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「ロア:ヒトならざるモノ」第5話(完)

◇ 5 ◇ 「せーんせ、おべんと作ってきたよ〜」  昼休み。化学準備室にいるソフィアのもとに、めあがやってくる。手には一つのランチトートがあり、その中には二つのお弁当箱が入っている。  ソフィアはお弁当箱をありがたく受け取り、手を合わせて「いただきます」と告げてから、二人でお弁当を食べ始めた。相変わらず、めあのお弁当箱はソフィアの半分ほどしかない。 「恋ヶ崎さんは、主食はどうしているの?」 「え? お米食べてるじゃん」 「……そういうことじゃなくて。夢魔なんだから、みだらな

    • 「ロア:ヒトならざるモノ」第4話

      ◇ 4 ◇  本当に恐ろしいものは、一体どんなものだろう。悪魔、悪鬼、荒御魂。どれも確かに恐ろしいロアだけれど、どれも違う気がした。  ソフィアは夜の暗闇の中にいる。左耳につけたイヤホンマイクからは、めあの声が聴こえていた。 『ハロー、先生。気分はどう?』 「良いとは言えないわね」 『あは、同感』  ソフィアは公園の茂みに身を隠している。めあは中央広場の噴水の前で、スマートフォンをタップしていた。めあの打ち込んだメッセージは音声変換されソフィアのイヤホンに届き、ソフィアの発

      • 「ロア:ヒトならざるモノ」第3話

        ◇ 3 ◇  5年前。恋ヶ崎めあは11歳で、近所の小学校に通っていた。一度帰宅してから駅前の学習塾に向かい、中学受験のための勉強をしてから再度帰宅すると、いつも香ってくる夕食の匂いはどこにもなかった。それどころか、濃厚な鉄錆の匂いがした。それが血の匂いだと気づくのには時間が掛かった。何せ、大量の血の匂いなど嗅いだことがない。 「おや。この家の娘ですか?」  おそるおそる廊下を進み、リビングに続く扉を開けると、両親がダイニングテーブルのそばで倒れ伏していた。その近くには、黒い

        • 「ロア:ヒトならざるモノ」第2話

          ◇ 2 ◇ 「先生って、拳銃持ってて怒られないの?」  昼休みの化学準備室。お弁当を食べながら、めあがソフィアにそう訊ねた。  屍鬼騒動から数日が経ち、学校はようやく元の平穏を取り戻しつつあった。『聖櫃』による調査も終了していて、校内に関係者が立ち入ることもなくなっていた。 「ええ。発砲するごとに報告書を書かないといけないけれど」 「ふうん、大変だね。じゃあ先生も報告書提出したの?」 「ええ」  めあのお弁当箱は、めあの可憐な容姿に違わず、小さくてまるでおままごとのようだっ

        「ロア:ヒトならざるモノ」第5話(完)

          「ロア:ヒトならざるモノ」第1話

          ◇ 1 ◇  夢の中で、神坐ソフィアは、濁った景色の中でバッドロアに向けて銃を構えている。夢の中のバッドロアに、定まった形はない。黒い靄のようなものがぐにゃぐにゃと揺蕩って、ソフィアに対して敵意を向けている。ソフィアはきわめて冷静に、黒い靄に向かって銃弾を放った。靄は銃弾を受けて千々に散らばる。ソフィアはそれを見て、ふう、と息を吐く。  この世には、ロアと呼ばれる生物がいる。かつて空想上の生物とされていたモノたちの総称だ。天使や妖精、それから悪魔。あるいは妖狐や八咫烏。そうい

          「ロア:ヒトならざるモノ」第1話