『古代戦士ハニワット』の好きなシーン

 最近読んでいる漫画に『古代戦士ハニワット』と言う作品があります。これは『鈴木先生』で知られる武富健治さんの作品でハニワットと言う古代の道具(?)を使って、荒ぶる神様(?)ドグーンを鎮める人たちとその周囲を描いた漫画です。
ジャンルは『仮面ライダークウガ』や『仮面ライダー響鬼』の雰囲気があるヒーロー物ですが、もともとは作者が十代の頃から考えていたお話が元になっているようです。

 今とても人気がある作品で、アクションものが好きな人は必見だと言われていますが、それだけでない魅力もたくさんあります。

私がこの漫画で一番心が動かされた場面は5巻の第4話『解藁の姉妹』で、主人公の一人凛がヒロインの姉と話す場面です。
凛は(おそらく)自分の責任とは言えない形でいろんなものを背負うことになったようです。そのおかげで「ヒーローに変身」できるのですが、そのデメリットも大きいようで、登場後ほとんどの場面で悲しい顔をしています。
 
そんな凛はヒロインにも自分の過去を話して、悲しそうにしています。ヒロインはそれに何も言えません。おそらく凛の嘆きは正当なものです。
「普通の人間だったのに、ハニワットになっていろんなデメリットを背負った、辛い、悲しい、でもハニワットの力を使ってたくさんんの人を守りたい、でも歓迎されないこともある。かなしい」
ある意味正論な嘆きだからこそ、ヒロインは何も言えない。
「かわいそうだね、大変だね」としか言いようがないが、それを言うの悪い気がする。

 私も凛と同じような時期があり一時口癖が「死にたい」の時がありました。あまり私が悪いとは言えないことで、結果として巻き込まれ、しんどいことがたくさんあり、一時引きこもっていましたし、自殺未遂のようなこともしました。
 それは凛が背負っている重さとは違いますが、不幸自慢したい気持ちはとてもわかります。そしてそれが正しいからこそ誰も何も言えないと言うことも何度もありました。

 それが周りからウザがられることもわかりますが、
「私がこうなったのは社会の状態が悪いのを背負ったからだろ、私がこうなるまで消費しきって、都合が悪くなったら、廃除するのかよ」
と言う世界全体への恨み言はなかなか消えませんでした。

 なので『ハニワット』での凛の物語は決して他人事ではない、自分の事のように感じます。

『ハニワット』の物語に戻ります。
 その後、凛はヒロインの姉カナと会話をします。若くしてカナは3人の子どもの母でした。
カナは自分について語り始めました。
カナは巫女を引退しました。巫女の家に生まれた娘の片方は巫女になり、もう片方は家系の維持をするための子作り要因になる必要がある。
カナは19歳で結婚しすでに3人の子どもを産みました。これでも最低限とのことです。
 しかし「これで良かった」と言いまいた。
カナは巫女よりもこちらがしたかったし、巫女の才能も妹の方があった。
 もしも才能がある方が普通の人生を歩みたくて、才能がないほうが巫女になりたかったらお互いがお互いを恨み重ねないといけなかった。
 
最後に凛に向かって言いました「死んだらだめだ、いつか結婚してヒロインと結婚して子供をたくさん産んだら良い」
それに対して凛は「ぼくは「真具土」なんだ」と言います。
「真具土」とはハニワットの種類です。詳しいことはわかりませんが、「生き延びて結婚して子どもを産むこと」が出来ないようです。
 「真具土」のハニワットはすごい力を持っている反面いろんなデメリットがある。「真具土」がどういうものなのか、関係者は知っているだからこそ、凛が不幸自慢した時に何も言えなくなる。

 しかしカナはいいました
「ごめん、それわからない。こっちにまわった時点から詳しいことは一切聞かないことになってるの。その方が上手くいくんだって、どうかな」
 それに対して凛は
「あるとおもいます」
と言いました。
 その夜、凛はカナたちの家で一緒に食事をしました。その中で凛はしあわせな家族をやさしそうに見つめました。
 その帰り道で凛は「日々の営みか」とつぶやきました。

これが私が『ハニワット』で一番好きな場面です。その後のヒロインとのやり取りそこも含めてとても好きです。そちらはぜひ漫画で読んでみて欲しいです。

 凛は辛い思いをして、社会に対していろいろ思うところはある、もちろんカナにだって思うことはあるだろう。

凛は自分が一緒に手に入れることが出来ないであろうものを見て、暗い気持ちもある。しかし自分がハニワットになっているのはこういう人たちの日々の営みを守るためである。

 自分から話題を振って、自分の話したいことは話した後、こっちの話はわからないと言って、さらに自分の自虐に見せかけた自慢を話すカナってどうなのというのと、
 いやでもカナも良かれと思って言ってくれてるし、現にカナの家族を見てハニワットになってる自分を肯定できたよね。

 と言うことも含めてとても好きな場面です。

 他にもこの漫画には良いシーンがたくさんあります。まだまだどんでん返しがいくつも用意されている感じがするので、続きがとても楽しみです。

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