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山城にのぼる

山城の跡に登る

山道の始まりは
馬でも登れると思うくらい
緩やかだった

青々とした緑の中に
赤い野苺をみつけたあなた

食べてごらん、と
小さな私の手に一粒おいた

小さな赤い粒を噛むと
酸味と爽やかな甘味がまざって
少し青い香りもした

見慣れない野苺が
癖になって
進むたびに見つけては口に入れる

そんな私を
眼鏡越しに見つめる
あなたの眼差しはとても優しかった

中腹にさしかかると
傾斜が急になる

前をいくあなたの背中は
年齢を感じさせず、凛としていた

陥落するのが難しい
この城の道は、流石に険しかった

台風で娘を亡くしたあなた
そのせいか、過保護に育てられた私

そんなあなたと
こんな険しい山を
登る日がくるなんて
思いもしなかった

険しい顔ひとつせず
淡々と足をすすめる姿に
知らないあなたの一面を見た

山頂の手前にきたのか
山の上からロープがおろされていた

しっかりとロープを握り
足を踏ん張りながら
つたって登る

すると見上げた先に
緑の途切れる場所がみえた

大きく一歩を踏み出して
緑の切れ間を抜けた瞬間

見渡す限り
大好きな街が広がっていた

街を見おろすように
小さな祠がポツンとある

祠にお参りして、
あなたと私が暮らす街を
2人で見おろした

行ったことがないであろう場所も
隅々までみえていた

ひときわ大きな川の水面
照り返す黄金色の光が
街を包んでいた

山の風は涼しく
身体を通りぬけては
私の熱をぬぐっていく

もう少しこのまま
この景色を眺めていたい