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抗CD3抗体Teplizumabの1型糖尿病リスクのある1型糖尿病患者近親者への投与

はじめに

FDAが1型糖尿病の発症を遅らせる初の薬剤を承認。
米食品医薬品局(FDA)は2022年11月17日、1型糖尿病の発症を遅らせる「teplizumab-mzwv注射剤(商品名:Tzield)」を承認した。

糖尿病リソースガイドから

今回の論文は完全に私がタイトルに惹かれたチョイスとなります。

1型糖尿病では膵臓のβ細胞が自己抗体により破壊され、インスリン分泌ができなくなり、発症後は生存のためにインスリンが必要不可欠になります。
基本的には発症後短期間でインスリン分泌が低下するとされていますが、β細胞を攻撃する自己抗体は、発症の前段階で陽性になることが多く、その段階でなんらかの抗体の働きを抑制できれば1型糖尿病の発症を押さえられると考えられています。

テプリズマブは抗CD3モノクローナル抗体であり、上記の手段の一つとして開発され、今回、FDAで承認されました。

そこで、2019年にpublishされたこちらの論文を読んでいきたいと思います。

背景

1 型糖尿病は、インスリン産生β細胞を破壊し、生存するために外因性インスリン依存状態にする慢性自己免疫疾患である。β細胞の機能の変化は1型糖尿病の発症前段階から始まるとされている。そのため、診断される前の臨床的進展に影響を及ぼすような介入が必要とされている。

*1型糖尿病の病期は以下のように区分されている
ステージ1:耐糖能異常が生じる前
ステージ2:OGTTで糖尿病型を示す
ステージ3:高血糖による臨床症状が出現

先行研究において
ステージ3の1型糖尿病患者ではテプリズマブが対照群と比較してCペプチドの反応低下を抑制した」
という結果に基づき、

本研究(TrialNet TN10抗CD3予防試験)では、ステージ2の患者において、テプリズマブにより1型糖尿病の臨床診断を予防または遅延できるかどうかを検証した。

方法

対象

・1型糖尿病患者の非糖尿病親族で臨床糖尿病発症のリスクが高い
・無作為化時点で8歳以上
・無作為化前の6カ月以内に2つ以上の糖尿病関連自己抗体が検出
・OGTTにて空腹時血糖≧110〜125mg/dL、食後2h血糖値≧140mg/dL

試験デザイン

・二重盲検
・テプリズマブ群またはプラセボ群に無作為割り付け
・14日1コースで投与
・6 か月間隔でOGTTを行い、1型糖尿病への進行を確認

評価項目

主要評価項目:無作為化から糖尿病の臨床診断までの経過時間
サブグループ解析:年齢、HLAタイプ、治療前の経OGTTにおけるCペプチドとグルコース値、自己抗体におけるテプリズマブの効果

結果

主要評価項目

76例(18 歳以下は 55 例 [72%])が無作為化され,44 例がテプリズマブ群,32 例がプラセボ群に割り付けられた
1 型糖尿病と診断されるまでの期間の中央値は,テプリズマブ群 48.4 ヵ月,プラセボ群 24.4 ヵ月であり,診断されたのはテプリズマブの投与を受けた参加者の 19 例(43%)とプラセボの投与を受けた参加者の 23 例(72%)であった

臨床的糖尿病と診断されなかった参加者の割合のカプラン・マイヤー推定値。
右上は、試験終了時のデータ。

有害事象は以下の通りで、リンパ球減少、皮疹を認めた。

試験中に生じた有害事象

T細胞無反応と関連する、KLRG1+ TIGIT+ CD8+ T 細胞の頻度は,テプリズマブ群のほうがプラセボ群よりも高かった。
一方、CD4+制御性T細胞やKLRG1- TIGIT- CD8+ T細胞の頻度は両投与群間で有意差がなく、テプリズマブの効果に選択性があることが示唆された。

サブグループ解析

HLA-DR3陰性、HLA-DR4陽性、抗Zn-8抗体陰性の参加者では、テプリズマブ群のほうがプラセボ群よりも糖尿病と診断された参加者が少なかった。

サブグループ解析

研究の限界

・コホートは比較的小規模
・対象は1型糖尿病患者の親族であり、糖尿病の近親者がいない、1型糖尿病のリスクが高い人に一般的に適用できるかどうかは不明
・非ヒスパニック系白人の参加者に偏っている
・1コースのみの投与のため、反復投与の効果は不明

結論

テプリズマブにより、高リスク者の臨床的 1 型糖尿病への進展が遅延した。

My Comment

糖尿病リソースガイドを流し見している時に、衝撃を受けたこのニュース。FDAでこの薬が承認されたということで、今回関連の論文を読んでいました(勉強不足で情報遅すぎなことは許してください)
この論文のIntroでもあるように1型糖尿病患者さんてやっぱり治療費がネックになってくるのと、インスリン完全枯渇だとコントロールも難しいし、発症を遅らせられるのならば、それほどうれしいことはないと思います!
ただ、問題なのはこの薬の適応となる方がかなり限られそうな予感(1型糖尿病患者さんの近親者だとしても、軽度の耐糖能異常でかつ、高額かもしれないテプリズマブの使用にうなづいてくれるのかという問題、また1型糖尿病の近親者がいないリスクの高い患者は拾い上げるのがそもそも困難なこと)がすることですね。
また今後の動向を見ていきたいところであります。

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