話を書こうと……思っていたのですが!
前置きにしてはちょっと長くなりすぎてしまったので、次回「ポップンミュージック映画部〜映画を見る音ゲーのオタク編〜」として前後編に分けさせて頂きます。

最後に全国のサイレント映画の上映会情報が見られるサイト「無声映画振興会」さんのリンクを貼っておきますので、この時点で興味が湧いた方は是非チェックしてみてくださいね。

それではまた〜。


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書いた人:矢澤豆太郎
月刊オトモの編集長かもしれません。各ライター陣を脅して原稿を書かせている人とも言います。普段は札幌でアマチュア作家活動などもやってます。好きな音ゲーはポップンミュージックとギターフリークスですが、割とBEMANI全般を満遍なくやってるかも。

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次回の更新は11月3日(土)の予定です。お楽しみに!