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甲状腺機能亢進症における甲状腺ホルモンの急速な減少によるミオパチー

はじめに

まず自施設で経験した症例について報告させてください。
X-1年7月、FT3 15.0、FT4 3.07、TSH 0.000、TRAb陽性でバセドウ病と診断してMMI 15mgで治療を開始した症例です。

X-1年7月からX年11月までの経過

X-1年9月頃より筋肉痛・CK上昇あり、副作用の可能性を疑い、MMIは一旦中止、その後CK上昇については運動の影響の可能性が高いと判断し、少量から再開していました。その後も運動と関係なく、筋肉痛・こむら返りがありましたが、教科書上でも甲状腺機能が正常化する過程で筋痙攣がよくみられるとのことで治療継続していました。

甲状腺機能は改善する一方で、筋症状は増悪、MMIそのものによる薬剤性のミオパチーの可能性も考慮して、MMIを漸減中止しKIにて治療を行おうか、、と思っていた所でしたが、その後の外来で症状が改善したため、薬剤性のミオパチーではなく、甲状腺機能正常化に伴うものと判断し、現在も治療を継続しています。

ここで、甲状腺機能が正常化する経過でどうして筋肉痛が出現するのか気になったため、いくつか論文を探してみました。

論文では「甲状腺ホルモンの急速な減少に起因する相対的甲状腺機能低下症」としていくつか報告があったので、その一つを備忘録として残そうと思います。

背景

甲状腺機能異常患者では筋骨格系の症状や徴候がよくみられる。これは骨格筋が甲状腺ホルモンの主要な標的であるためである。甲状腺機能亢進症では主に筋力低下などの症状が出現し、CK上昇は見られないが、甲状腺機能低下症ではCKの上昇とともに筋肉痛やけいれんが生じる。
近年、甲状腺機能低下症を認めない患者において、甲状腺機能亢進症の治療中に筋肉痛とCK上昇を示す例が報告されており、これらのミオパチーの原因として相対的甲状腺機能低下症が提起されている。今回、治療中に甲状腺機能が急速に正常化し、筋肉痛とCK上昇を呈したバセドウ病患者を報告する。

症例報告

症例は20歳女性、2014年3月、2か月前からの動悸、手の震え、体重減少等で外来を受診、TSH <0.005mU/L、FT4 63.3pmol/L、FT3 28.7pmol/L、TRAb陽性でバセドウ病の診断となった。
PTU 100mg、メトプロロール25mgで治療開始、1か月後前述の症状は改善し、FT4は低下(33.27pmol/L)したが、新規に軽度疲労感と筋肉痛が出現、AST軽度上昇しておりPTU→MMI 30mg/日に変更となった。
さらに1か月後、両肩と大腿部の疲労感、筋肉痛が出現、髪をとかすことやしゃがむのが困難であった。CK 228U/Lと上昇、FT4 29.97pmol/Lに低下したためMMI 30→20mg/日に減量した。
2014年6月、非常に強い筋肉痛を認め、FT4は大きく低下(12.27pmol/L)、CK高値(5058U/L)であった。その後、FT4 8.40pmol/Lに低下した時点でMMIを中止。中止後1週間後にFT4 13.16pmol/Lまで上昇、CK 1482U/Lに低下し、筋肉症状は徐々に回復した。さらに1か月後、CK 196 U/Lまで低下した。
2014年9月に根治療法としてアイソトープ治療が行われた。

図1;治療経過

考察

甲状腺機能亢進症患者では、TSH正常化時に筋肉痛とCK上昇が時々観察されるが、その病因としては、甲状腺中毒症、甲状腺中毒性低カリウム性周期性麻痺(THPP)、TSH急減による相対的甲状腺機能低下症などが考えられる。本症例では症状出現時期やKは期間を通して正常であったこと、ATDの中止なしに改善されたことから、原因として相対的甲状腺機能低下症がミオパチーの原因と考えられた。

実際の臨床では相対的甲状腺機能低下症なのか、ATDの副作用なのか判断するのは難しい。

MMIの開始後2~8週間で筋症状が出現したが、甲状腺機能低下症を示唆する検査所見を伴わず、MMIは継続し、LT4を併用することで症状が改善し、ATDの副作用を明確に否定した症例の報告もあるが、ミオパチー出現中の治療方針としては限定的なものである。

ミオパチーの正確な機序は不明だが、筋組織に甲状腺ホルモン受容体が広く分布していることから、甲状腺ホルモンの低下が正常範囲内であっても、急激な甲状腺ホルモンの低下に反応して筋細胞の傷害とそれに続くCKの上昇が生じる可能性がある。また報告例のほとんどがアジア人であることから遺伝的要素も疑われている。

臨床においては、ミオパチーのリスクを最低限にするためFT4の低下は緩やかに行うこと、またLT4の補充に関わらず、相対的甲状腺機能低下症が疑われた場合は適宜ATD量を調整する必要があると考えられる。

My comment

私の症例もMMI継続した状態で症状が改善しており、おそらく相対的な甲状腺機能低下症だったのだろうと考えています。筋肉痛が改善傾向を認めたのがちょうどTSHが4を超えたくらいのタイミングでした。私の症例では結局MMIを気合で継続した感じになっちゃったのですが、一旦LT4を併用してATDによるミオパチーなのか、相対的甲状腺機能低下症なのかある程度判断してもよいのかなと思いました。





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