パンデミック中の友人
既婚者の男性の友人がいます。
4年ほど前に知り合いました。友人の奥さんには当初私が彼女の視界に入っていませんでした。
巨大な女です。背も高く太っていて、まんまるの顔です。目と目の間が離れています。あまりオシャレには興味がない割に、目立つことが好きな人です。私は個人的にこの女性を熊と呼んでいます。
実はあまりこのご夫婦のことを知りません。ただ、友人とは趣味の集まりで一緒になる関係、よく話をします。とても高潔な感じで憧れます。ちょっと同業者でもあるので、相談もされます。そのことから、今、熊から激しく嫉妬されています。
とりあえず、熊さんのお話をしましょう。要するに自己肯定感がない人だと思います。アイデンティティということばがありますが、これは何でしょうか。恐らくある意味、自分の軸があって、ブレない人だと思います。世の中が見えず、自分が周囲の人の間で最も美しいと思っているところにもっと美しい人が現れて、周囲もその人にぞっこんになったとします。今まで確立されていた「自分が一番」像が脆くも崩れる瞬間です。自分の信じるアイデンティティ、「自分はこうだ」にブレが生じるのです。ただ、これは単に悪いことではないと思います。世の中を観るきっかけを与えてくれる瞬間なのです。
熊さんは、顔が笑っていても目は決して笑っていません。目には怒りと不安が漂っています。夫や実家家族・親戚一同が面倒みてくれるので子育てプチネグレクト、ありとあらゆるダイエットに金をつぎ込む、語学を習いたがる、そして、家族がいながら外国に留学も考えています(40歳くらいの方ですが)。問題は友人の仕事に支障をきたしていることです。友人が子育てで自分の仕事ができない。かなりフレックスな仕事なのでなんとかなっているようですが。そのストレスから私へ相談の電話が。内容は全く違うことでも、何となく様子でわかります。「助けてーー、乙姫さん!」という友人の心の叫び。Oh, my God!
ただ、いくら憧れでも、私は友人に言いたい。「おい、男! おまえんちの母ちゃん変だよ! 母ちゃんに言ってやれ! 目を覚ませ! お前は単に井の中の蛙だ!」と。熊さんに言われるままに振り回されている友人よ、だめだよ、お前がしっかりしなくちゃ。奥さんに鏡と巻き尺買ってやんなさい。そして、言ってやんなさい、「よく見ろ、その笑ってない目、不安な目、そのメタボウエスト、ぼさぼさの洗ってない髪! いっしょに治そう、きれいな奥さんになってよ」て。
友人は恐怖におののいています。熊さんが爆発しないように一生懸命押さえています。仕事しながら3人の子どもの子育てもしています。熊さんを褒めたたえたり、笑わせたり努力しています。なぜか全くの他人の私が友人には頼られ、その奥さんには嫉妬されています。理不尽です。
ただ、私にはある仮説があります。二人の関係が表面的にでも、うまくいくようになったら、「あら、私たちは昔っから最高の夫婦よ❤」と言いだすと思います。要するに、二人一緒に同じ穴ワールドの住人なのです。横暴で自己肯定感が低い熊さん。その熊さんのご機嫌をとるしかない男。でも、息が合えば、とりあえずいいか...。二人にはそういう匂いがします。この状態が続く限り、友人の夢は達成しないでしょうし、家族のプロジェクトと思っていることは彼の単なる妄想で終わってしまうでしょう。熊さんもフェイク自信を纏って、次に自信を失わない限り穏便に過ごしていけるでしょう。
パンデミック自粛の前に電話など貰ったことがなかったのですが、趣味の集まりがなくなり、友人もどうしようもなかったのでしょう。前代未聞の自粛生活で時間にもスペースにも変化が起こりました。この自粛期間は何度もお電話いただいて、単に彼の話を聞いていました。時には1時間以上話していたこともありました。電話は子どもを連れて近くの公園に行っている時にかけてくれることからも、ああ、ストレスで誰かと話たいんだな、と想像がつきます。
1日も早く、気づいてほしいですね、これ以上時間を失わないためにも。
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